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第四十三話 心霊スポット突撃動画撮ったから見て!⑯

 凍りついた、としか言いようのない、教室の空気。

 午後の最初の授業は、またぞろ自習となった。

 別の保護者から学校へも連絡が入ったのだろう。たぶん大人たちも大パニックだ。


 吉村夢奈のみならず、石川大聖、青山宇宙、藤田ここみ、入院中の全員の訃報がもたらされたのだ。


 すでに二人のクラスメイトの通夜と葬儀が決まっているところに、更に四人。

 仲の良かった者たちを筆頭に、悲嘆と混乱と、そして恐怖が、匂わんばかりに教室内に充満していた。

 薔薇は教室を出た。席を立つとき栄地と目があったので、スマホをふってみせる。

 鶺鴒に聞くのが手っ取り早い。昼をすぎたから起きてきたはずで、おそらく「しった」はずだ。


 ()()()()()()()()


 薔薇は、敵ではないものをむやみやたらに死なせたくはない。吉村夢奈たちは、敵ではなかった。だから、もし昨夜の薔薇の行動のせいならば、その死の原因は薔薇にあるし、であれば命のぶんの落とし前をつけなければならない。




 鶺鴒の「独り言」ではあったし、兄は成功したとも言っていた。




 だが、思い返せば、鶺鴒は動画が届くことによる薔薇を含めたクラスメイトの危機と、そこから発生し拡大する歪みを危惧していた。




 入院中の吉村夢奈たちの安全はそこに含まれていたんだろうか?




 事の発端は悪意はなくとも、彼らと彼女らのせいだ。


 だとすると、鶺鴒は夢奈たちを「救うべき対象」として勘定していない可能性が高い。心霊スポットなんか入る方が悪いのだという、単純明快な理論だ。


 正直、薔薇もはた迷惑だとは思うが、死ねばいいとまでは思えなかった。




 薔薇たちは外さんの影響力を削ぐために動いた。その結果がなにをもたらすのか、よく考えていなかった。自分や自分の親しい人達や、多くの恐怖に怯えるクラスメイトが少し安全になる、そこに意識が向いていた。




 そして、死ぬかもしれないとわかっていて実行するのと、考えなしに実行するのとでは話が違う。


 薔薇は、吉村夢奈や石川大聖たちの命の安全についてなど、考えていなかった。


 だからもしも、自分の行動が、夢奈たちを死に追いやったなら。




 ()()()()()()()()()()





 ひと気のない、校舎片隅の、不用品倉庫と化した空き教室。そのドアを開けて入る前に、振り向く。

「なに?」

 彼にーー姫川夕映に、こんな声を発したのは初めてだろう。後ろからついてきていた大きな体が、びくっと跳ねた。図体は大きいが、怖がりな大型動物の幼子めいている。精悍な顔つきに怯えがよぎる。

 しかし、薔薇の予想と裏腹に、彼はそれ以上顔色を変えずに、ぎくしゃくしながらーー同じ側の手足を動かしてあるいているーー更に歩み寄ってきて、はるか下から睥睨する薔薇の真横から、その鍛えられた長い腕を伸ばして、空き教室の扉を開けた。中へ入ろうというように、目線とわすがな顎の動きで示す。夕映は基本的には心を開いてくれたらしい今となっても無口で、バイト先でもあんまり喋らないーーそう、彼はいつもこんな感じで、つまりいつも通りに薔薇に相対している。

 一応、夕映のでかい図体で目視確認できない廊下の向こうを見てから、薔薇と夕映はコソコソと空き教室に忍び込んだ。

 ドアを閉めて内鍵を掛け、埃が舞って日差しにキラキラ光るなか、姿勢を低くして外に面した窓と廊下に面した窓の両方から身を隠しながら、雑多なものの後ろにしゃがみこむ。古い机や椅子が組み合わされて積み上げられ、棚板が壊れた書棚や、イベントで使われたであろう元はビビットカラーで派手だったものが今や色褪せたベニヤ板の残骸の狭間に、でかいのと、ちいさいのが座り込む。


「あの…」


 夕映の視線が泳ぐ。「なにか」を「みないように」しているこの動き、何も知らなければ不審者なのだが、薔薇は知っている。


「幽霊が、あたしの後ろにいるの?」

 理解の早さに、夕映は強張らせていた表情を緩める。先ほどの薔薇の威嚇めいた反応に対しての怯えも、すでにない。


「吉村と日野が、防人に話しかけてるんだ」

「え、日野くん?!」


 それは予想外。

 日野の死に、薔薇は全く関わっていない。昨夜の遺体の扱い方についてだろうか。もっと早く来て欲しかったとか、あの無駄に手際がいいのはなんでとか?

 そんなふうに思考が明後日の方向に向かいかけてふと気付く。


「姫川くん、こわくないの?」


 今更ながら気付く。夕映は、二体もいるという霊の存在に全く怯えていない。攻撃の矛先が薔薇に向いているなら、夕映ならばもっと焦るはずだ。おどおどと真っ向から「みない」ようにしているのは彼の単なる長年の癖であり、以前ならもっとしっかり「無視」していたはずなのに。


「なんていってるの?」


 夢奈と日野の霊は、たぶんこわくない姿や言動なのだ。それ以外に考えられない。

 夕映が怯えておらず、わざわざ薔薇を追ってきて、あからさまに迷惑そうに対応されたのに、それでもついてきたのは、間違いなく夢奈たちの発言を伝えるため。たぶん、とても重要なことに違いない。

 薔薇は真っ直ぐに夕映を見つめた。

 夕映は、一度、珍しくはっきりと、たぶん勇気を振り絞って、薔薇の背後の二ヶ所をみてから、薔薇に目線を合わせた。



「助けてくれて、ありがとう」



「………は?」


「え?!」


 予想外すぎて思わず、かなり不機嫌な声を出してしまい、夕映がビクつく。そりゃ、お礼をいってキレられたら、そうなる。慌てた様子で薔薇のうしろを「みて、きいて」、まるで二人の人間の話を聞いているようにうなずいている。さっきまでのおどおどした態度はどこへやら。


「いや、間違いなく「助けてくれて、ありがとう防人さん」って言ってる。二人は、防人のリアクションに激しく動揺してる」


 夕映の精悍な顔つきに、真剣さと、説得しようとする必死さが加わり、まるで脅しているかのごとき迫力である。

 詰め寄られている本人が、ポカーンとしてしまっているので、緊迫感はゼロだが。


 ()


 薔薇には滅多にないことである。しかも完全に無防備にポカーンとしてしまっている。

 霊感のある第三者がみたら、生きている人間の男性の方があわてふためき、女性の方は呆然とし、そのまわりで狼狽える幽霊二体、その様子に何事?と困惑する一般通過浮遊霊数体というカオスなものをみることになり、みなかったことにすることを選ぶだろう。


 数十秒、完全に思考停止に陥り、一転して両目に意識を取り戻した薔薇は、吐き捨てるように言った。


「助けてない」


「え? だって…」


「助けてないから」


 珍しく烈火のごとき怒りを孕んだ薔薇の声音に、夕映は混乱を深める。まわりの幽霊も以下同文。なにしろ、滅多なことでは薔薇は相手の発言を遮らない。なのに、夕映の言葉を遮り、更には()()()()()()



「死んだんだよ。助けてない」



 夕映がひゅっと息を呑んだ。

 薔薇の小さな体から、熱波のごとく放たれているのは、憤怒だ。だがその怒りは、周りではなく、薔薇自身に向いている。自責なんて生易しいものではなく、もう少しで殺意に変わりそうな憤激。


 死んだら、意味がない。

 死んでしまったら無力だ。

 今まさに、夢奈も日野も、夕映という稀有な優しい存在に頼らなければ、言葉ひとつ届けられないではないか。


 なにひとつ、助けていない。


 死んだら、そこで終わりだ。


「え? ああ、うん。防人、吉村さんが言ってるんだけど」

 もはや霊と普通に会話し始めてる夕映は、どこか小さな子どもへ向けるような慈しみ深い優しい声を出す。傷ついた野生動物に近づくときのようでもある。

 そっと、大きな手を薔薇の肩にのせた。薔薇にとってこの手は、頼りになる信頼できる手だ。長年の積み重ねのある幸広には及ばないが、実績を確実に積んでいる。バイト先では、率先して重いものを持ち運び、つい最近では二度も薔薇を守ってくれた手だ。そういえば、ナイフの傷はほとんど治っているようで良かった。


「連絡先を交換し損ねちゃったね、って」

「はあ?」


 またもや変な声が出た。でも、今回の薔薇の声は、笑いで崩れていた。


 どうでもいいだろう、そんなことは。


 生きていれば出来たことだ。


 日常が続けば出来たことだ。


 だから、死んでしまっては全てが無意味になる。


 だからこんなにも、腹が立つというのに、当たり前のことをほざきやがって。


 夕映の手は、薔薇の肩から既に離れている。


 なのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 夕映や夢奈や日野がなんと言おうと、薔薇は、夢奈たちを「助けていない」。


 けれど、向こうは「助けられた」と言い張る。



 平行線だ。



 生きていれば、直接口論できるのに。



 薔薇は、自身を焼く怒りの熱が急速に覚めていくのを感じる。死んだ相手とは、話にならない。



「え?! うわ、なん、え?!」

 死者と薔薇の板挟みにされていた夕映が、今日イチ驚き慌てた様子で薔薇の「背後」をみている。

 同時に、薔薇の嗅覚に優しい花の香りが届く。

 反射的に振り向くが、しかしあるのは入ってきたときと同じく、机や椅子、棚だのベニヤ板だの。


「ええ……?」


 自分に背を向けた薔薇に、迷うことなくひっついている夕映は、全身がほぼ彼女からはみ出ているが、メンタル的な安心を得られるのだろう。洗濯機の底に置いてきぼりにされた片方だけの靴下が声を出せたらこんななのでは?というような、無力そのものの囁きが、精悍な顔を台無しにしている。

 薔薇にはよくわからんまま、優しい花の香りが、出現したときと同様にほわんっと消えた。


「……だいじょぶ?」

「たぶん」


 思いの外しっかりした声だが、その顔は困惑と驚愕に凍りついている。


「どしたの?……ふたりは?」

「いっちゃった……んだけど……それは、いいんだけど……なんだったんだアレ」

「というと?」


 あの優しい花の香りは、たまに嗅ぐことがある。線香の香りに混じっていることが多いその香りは、「あっち」の匂い、その中でも「よいところ」の香りだ。大勢が泣いている葬式で、参列者を優しく抱き締めるように香っていることが多い。

 だからたぶん、夢奈と日野は「あっち」へ行ったのだろうと思ったのだが、それにしては夕映のパニックっぷりが酷い。

 霊が「あっち」へいくのを初めて見たのだろうか? いや、ちょっと違うように見える。


「メイド」

「? 冥土(めいど)? あの世ってこと?」

「違う違う、お屋敷で働いてるメイド」

「はい?」

「金髪タテロールでロングスカートの美女メイドさんが、ふたりを連れてった」

「なんて?」

薔薇は毎日食べたものすべてを覚えてないように、自分の意思で殺したもののこともすべては覚えていません

でも、美味しく食べたことと食材への感謝を忘れないように、殺したこととその結果が今後どのように我が身にふりかかるのかという覚悟は常に持っています

復讐とかもばっちこいです

復讐を遂げさせ、負けるつもりはありませんが


はじめてひとを殺したときから、ずっと、いつか巡り来る因果応報を覚悟の上で殺しています

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