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第五十二話 心霊スポット突撃動画撮ったから見て!25

「バッ……」

 思わず、大好きなアメリカ妖怪の総大将の名前を呼びそうになり、薔薇は慌てて口を手で覆った。

 このデケエ目玉はたぶん外さんだ。



「みつめられている」



 長くふさふさの睫毛と目玉、あと目蓋しかないが。

 薔薇と「めがあう」と、その(まなこ)を弓形にした。目尻に、いわゆる笑い皺ができる。たぶん、目を細めて笑んだとか、「こんばんは」的な感じだ。

 薔薇は家に頻繁に訪ねてくる「かみさま」の中でも、人間にあまり接する機会がなかったり、コミュニケーション技能を人間用にカスタムしていないモノと同じ感じを覚える。家に来る「かみさま」は人間に会うため、という目的意識があるために、もう少しわかりやすいのだが。

 それに、昨日の「しせん」と同じ気配を肌で感じる。目玉が破裂しないように、そっちにご配慮頂いた方が正直助かる。


 だから、()()()()()()()()()()()()()


 薔薇は、あの妖怪アニメも、アメリカ妖怪の総大将も大好きなので、ゆえにこそ、鶺鴒が「外さんという存在に定めたモノ」に、別の名前や新たな名前を、ご本人の目の前で「ことば」にしてしまったら、何が起こるかわからない。良くて、薔薇が即死するくらいで済めばよいが。

 公園で律火の言った二つ名は、ご本人のいないところだったし、おそらく「外さん」の一般的にーーあくまで、外さんがナニモノか分かる界隈の一般ーー有名な、外さんをあらわす名前なのだろう。だから影響力はない。しかし二つ名が存在し、本来の名前を呼べないレベルの存在というのは……わりと気軽に死の危険がある。


 薔薇は、自分を「みつめる」絶対的強者の前で、作業を始めた。

 まず、瓦礫の山から比較的平らなものーーたぶん元床ーーを軽々拾って、外さんの前へ置く。興味津々の「しせん」が、ずっと注がれているのを肌で感じる。外さんが加減を間違えたら、今度は全身から血を吹くかもしれない。

 外さんの真正面に胡座をかいて座り、ポケットからいくつかのものを取り出す。通学カバンとスマホは、待鳥兄弟に預かって貰っていた。ここで、兄から電話が来たらさすがの薔薇も心臓が止まる自信がある。「絶死」の存在とはできれば一対一がいい。

 平らな瓦礫をハンカチで雑に埃を払い、品物を置く。

 ひとつは、紙。そこには、鳥居、男・女、零から九、五十音、はい・いいえ、?と、一応、!も書いておいた。

 そして、十円玉と鉛筆。

「よし、外さん、外さん、お話ししましょ」



◆ ◇ ◆



 十円玉がひとりでに、ギュンッと動いて鳥居のところへ。

 外さんは十円玉で交信してくれるらしい。薔薇は指を乗せていないので、正真正銘の怪奇現象である。


「よっしゃ、いけたー! よろしくお願いします!」



『こ ち ら こ そ』


『た の し い』



 十円玉が動く。滑らかだが、文章として十分追える速度。非常に親切な怪奇現象である。


「そっこーで本題なんだけど、あたしに電話したのってこれでしょ?」


 そう言って、薔薇がデケエ目玉の前に掲げたのは、浮草の現最高傑作シャークトパスのぬいぐるみ。サカバンバスピスのキーホルダーより大きいのでカラビナつき。公式グッズと見紛う完成度。絶対にインターネットのハンドメイドサイトとかで売れるレベルの逸品。

 十円玉がギャンッと「はい」へスライディング、からの縦に立ち上がって高速回転し始めた。かなり強めの意思表示である。

「まあ、シャークトパスだもんね」

 謎の全肯定をしめす薔薇。たぶん違う。

「でも、無料(タダ)ではあげられない! なんか小難しいルールだの理だのは、あたしにはよくわかんないけど、これは浮草があたしにプレゼントしてくれたもので、製作期間はたしか二ヶ月。それも型紙ができてからだし、型紙はあたしも映画めっちゃ見直して絵を描いて一緒に作ったし、材料費の半分もあたし! 努力の結晶だから!」

 力強く言い放つ薔薇。

 しかし、事実であり完全な正論。「こちら」でも「あちら」でも通ずる絶対的な、このぬいぐるみの価値。

 上半身たるサメの流線型、口の中の歯は三列もある。浮草は材料があればもっとやれたらしいが充分すぎる。そして下半身のタコ部分の躍動感! 今にもうごめき出しそうにうねっていて、細い爪先(?)までみっちり綿を詰められ、吸盤も抜かりなく作り込まれている。

 人間世界での価値はもちろん、このひとつのぬいぐるみに込められた熱量は、かたちが規格外なだけで「かみ」への供物として充分な価値を有している。


「だから、あたしのお願い聞いてくれたら、そのお礼にあげる。それなら、ホラ、なんかいろいろ平和に済むんでしょ」


 神からの一方的な「ほしい」という要求は、一部の例外はあれど難しい。基本的に、神の側からなにかを与える必要がある。もちろん人間が神様にお願いする場合だってそうだが、子どもが大人にご飯をおごって貰うのと、大人が子どもにご飯をおごって貰うのは、内容は同じでもとんでもない差があるのと同じだ。


 なにより、神からの要求は、人間には断りづらい。強者からの要求なのだ。

 まあこれは人間も同じといえるが。


 ゆえに、神の側からも、なにかを成したり、与えないと、バランスがとれなくなる。理が壊れる。

 特に今回は、深い絆のある人間同士の共同の被造物。「あちら」側での価値は、浮草のハンドメイドでなくても高額だ。

 しかも、今回要求している神は、「外さん」である。ただの「かみさま」ではないのだ。真の名をきくだけで人体を害する窮極の存在。一瞥で人を発狂させる無限に遠き到達不可能な高み。地球外の存在であり、常にそこに(いま)すが、全く存在しないモノ。

 十円玉が、厳かに動いた。


『も ち ろ ん で す』

『な ん で も し ま す』

『ぜ ん じ ん る い を よ ん ほ ん う で に し ま す か ?  そ れ と も あ し を ふ や す ? し っ ぽ の ほ う が よ い ?』


「めっちゃ怖いしやめてください、それだけは。ていうか出来るの!? いややめてやらないでほんとに……たぶんあたしのために、そうやって、目玉の「かたち」を見せてくれてるから、カンタンなんだろうけども」

 本当にとんでもない“対価”の内容にドン引きする薔薇。これだから神様ってやつは困るのだ。


「やってほしいのは、いま外さんが覗いてる「穴」を閉じて、こっち見るのやめてほしいんですけど…」


『いいえ』


「だって、外さんの流し目だけでも人体には有害なんだよ。あたしの目玉が破裂するんだよ? そもそも外さんぐらいの存在ならここの「穴」とかなくても、好きにみれそうな気がするんだけど」

 そう、「かみさま」たちは「みている」。ただ眺めているものもいれば、なんらかの接触を計るものまで。人間や「こちら」側の事象に干渉しないなら、みることに特にペナルティーや制約があるとは、薔薇の経験では聞いたことがない。たまにプライバシーの侵害にいらっとするぐらい、勝手にみている。


『み や す い』


 めっちゃ身も蓋もない理由。だが、だからこそ難しくなってきた。

「……ふーん。ふだんはみづらいんだ」


『い つ で も  み て る』

『で も  い つ も み て な い』


「神様の論理始まったな。まあつまり「穴」があるとみやすくて、そもそも外さんは「こっち」をみてたいんだ? なんか面白いの?」


『お も し ろ い』

『た の し い』

『あ き な い』

『ず っ と み て ら れ る』


 そ、そんなに…?

 想定外の外さんの熱量に、眉間に皺を寄せる薔薇。

 これだけ熱烈に観察希望だとすると、鶺鴒たちが来て「穴」を塞ぐのも、そうとう手こずるのではなかろうか。明らかに力ずくでどうこうできるモノではない。

 いま手元にあるシャークトパスのぬいぐるみで、落としどころを見つけたい。


「ん? 「穴」からみてたんだよね? じゃあ、動画の拡散は? あれやったの外さんだよね?」


『ど う が  は  「まど」』

『「あな」 も 「まど」』

『ど う が  み る』

『め 「まど」に な る』


「?」


『こ う い う こ と』


 次の瞬間、瓦礫の中に胡座をかいて座る薔薇自身が見えた。まるで鏡をみているようだ。そしてまた、頭の中の普段の視野にもデケエ目玉も見える。

 これはパニクる。目玉をえぐり出そうとしていた者たちは、たぶんこんなデケエ目玉ではないモノがみえていたに違いない。

 まばたきのあと、視界がもとに戻り、薔薇の目に映るのはデケエ目玉だけになる。


「なるほど、理屈とかはわからんけど、やってたことは理解した」


 外さんは、特異な「かみさま」だ。人間慣れしていないし、たぶん何柱か知り合いにいる地球外の存在でも、更に一段階「異なる」ナニカ。間違いなく全知全能でーーなにしろ、スマホをハッキングしたり、こんなふうに対話の場をなんなく設けてしまい、こっくりさん式対話方法にもすぐ順応しているーー「みよう」とすれば、なんだって「みえる」。

 しかし、水中では水中用のゴーグルがある方がモノを鮮明に見やすいし、目も楽だ。「穴」や動画、そして動画を見た人間の「目」はゴーグルとかそういう役割、とかそんなところなのだろう。

 だとすると、益々「穴」は塞がれたくなかろう。

 だが、人体に有害なのだ、外さんの「しせん」は。


「分かったんだけどね……外さんがその、そういうふうにこっち見ると、人間は狂って死んじゃうんだよね。外さんは、そういうのが見たいの? 昨日までみてたと思うけど、アレ、人間めちゃめちゃ困ってたからね? そういうの楽しいの?」


『いいえ』


 爆速で十円玉が動いた。更に縦回転が始まる。苦しんで死ぬ様を見たいのだ~と言われたらお手上げだったのだが、ここまでの会話から違うものを感じ取っていた薔薇は、外さんの返事に心底安堵した。


「つまり外さんが本当に見たいのは、あたしたち人間のなにげない日常ってことだよね?」


 あの六人の自撮り動画が選ばれたのも、たぶんそこだ。彼らは大の仲良しで、物凄く楽しそうだった。

 それに、人の世にはライブカメラというものを愛好する者がいる。特定の場所に固定してあり、その場の映像を、ただただリアルタイムで配信し続ける。観光地から天気予報まで利用法はいろいろ。幸広はナミブ砂漠のライブカメラが好きで、家事の間に流しっぱなしにしており、たまに「今日はキリンが水を飲んでいった」と超嬉しそうに教えてくれる。警戒心の強いキリンが水を飲むのはレアなんだとか。

 それはともかく、外さんの一番の望みは、人間がのんびりライブカメラで地球の裏側の動物の生活を楽しむように、人間の日常を見ていたいのだ。


「あたしさ、外さんの「まど」をどんどん消していったでしょう? あれはね、人間がめちゃめちゃ死ぬの。外さんがみてるから」


『そ そ ん な』


 十円玉がフルフル震え、デケエ目玉には涙の膜が張り、アニメのようにうるりんっと光った。

 器用すぎるだろ。

 「ことば」を交わせない薔薇に合わせ、分かりやすく表現しているのだ。

 じゃあ「まど」も、みた人が発狂しないようにしろよ、と思うのだが、出来るのなら、変更するから「穴」や「まど」を消さないで、と言ってくるだろう。

 やろうと思えば出来そうなのが、非常に疑わしいが、とりあえず人間が動物番組を楽しむように「人間番組」を見たいのは信じられそうだ。ふだんからみんなあんなふうに狂ったり、落ち込んだりしてるわけではないのを学習して、「人間慣れ」して貰う方が良い気がする。まあ、相手は「かみさま」なので、どう解釈し、どう動き出すかは、完全に未知だが、ひとまずの解決策として、その辺になりそう、と判断する。


 薔薇は腕を組み、思い切り眉間に皺を寄せる。

 阿惜夜市にきてから、何十何百もの神魔精霊と遭遇してきた。人間慣れしていて、好意的で無害なもの、好意的だが有害なもの、人間慣れしていないがまあなんとかなるもの、とって食おうとするもの。

 人間同士ですら、意見や考え方はそれぞれで衝突するのに、更に異なる「かれら」とのつきあい方は難しい。だが、一応、現段階の外さんは、薔薇基準だとわりと安全な方だ。超大型台風は怖いが、夜道に潜む包丁を持った狂人の方がはるかに身近で怖いし、遭遇率や死ぬ可能性は後者の方が格段に高い。そう考えれば、外さんは「はなしがつうじる台風」みたいなものだ。


「外さんは、器用だよね。こうして、神様と話が出来ないあたしに分かるように話してくれるし、目玉爆発しないように配慮も出来るし。で、「まど」が凄く手放しがたいのも、よくわかった」


 これからすることは、後で物凄く怒られそうな気がする。だが、今ここにいて、交渉材料があるんなら、やってしまえ。

 もうごちゃごちゃ考えるのに疲れてきた。

 そもそも、こんなに危ないものーー「穴」を放置した大人が悪い。


「色々細かい話を決めなきゃなんだけど、それ全部やってくれるんなら」


 薔薇はまっすぐに、巨大な神の目を見返した。


「あたしの両目、「まど」として貸してあげるよ」

実は、「高校デビュー」編における逆高校デビュー、つまりは目立たず問題を起こさず過ごしたい、を薔薇はずっと念頭にいれて行動していました

バイトから得られる現金収入の方が大事ですし、新市街には新市街を守るヒトたちがいるので……でも、もう好きにやることにしちゃいました。キレちまったってやつですね


それと、薔薇が言いそうになったアメリカ妖怪の総大将とはむろん、バックベアード様です

わたしも大好きです

昔、鬼太郎のウノを持っており、四枚取らせるカードがバックベアード様でした。なつかしや……

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