3話:星宮 琉奈
真昼視点②:
鏡花ちゃんはその日掃除当番だった。いつもだったら鏡花ちゃんを待ってから帰るのだが、少しだけ気まずくなってしまい、先に帰った。まだ何の返答をすればいいかわからなかった。それにゴンちゃんもどっかに行ってしまったみたいで一人で帰るしかなかった。
一人で帰っていると一人の女の子が目に入った。一見気にすることもないような普通の女の子なのだが、その子は何か独特の雰囲気を発していた。何故かはわからない。でも、多分同じ魔法少女だろうなと思っていた。鏡花ちゃんは魔法少女に出会ったとしてもいきなり話しかけるなと言っていた。実際いきなり襲ってくるかもしれないからだって。
「こんにちわ」
怪しまれないように挨拶だけはしておく。嘘をつくコツはいつも通りの生活をすることだと鏡花ちゃんは言っていた。
「ねえ、あなた。魔法少女でしょ」
「え!?」
どうしてバレたのか。
「ち、違います!」
そう言って逃げようとした。
「いやいや、普通違いますって言わないから、それにマスコットが後ろで見てるじゃん」
後ろを見ると電柱からわかりやすくゴンちゃんが見ていた。
「ダモッ!」
今朝私が家に連れて行かないと言ったから、こっそりと後ろからついてきていたのだ。
そう言って彼女は回り込んで来た。
「まあ、話だけ聞いてよ。取って食ったりしないからさ」
「うーん」
困った。普段こういった対応は全て鏡花ちゃんがやってくれているのだ。
「いやあ、この町の魔法少女に会いたかったんだけど、どうやって見つけようかと考えていたんだけどさ。早速見つかってよかった」
「あ、あの」
「あっ、困っていることない? こう見えて結構経験豊富だから困っていることとか解決できるよ」
「あの!」
混乱して何も話が入ってこない。そもそも私は交渉事とか苦手なのだ。
「あっ、ごめん」
「いえ、こちらこそごめんなさい。あの、それで私じゃ判断難しいので、連絡してもいいですか?」
「え? ああ、まだ他にもいるからってこと?」
「はい! 私自慢じゃないですけど、頭脳担当じゃないので!」
「本当に自慢じゃないな」
一言断りを入れるとスマホで鏡花ちゃんに連絡する。鏡花ちゃんから一番に連絡するようにと教え込まれているのだ。それに実は結構テンパってて、さっきから心臓の高鳴りが凄い。ゴンちゃんもまだ電柱の後ろにいるし。
「もしもし! 鏡花ちゃん! 助けて! 今、他の魔法少女が目の前にいるの!」
ブツッとは鳴っていないのだけど、鏡花ちゃんは返事することなく、電話を切った。鏡花ちゃんにはこれで伝わっているだろう。
「大丈夫です! これで呼びました!」
鏡花ちゃんが来るというのに、まだ名も知らない少女は不安そうな顔をしていた。
ゴンちゃんが近づいてきた。
「なあ、その言い方だと勘違いされるんじゃないかモ?」
「え? 勘違い?」
「あの、もしかして勘違いだったら申し訳ないんだけど、私が襲うと思ってる?」
「え? 襲うんですか?」
一体、さっきから二人は何を言ってるんだ?
「いや、襲わないんだけどさ。どう考えてもさっきの電話、襲われそうな人の電話じゃなかった?」
「え? だって鏡花ちゃんに助けを求めましたよ」
「いや、そうなんだけどさ。その鏡花って娘がもし私を敵だと思っていたら———」
その時、目の前の少女は変身して、大きく後ろに飛んだ。その後、硝子の剣が彼女がいた場所に突き刺さった。
「あっ、あぶねええ!」
焦る少女の声が響いた。目の前を確認すると変身した鏡花ちゃんが私の前に立っていた。変身した鏡花ちゃんはカッコいい。真っ黒なケープコートに大きな硝子のボタンが燦然と輝く。元々真っ黒な髪の毛は赤のインナーカラーが入り、その上に軍服のような帽子が乗っかっている。真っ黒な瞳に真っ黒なマスクで全身真っ黒ではあるんだけど、ショートパンツと長い靴下の間の真っ白な太ももに目が吸い込まれる。あれで生えていないというのだから羨ましい。それに普通の大人ですら易々と持てないような硝子の両手剣を片手で持ち、私を守るように立っていた。
「怪我はない?」
「う、うん、ってそうじゃなくて———」
目の前の魔法少女の恰好にも目が奪われていた。白と黄色を基調としたワイドスリーブの中華風のドレスにミニスカートが似合っている。それにフリルが付いた可愛らしいエプロンがまたいい。というか変身後は髪の毛がお団子になるんだ。可愛い! そういう変化もありだな。それにこの子も足細いな。鏡花ちゃんもだけど、足細いの羨ましいな。
「何やってるの! 早く変身して!」
鏡花ちゃんが急ぎながら言った。
「ま、待って、まだダイエットしてないから」
この二人の前でだらしない太ももを晒すのは少し勇気がいる。
「何言ってるの? あなた」
鏡花ちゃんの冷たい目線が刺さる。
「鏡花ちゃん。勘違いダモ」
ゴンちゃんからのアシストが入る。
「そう! 敵じゃない! 敵じゃないから!」
そう言っても警戒を解かない鏡花ちゃんに説明した。
「さっき会ったばかりなの!」
「それはまだ敵じゃないだけでしょ」
「確かに」
「確かに、じゃないわ! コントで殺されてたまるか!」
「さっきのは真昼がてんぱって電話しただけダモ」
私が間違えたのにゴンちゃんが詰められている。ごめんね。
「それについてはごめんなさい」
「いや、いいよ。他の魔法少女を警戒する気持ちもわかるし」
「謝る対象が違うでしょ」
しかし、さっきのアイコンタクトはどうやら違ったらしい。
「え!?」
「まずは私にごめんなさいでしょ」
「そっちダモ!?」
長年の付き合いでも鏡花ちゃんがボケて言っているのか微妙にわかりずらかった。
「え? え? ごめんなさい?」
「いや、あってるよ。私にごめんなさいで! ていうかお前も謝れや!」
「それで貴方は誰なの?」
その華麗なツッコミを一切無視して鏡花ちゃんは続けた。
「そう言えば名前聞いてなかった」
「名前も言わずに危うく殺されそうになったよ。私は星宮 琉奈。流れの魔法少女」
「魔法少女ってそんな流れるものなの?」
「流れに身を任せれば流れていくよ」
どうやらそういうものらしい。さっきまで武器を向けられたにも関わらず、こうやってお喋りができるのだから、たぶん相当精神が図太いんだろうなと思う。
「ふ~ん。それで目的は?」
「目的っていう目的はないが、むしろ変に警戒させるより挨拶でもしておこうと思ったって感じだな。まあ、最初に攻撃されちゃったけど」
多分、皮肉のつもりだったのだろうが、鏡花ちゃんはそれを気にせずに続けた。
「成る程ね。つまりここにしばらくいるつもりってこと?」
「そうなるな。まあ、駄目っていうなら、また何処かに流れるだけだ」
「いいわ。勝手にして」
「———いいのか? いきなり武器向けられたというか、振り回されたから駄目なのかと思ったんだけど」
「貴方が何を考慮しているか知らないけど、別に貴方が好きな場所にいることに私の裁量は必要ないわ」
まあ、鏡花ちゃんはそう言うだろうな。
「ただそれは私の決定。真昼がどうかは知らない」
「私も大丈夫」
そもそも私はいきなり武器を向けようとは思ってはいない。
鏡花ちゃんは何か考えることがあるみたいで、琉奈ちゃんに提案した。
「ただ———、ここにいる以上手伝ってはくれるのでしょう?」
「それは勿論だ」
そう言い切ると鏡花ちゃんは振り向いて去った。
「鏡花ちゃん何処行くの?」
「学校」
そうぶっきらぼうに言い放った。
「おバカさんのせいで荷物を置いてきてしまったもの」
もう一度変身すると空高く跳んでいってしまった。
「お前さん達喧嘩してんのか?」
「あはは」
力なく笑うことしかできない。
「———そうではないんだけどね」
喧嘩はしてない。喧嘩は。
「あれ? ゴンちゃんは?」
「さっきのマスコットか? 帰り際に連れられていったけど」
「そうだったんだ」
流石に初対面だからって明け透けに話すわけにもいかず、でも他の町の魔法少女に興味があったから、色々質問してみた。
「どこから来たの?」
「うーん。あっちのほうから?」
「流れてきたって引っ越してきたってこと?」
「まあ、大体そんな感じかな?」
全ての質問を濁される気がしてもう少し踏み込んで質問してみる。
「引っ越さずにむしろどうやって住んでいるの?」
「あーいや、ちょっと言いづらいんだけどさ」
普通にドン引きされたくなかったからと言って笑った。
「ホームレスやってる」
その時の私はまるで世界自体が揺れるような衝撃を受けた。
「ええー!?」
「なんで? お父さんは!? お母さんは!? あっ、普通聞いちゃ駄目か。やっぱ今のなし」
失礼かもだけど、そんな人が身近にいるとは思ってもいなかった。
「え? お風呂とかどうしてるの?」
「いや、そこら辺は魔法の力で何とかしているよ」
「ええ! 家来なよ」
するっと口から出た。言った後に、多分鏡花ちゃんに言ったら絶対に止められると思った。
でも、そうするべきだと思ったし、言ったことを後悔してない。
「いや、そういう気遣い大丈夫だって。それにお前にもお父さんとお母さんがいるんでしょ。悪いよ」
「いや、絶対に大丈夫だから!」
琉奈ちゃんは遠慮するというよりはむしろ嫌がっていたというのが正しいかもしれない。でも、そんな琉奈ちゃんを説き伏せて、私は無理やり家に連れてきてしまった。
正しいことをしたと思っているし、お母さんもお父さんもきっと間違っていないと言ってくれると思う。ただ、鏡花ちゃんだけは絶対に反対するだろうなというのが脳裏をよぎった。
お父さんとお母さんは当然許してくれた。夕食を一緒にとって、お風呂も入って、後はもう寝るだけというところまで来た。ベッドを譲ったんだけど、リュナちゃんは布団で寝るといって聞かなかった。私としては修学旅行の夜みたいで楽しかった。
「やっぱりありがた迷惑だったよね」
とは言えど、無理やり連れてきたという自覚はある。
「ああ、いや、そんなことないよ」
「いや、嫌がってるのをわかって無理矢理誘ったから」
そういうと琉奈ちゃんは少し図星がつかれたという様に閉口した。
「———苦手なだけで、嫌じゃない」
「そう? じゃあ、よかった」
本当に嫌がられたいわけじゃないから。
「こうやってお家に呼んだのは、他の魔法少女のこと知りたかったからなの」
「私、そんなに他の魔法少女知らないぞ」
「じゃあ、琉奈ちゃんのこと話してよ」
「そんなこと言われたって何話せばいいかわかんないよ」
「じゃあ、好きなもの!」
「———いちご」
「じゃあ、嫌いなもの!」
「納豆」
「じゃあ、好きなアーティストとか芸能人とか」
「魔法少女に関係あるか!?」
「いや、だって魔法少女のこと何聞けばいいかわからないし。能力とか教えてくれないでしょ」
鏡花ちゃんは知らない魔法少女に会ったら、能力をみだらに話すなと言っていた。
「いや、聞かれたら、答えるけどさ。ああ、もう。女子っぽいトーク苦手なんだよ。アーティストとか芸能人とかよくわかんないし」
「ユーチューブとか見ないの?」
「そもそもスマホが必要ないし」
「どうやって生活してるの?」
「前にちょっと働いていて、そのお金がある」
「児童労働じゃない?」
「一応アルバイトだ」
あんまり言いたくなさそうなの、話を変えた。
「琉奈ちゃんは今まで他の魔法少女に会ったことがある?」
「———あるよ」
「今まで会った魔法少女に向いていないと思ったことはある?」
「うん? いや、ないな」
「そっか」
じゃあ、少し残念。
「じゃあ、もし魔法少女に向いていない子がいるとして、向いてないって言う?」
「それは———」
聞き方が悪かったとすぐに気づいた。琉奈ちゃんを見るとこちらを見ていた。
「それは条件によるよ。適当なこと言えない」
「———そうだよね」
そこからしばらく黙って寝たふりをした。
鏡花ちゃんには嘘が下手とか言われる。人狼とか苦手だし、こんな感じで迂遠に聞くのは下手なのにどうしてやってしまったのか。
「まあ、でも、止められるタイミングがあるんだったら止めてもいいんじゃない?」
それは———。
寝ているふりを解除するべきかどうかわからなくて、何も言えなかった。
「寝ちゃったか」
寝たふりのままそのまま寝てしまったのは自分でもどうかと思う。




