4話:「フェアじゃないんダモ」
ゴンちゃん視点①:
「どうしようダモ?」
真昼ちゃんに色々と教えたつもりになっていたら、怒って家に入れてくれないことになった。一般の人間には見えないと言えど、流石に夜の間に彷徨うのは勘弁願いたい。
「これだからガキは嫌なんダモ」
放課後のチャイムが鳴ると真昼ちゃんに近づいた。まあ、鏡花ちゃんと一緒に帰るだろうから、さりげなく付いていってやろうと思った。
と思ったらコソコソと帰宅の準備を始めて、帰ってしまった。
「やっぱり気まずくなってるじゃないかダモ」
気づかれないように後ろから近寄る。
鏡花ちゃんならともかく真昼ちゃんはこういうのに一切気づかない。
なんなら上手くやれば、家に侵入できるんじゃないか?
そう思っていた矢先だった。
不思議な雰囲気のある少女が目の前にいた。
あれは多分魔法少女か。
しかし、真昼ちゃんか。なんか真昼ちゃんって抜けてるからな。変なことしないといいけど。
あっ、指さされた。バレたな。こりゃ。
楽し気に喋っているから大丈夫なのかな?
近づくと会話がきちんと聞こえてきた。
「いえ、こちらこそごめんなさい。あの、それで私じゃ判断難しいので、ラインしてもいいですか?」
どうやら鏡花ちゃんを呼ぶかどうかの判断をしているらしい。まあ、真昼ちゃんが勝手に判断するよりはいいけど、助け船が必要かね。
「もしもし! 鏡花ちゃん! 助けて! 今、他の魔法少女が目の前にいるの!」
僕が近寄るよりも早く鏡花ちゃんに連絡してしまった。電話はそれで終わったようで真昼ちゃんは満足そうに携帯をしまった。
「———」
思わず閉口した。大丈夫かよ。
「大丈夫です! これで呼びました!」
「なあ、その言い方だと勘違いされるんじゃないかモ?」
「え? 勘違い?」
「あの、もしかして、勘違いだったら申し訳ないんだけど、私が襲うと思ってる?」
「え? 襲うんですか?」
良かった。この少女も同じ判断をしてくれた。あとは鏡花ちゃんが早とちりしないといけないんだけど、こうなったら早とちりではないだろう。
「いや、襲わないんだけどさ。どう考えてもさっきの電話、襲われそうな人の電話じゃなかった?」
「え? だって鏡花ちゃんに助けを求めましたよ」
「いや、そうなんだけどさ。その鏡花って娘がもし私を敵だと思っていたら———」
その時、目の前の少女は変身して、大きく後ろに飛んだ。その後、硝子の剣が彼女がいた場所に突き刺さった。
「あっ、あぶねええ!」
おお、よく避けた。
おっ、しかも、魔法少女の服装可愛いじゃん。
それに相変わらず鏡花ちゃんの太ももエッチだな~。
そう思っていると鏡花ちゃんにギロッと睨まれた。
心まで読まれてないよな?
「怪我はない?」
そんな思惑を知ってか、知らずか目の前の真昼ちゃんを気にしだした。
「う、うんってそうじゃなくて———」
やっぱり、敵だと思っているみたいだ。
「何やってるの! 早く変身して!」
「ま、待って、まだダイエットしてないから」
何言ってるんだこいつ。
「何言ってるの? あなた」
「鏡花ちゃん。勘違いダモ」
僕が弁解してやらないと取り返しがつかないことになりそうダモ。
「そう! 敵じゃない! 敵じゃないから!」
だけど鏡花ちゃんは警戒を解かない。
「さっき会ったばかりなの!」
「それはまだ敵じゃないだけでしょ」
「確かに」
「確かに、じゃないわ! コントで殺されてたまるか!」
おお、良いツッコミだ。ってそうじゃない。助け船を出さないと。
「さっきは真昼がてんぱって電話しただけダモ」
早く言えと言わんばかりの冷たい目をされた。
いや、お前が先に剣を抜いたんだろ。
「それについてはごめんなさい」
真昼が謝ると名前も知らない魔法少女が少しだけ近づいてきた。
「いや、いいよ。他の魔法少女を警戒する気持ちもわかるし」
と二人が和解しようとしたときに、鏡花が口を挟んだ。
「謝る対象が違うでしょ」
「え!?」
「まずは私にごめんなさいでしょ」
鏡花のそれはボケてるんだよな?
「え? え? ごめんなさい?」
何もわからず真昼が謝る。
「いや、あってるよ。私にごめんなさいで! ていうかお前も謝れや!」
凄いぞ。この魔法少女。初対面の鏡花に対してツッコミができるなんて中々見どころがある。
「それで貴方は誰なの?」
今日の鏡花ちゃんはエンジンフルスロットルだ。
「そう言えば名前聞いてなかった」
「名前も言わずに危うく殺されそうになったよ。私は星宮 琉奈。流れの魔法少女」
へえと思いながら、三人から少し離れていった。
後は若いのにお任せしますよ。
疎外感を感じたからとかではなく、少しだけ考えごとをしたくなった。女三人寄れば姦しいと言うが、気が散るので、少しだけ離れる。改めて魔法少女について考え始める。真昼ちゃんと鏡花ちゃんの二人は僕が魔法少女にした。でも、その方法もわかっていない。では、他の魔法少女っていうのは、一体何なのか。もしかしたらあの子に聞いてみたらちょっとはわかるかもしれない。
「うわっ」
考え事をしていたら、身体が宙を浮いた。
「鏡花ちゃん何するんダモ!」
ガシリと手で掴まれて、頭が変形している。鏡花ちゃんが身体を掴みながら、町を跳びまわる。本当に人形みたいに扱うのは鏡花ちゃんしかいない。真昼ちゃんはある程度は生物として扱ってくれるから、目を瞑っていてもわかる。
「貴方の頭の中は空洞なんだから大丈夫でしょ」
「ちがうダモ! 綿がいっぱい詰まっているんダモ」
「———やっぱり空っぽじゃない」
相変わらず当たりが強い。
「僕が何したんダモ?」
「貴方が何も言わずに離れるから悪いことをしないように捕まえておこうと思って」
「そんなことしないんダモ! ただ、ちょっと考え事をしたくて離れただけダモ」
「考え事?」
「いや、普通に外の魔法少女を初めて見たからどうなっているのかなって? あの子はマスコットが近くにいないみたいだし」
「ねえ、貴方って本当に記憶がないの?」
「そう言ってるダモ」
「ふ~ん」
信じているのか信じていないのか鏡花は黙った。
というか一つだけ気づいたことがあった。
「もしかして鏡花ちゃんも気まずくなってその場にいられなくなったんじゃないんダモ?」
あれだけ真昼ちゃんも気まずそうにしていたんだ。鏡花ちゃんも表情こそ平静を保っているが、気まずくなったんじゃないだろうか?
「ふ~ん」
「おっ、図星? 図星だったんダモ?」
突如鏡花ちゃんが高く跳びあがった。
「ちょ!」
「飛んでいきなさい!」
「ダモ~~~~~~~~!」
やっぱり鏡花ちゃんの扱いは酷い。
でも、多分本当に図星だったから、投げたんだろう。
まあ、別に鏡花ちゃんの気持ちがわからないでもない。
鏡花ちゃんはきっと真昼ちゃんにやって欲しいことがあるのだ。
真昼ちゃんに自分自信でわかってほしいのだと思う。
だから口を出さない。
鏡花ちゃんのやり方もやり方で問題があると思うが、そこは見守ろうと思う。
しょうがない。二人の若い少女たちの成長は見守ってやらないといけない。
大人というものはそういう役割であるべきだ。
まあ、それはそれとして。
「鏡花ちゃん~~~! 謝るから助けてほしいんダモ! 木に引っかかって取れないんダモ!」
鏡花ちゃんは一瞥して、どこかへ行こうとしていた。
「鏡花ちゃん? 鏡花ちゃん!? 鏡花ちゃん~~~!?」
鏡花ちゃんが学校に行って戻ってくるまでそのままだった。
いずれ仕返しをしてやる。
「げへへへ、鏡花さん、お荷物持ちましょうか?」
しかし、今は雌伏の時、靴を舐めてでもご機嫌を取らないといけない。
「いらない」
鏡花ちゃんと一緒に帰ることになった。というか真昼ちゃんに家に入れないと言われている以上、鏡花ちゃんの家に入れないとヤバい。
「靴とか舐めましょうか?」
「黙れ」
「はい」
家の前まで着くが、勝手に入ったら怒られるだろうな。と思っていたら、玄関を閉められた。
まあ、そうですよね。
「何やってるの? 入りなさい」
「え?」
と思ったら開けてくれた。
「どうしたんダモ? そんなに優しくなるなんてありえないんダモ。風邪をひいたんダモカ? 待っってるんダモ。今、真昼ちゃんを呼んでくる———ブヘェ」
普通に顔面を殴られた。
「私が優しくしたら変? ていうか優しくしてすらないから!?」
こう見えて意外と自分のこと怖いと思われること気にしているんだよな。
「いいから。早く入って」
「わかりましたダモ。何をすればいいんダモカ? 玄関にある靴を全て舐めればいいんダモカ?」
「調子に乗ってないで早くこっち来い」
いじってるのがバレたか。
真昼ちゃんの家は女の子の家って感じがするが、鏡花ちゃんの家は飾り気もなく、必要なものしか置いてないので、男の子の部屋みたいだ。
「それで、真昼は何て言ってるの?」
部屋に入るなり部屋着に着替える前に聞いてきた。
「何が?」
「魔法少女を止めろと言ったことに」
「え? それは———」
答えを言いかけて止めた。
「それは教えないダモ」
そう言うと頭を握った。
「暴力には屈しないダモ! 本当に教えないんダモ」
そう言うと思わなかったのか、鏡花ちゃんは不満げな顔をする。いくら物扱いしてくる鏡花ちゃんと言えど、冗談か本気で言っているかがわからないわけじゃない。僕が本気だとわかったみたいだ。
「なんで?」
別にふざけているわけじゃない。
「フェアじゃないんダモ」
鏡花ちゃんも真昼ちゃんも可愛い子供だ。だから優劣を付けたくない。
「真昼ちゃんは悩んでいるんダモ。だから、僕に答えを聞いてきたけど、僕は答えなかったんダモ。だって、鏡花ちゃんが何を思っているかがわかったから。だから、真昼ちゃんが何を思っているか、答えないんダモ」
中立とはまた違う。だって二人にちょっかいを出しているから。
でも、二人の答えを急がせたりはしない。
「だから本当に叩きつけても答えない」
すると掴む手の力が抜けた。
「あんたって口だけは達者」
「それほどでもないダモ」
「褒めてない!」
でも、冗談もほどほどにして鏡花ちゃんの気持ちもわかる。
「真昼ちゃんに嫌われるのが嫌なら素直に本当のこと言えばいいのに」
勝手なことを言うなとばかりに睨まれた。
「うるさい!」
「戦わせたくない理由が———」
「うるさい!」
「でも———」
鏡花ちゃんは僕の言葉をかき消そうとするが、割り込んだ。いくら鏡花ちゃんでも今の状態は危うい。
「———真昼ちゃんに嫌われていないか怖くなったんでしょ」
「———」
多分図星だったんだと思う。
「質問にちゃんと答えて欲しいから突き放すのはわかるけど、自分の優しさもアピールしないと後で後悔すると思うよ」
鏡花ちゃんは少しコミュニケーションが下手なところがある。真昼ちゃんはけっこう鈍いところがあるから、コミュニケーションも下手に見えるかもしれないけど、ああ見えて、甘えるのが上手だ。反対に完璧を気取り、実際なんでも優秀な鏡花ちゃんは少しコミュニケーションが苦手だ。
「鏡花ちゃんが真昼ちゃんを試しているのは知っているよ。でも、試すって行為は、人間関係が悪くなることもあるって覚えておいてよ。鏡花ちゃんだって勝手に試されて、いつの間にか採点されて、勝手に不合格にされたら嫌じゃん」
「そんなことしてない」
「鏡花ちゃんがそう思ってるならそれでもいいよ。別に試すなって言っているわけじゃないし。でも、これだけは覚えておいてよ。試す側はね、いつだって試されているんだよ。それを忘れて人は試そうとする。だからこそ、人は信頼を失うんだ。鏡花ちゃんには、そうして欲しくない」
鏡花ちゃんは甘えるのが下手だけど、甘やかすのも下手だ。
真昼ちゃんみたいに甘えるのが上手い人だと、うまく行くのだが、今の真昼ちゃんは甘えるのが下手になっている。当然上手く行くはずがない。
未熟な人間を見ると説教する爺の気持ちがわかる。
だって気持ちが良いから。
さっきまで僕をなじった鏡花ちゃんが僕の意見を返せないでいる。
これほど気持ちが良いものはない。
僕はもっと説教したくてたまらなかった。
だけど、説教したからと言って相手の為になるわけじゃない。
「僕が言いたいことはそういうこと。別に聞かなくたっていい。ただ、真昼ちゃんとちゃんと話しなよ」
それだけ言ってそろりそろりと離れようとした。
「ゴン!」
身体が反射的に大きく動いた。
「ただ呼んだだけだから」
び、びっくりさせるなよ~。
「ありがと」
まさか鏡花からそんな言葉が飛び出すなんて幻聴かと思った。
「あと語尾、さっき取れてたけど」
鏡花ちゃんは気づかないでいいところに気づいて厄介だ。
「そ、そんなことないんダモ」
「そういうところが一々怪しいのよ」
別に怪しいところなんてない模範的なマスコットダモ。
「・・・・・・まあ、いいわ」
だけど、それ以上追及できない甘さがあった。




