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第三十七話 心霊スポット突撃動画撮ったから見て!⑩

 旧飛綿離(きゅうひわたり)病院。

 現在旧市街でもっとも大きな阿惜夜市立病院ができる前までは、もっとも大きな総合病院だった。個人だが、篤志家であり、医師である飛綿離氏が、戦後から経営していた。

 小さな町医者から始まり、それこそ風邪、骨折、出産から看取りまで。平屋の小さな病院は四階建ての入院病棟を備えた大病院へと成長する。飛綿離で生まれ、飛綿離で死ぬ者がいる、地域に根差した市民と共にある飛綿離病院。しかし90年代のバブル経済期の崩壊と共に沈むこととなった。さまざまな不運が重なったゆえであったが、諸悪の根元は、当時の院長であった飛綿離(ひわたり)英喜(ひでき)。彼も最初のうちは、病院を開いた初代と同じく良き医者だった。

 だが愛する妻の死をきっかけに、彼の興味は「不死」という荒唐無稽なものに向けられてしまう。愛妻が命と引き換えに残した愛娘・真愛(まい)。妻の忘れ形見が、不治の病に冒されていると知ったとき、英喜は、壊れた。あらゆる術を求めた。洋の東西を問わず、近代医学から民間療法までーーそして、ついに魔術の世界へと。

 飛綿離英喜は、娘の病の治癒と、二度と愛する者を失わぬために、病院関係者と入院患者を用いて、外法禁術に類するなんらかの儀式を行い、()()()()()()()()

 贄とされた罪なき数多の人々の命も、罪深き英喜の命も、やはり罪なき不運な真愛の命も、分け隔てなく吸い取って産まれたのは「穴」。


 「ここ」と「どこか」を繋ぐ「穴」が飛綿離病院に、開いた。


 当時の夢殿や待鳥含め、多くの大妖・術師にできたのは、病院という建物を「閉ざす」ことだった。それほど「穴」は危険だった。

 妖や、霊感の高いもの程「穴」から溢れる力に押し潰され、弱いものは近づくだけで、心身のどちらかが修復不可能なほど破壊された。

 逆に、霊感のない者ーーいわゆる一般人は、「入ること」だけなら容易い。何の影響もない。しかし、「穴」は「穴」である。どこへ通じるともわからない「穴」の開いた場所へ、そうと知らずに足を踏み入れたら?ーーーおちるだけ。


 ゆえに「閉じた」。


 「穴」の開いた地下の一室を含め、四階建ての病院は封印され、通称「人払いのまじない」が厳重に施された。これは、霊感のない者に「なんとなく近寄りたくないな」という気持ちにさせる暗示のおまじないだ。人嫌いの妖怪はだいたい使えるし、術師も役に立つのでほとんどの者が扱える。

 あらゆる妖怪、術師の、「人払いのまじない」ーーーさまざまな流派、原理、理のねじりを重ねて重ねて重ねて重ねて、飛綿離病院は、人々から、()()()()()()()()()

 突如として廃墟が現れたかのように、普通の人々には感じられただろう。廃墟は、普通なら入りたいとは思わないモノだ。

 さらに、分かりやすい虚実織り混ぜた物語(カバーストーリー)が広められることにより、「多数の間違った認識」という封印も施された。

 こうして、飛綿離病院は、「禁域」や「忌み地」と呼ばれる場所となり、人々の日常から消えた。


 ただの取り残された廃墟として、かたちだけを残して。


 しかし時が経ち、旧飛綿離病院は、人々の日常にさらされるようになる。


 都市開発である。


 封印の力は強く、建物自体は守られていたが、新しく成り行く町中にポツリと残る巨大な廃墟に気付かないほど、人はバカではない。むしろ「禁域」としての存在感も相俟って、耳目を集め、過去に流布されたカバーストーリーと共に旧飛綿離病院は、甦ってしまった。現在では、新市街八大心霊スポットのひとつとして有名である。


「ちなみに他の七ヵ所も本物だから行かないように」

「はい」

「七ヵ所もあるんだ…」

「はやくなんとかしてよ、やだよそんなのがあるとこに通うの…」

 鶺鴒の語る裏の歴史に、幸広、浮草、薔薇は三者三様に応える。

「まー、マジでエグいガチの心霊スポットであることは完全に理解した」

「あの、そこ本当に流火さん呼ぶだけでなんとかなるんですか?」

「うーん…そこは、とりあえず大人が考えるから…」

 ホットホワイトチョコレートを飲み干し、頷く薔薇。同じく飲み終えたマグカップを流しに運びつつ幸広が訊くと、鶺鴒はふだんから白い顔を益々青ざめさせて頭を抱えて、突っ伏した。幸広は、すっかり冷めたカモミールティーをポットで淹れ直してやることにする。カモミールが太刀打ちできるとは思えないが…。

「あそこなあ…「穴」からのダメージに耐えつつ、術を使える攻防両方備えてないとダメだから人員の選抜がさ…」

「まあつまり、あたしは「穴」は放置で日野くんだけ取ってくればいいんでしょ」

 「穴」の脅威は、弱いものだけでなく、強い「だけ」でも耐えられないという点だ。「みる」力が、つまり霊感が高ければ高いほど「穴」の恐ろしさを「理解」してしまうゆえに、魂ごと砕かれる。ゆえに、「みても耐えられる」くらいの大妖や術師でなければ近づけない。

 そういうことなら、薔薇がしようとしていることだけに関しては、最適だ。


 薔薇は、霊感というものが全くない代わりに、超常の影響を全く受けない。呪いなどが良い例で、ちゃんと手順通りに呪った上で呪ったことを伝えられても、効果を発揮しないくらいだから、一周回って怪奇現象といえる。

 もちろん例外はある。だが、今回はなんとかなるはずだ。たぶん。

「凱斗くんの遺体とスマホがこの世からなくなれば、外さんが覗ける「まど」も減るからね。梨杏さんも、おうちに帰ってきたらコッソリいってスマホぶっ壊せば、少なくとも被害はこれ以上広がらなくなるからだいじょうぶ! あ、動画が誰かのスマホに残ってたらダメだけどね」

「浮草が言うなら、そうなんだろね。オッケー、じゃあちょっくら行ってくるかあ」

「本当に危ない場所だから、気をつけて」

 意気揚々の薔薇に、鶺鴒が釘を刺す。

「ついさっき、外さんの名前を聴いただけで薔薇だって出血しただろう? お前は動画で日野くんの殺害シーンを「認識」しているから、他の人よりさらに強く呪われてるはずなんだ。第一の防衛線である「認識しない」を越えられてるから、突撃メンバーよりも酷いことになるのが普通なんだけど」

「さすが薔薇ちゃん! スルー!」

「それでも、危ないのかあ」

 幸広が淹れなおしてくれたカモミールティーをお礼をいって受けとり、鶺鴒は頷く。

「でも、誰かが行かなければ、お前のクラスは()()()()()()()()()()()

「え?! あたしも栄地も?!」

「映画だと、ファイナルサバイバーで生死不明な雰囲気でエンドロールかな」

「それはイヤだ…続編で死んでるやつだ…映画ならギャラの交渉決裂とか別の映画撮ってて出られないだけだけど、あたしらの場合はリアルに死ぬんだ…えー、ヤダー」

「最後の晩餐、食べていく?」

 幸広が、冷静沈着な、しかし場違いともいえる一言を投げる。

「薔薇はまず、制服からどうでもいい服にちゃんと着替えて。()()()()()()のリュックを確認しないと」

「たしかに」

「それに、今日の晩ごはんはミートローフだよ?」

「食べてから行きます」

 残像を残して薔薇が消え失せる。

「夜が更けてから行こうが、関係ない場所なんでしょう?」

「まあ、そうかな」

 まるで忙しいスケジュールを調整していくかのように、幸広は手と口をテキパキと動かす。

「浮草、俺の夜遊びセットの確認頼んでもいいかな? 俺は、帰ってきたとき用の夜食の用意もしておくから」

「はい! あ、ねえねえ、おれの新作のぬいぐるみキーホルダーとハンカチ、お守りにもっていって!」

「ありがとう。でも揺れると邪魔だから外側のメッシュポケットの中にいれてもらえる? ちなみに何?」

「幸広くんのは、ご依頼どおりのアブダクションされるホルスタインだよ!」

「ああ、あれ完成したのかあ」

 異常な会話と、日常の会話が混ざり合うなか、鶺鴒は思わずクスクスとこぼす。

「ははは、うちの子たちはほんとに、オレたちなんか足元にも及ばないな」

書いている私も、若干混乱していますが(笑)

旧飛綿離病院を封印するため、「人払いの術」がかけられたことにより、「人が近づきがたくなり」かつ「忘れやすく」なっています

更に、諸悪の根元である飛綿離英喜も怨霊になって、人払いのおまじないを越えた侵入者を呪殺しているのですが、業界的には「穴」のほうがやばいですし、英喜の怨霊への対処にも「穴」の存在は当然ジャマなので、手をつけられなくなっています

日野くんの存在が忘れられてしまっていたり、薔薇のクラス以外の人が認識できないのは、英喜の呪いと、おまじないの複合的な副作用のようなものです

本来ここまで強力ではなかったはずなのですが、「外さん」が「穴」から覗いてるせいで余計におかしくなったんじゃないでしょうか?

鶺鴒と浮草に、「よくみて」欲しいところですが、大人の事情で関われず、鶺鴒は本当にイライラしています(笑)

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