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第四十二話 心霊スポット突撃動画撮ったから見て!⑮

 翌朝。少し睡眠不足ではあるが、その分薔薇は自分の食べたいものを山盛りつくってーーースクランブルエッグの山、カリカリベーコンの山、サラダの山、インスタントのポタージュスープーーーをお腹いっぱい食べ、お弁当は夜遊び前に準備済みのおかずを弁当箱に、食欲に耐えながら詰め込み、元気いっぱいである。

 浮草からは「今回は拙作が耳目を集めてしまい…」と謎の謝罪を受けたが、注目が薔薇たちに向いていたら頭爆発した可能性もあるのだ。幸広の指の軽い骨折と、手の裂傷で済んだのは幸運といえよう。

「というか、外さん、おれにいえばいいのに。あの件から何回かすれ違ってるんだよ?」

「すれ…違う…?」

「どこで?!」

「あっ。えっと…その…迷子になったときに、名状しがたい場所で…」

 相変わらず、誰も知らんうちに迷子になっているらしかった。てか、神格と普通にすれ違う空間に日常的にさ迷い込まないで欲しい。

 ただ、鶺鴒によると、「かみさま」側から、簡単には「ちょうだい!」とは頼めないことを、浮草たち三人は知っている。「あちら」と「こちら」は理が違いすぎるので、特に「かみさま」からの要求による一方的な譲渡(プレゼント)は難しい。貰うためには「かみさま」も、何かを与えなくてはならないのだが、外さんから、貰えそうなものは健全とは言いがたいモノになってしまうらしい。

「ワンチャン、バレンタインデーとかクリスマスとか、一方的なプレゼントもありなイベント中ならいけるかもしれないんだけど、なにしろ外さんだからなあ、ちょっとなあ」

 浮草お手製のものを、交換でもなく単にあげてしまうと、「こちら」のなにがしかの常識が変わってしまう可能性があるらしい。例えば地球の回転の方向とか。

 ニンゲンとふだんから親しく接していて貰い慣れていたり、願い事や祈りと引き換えの「供物」などであれば、たいてい大丈夫なのだが、外さんは、ちょっと事情が違うから、と鶺鴒も困っているようだ。そして、よりいっそう、可及的速やかに「穴」を塞ぐ必要があることが、二人の探索で証明された。他の縄張りで独断専行したかたちではあるものの、やはり最優先されるべきは「自衛」である。

 危ない場所だからとか、いろいろ面倒な大人の事情とか言ってられない事態だと、今回の件ではっきりした。

「「ほかのひと」がきたら、終わりじゃ済まないからなあ…」

 という鶺鴒の囁きを、薔薇は「いってきまーす!」という大声でかき消して家を出た。


◆ ◇ ◆


 朝のホームルームが始まった。

 いつもどおりすぎる担任の折笠が、いつもどおりの連絡事項を伝え、最後に居住いを正した。


「明日、小松さんと日野くんの葬儀がある。今夜は通夜だ。だが、ご家族の意向で、学校側からは弔辞を送るのみとなる。とくに連絡のない者に関しては、通夜も葬儀も遠慮して欲しいそうだ。ごく一部の親しいもののみで執り行いたい、と」


 折笠の口から、ごく自然に日野の名前が出た。

 ちなみに今朝学校へ来てから動画が届いたのは、小松梨杏とごく親しくーーこれだけのことが起きても連絡先を消せないほど仲の良いほんの数名のみだった。呪いの動画であることはもはや誰も疑っていないが、被害範囲が激減したことは間違いない。小松梨杏と親しいものは、無表情で動画を削除する。彼らのもとには、通夜や葬儀の招きは届くのだろうか。むろん現実の家族のもとから、ということだが。

 薔薇はふんっと鼻息を強めに吐いて、今日のお昼ごはんに思いを馳せた。


◆ ◇ ◆


 平和なお昼ごはんは、凶報によって台無しになる。

 味がしっかり染み込んだ肉巻きアスパラガスを薔薇が満面の笑みで味わっていると、教室の一角で悲鳴が上がった。

 若干、誰かの悲鳴が上がることに慣れ始めたこのクラスは、驚きこそすれ、どこか冷静に悲鳴の出所を見る。


 悲鳴を上げたのは、ひとりの女子生徒。たしか彼女は、入(・)院(・)中(・)の(・)吉(・)村(・)夢(・)奈(・)の(・)幼(・)馴(・)染(・)み(・)ではなかったか。

 彼女は「ウソ!? ウソ!! ヤダ!! ヤダヤダ、ヤダよう!! そんなのウソだ!!」と、この世の終わりのような悲痛な慟哭をあげて、スマホを手放して床に崩れ落ちる。一緒に食事をしていた友達が抱き締めながら共に座り込むが、スマホで通話していたらしく、本人以外全く状況が分からない。とりあえず、暴れだすわけではなく、ただただ悲しみと理不尽に叩きのめされた少女の泣き声が響く。


「…ぁ」


 小さく、驚きとわずかな恐怖の混じる吐息のような声。薔薇が、泣いている女子生徒から、声の主をーー姫川夕映のほうを見れば、夕映は薔薇の「横」をみている。

 即座に椅子から立ち上がり、薔薇は夢奈の幼馴染みのもとへ歩みよって彼女のスマホを拾い上げた。スマホからは、女性の必死の呼び掛けが漏れ聞こえてくる。まだ通話が切れていない。薔薇はスマホを耳にあてた。

「もしもし? クラスメイトです。あの、彼女、泣き崩れちゃって、みんなどうしたらいいか、分からなくて困ってるんですけど……」

 電話の向こうもかなり混乱しているようで、何度か薔薇が同じことを繰り返すと、漸く電話の向こうにいる、夢奈の幼馴染みのたぶん母親が、落ち着きを取り戻した。告げられた彼女の悲嘆に満ちた言葉にーー娘の幼馴染みなら、母親である彼女も夢奈と親しいだろうーーさすがの薔薇も、後頭部に不意打ちをくらったような衝撃を受けて、軽くふらついた。

 いつのまにか、泣きじゃくる幼馴染みの女子生徒と、薔薇の周りそれぞれに親しい者が集まっている。

「…あの、本人、落ち着いたら折り返します」

 一方的に告げて、スマホの画面をタップして通話を切る。幼馴染みの女子生徒の机にスマホをそっと置き、顔を上げるとさっきまでいっしょにお昼ごはんを食べていた紅玉が心配そうに立っていて、肩にそっと触れた。

 他にも、いくつもの気遣わしげな視線、そして不吉な予感に怯える視線も多くある。

 その中で唯一、夕映だけは薔薇がなにを聞かされたか確信を持っているようだ。

 たぶん、これは正式に発表がある。もしくは、第一報を貰った幼馴染みの彼女から告げられる方がいいのか。なにしろ、「彼女」のもっとも親しい友だちなのだから。

 でも、薔薇の口は勝手に動いていた。不意打ちすぎて、冷静さをなくしていたのだろう。


「吉村夢奈さん、死んじゃったって……」


 なにが起きてる?

 薔薇の頭の中は、その疑問でいっぱいになり、自身の声が戦慄いていることには気付かなかった。

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