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第三十八話 心霊スポット突撃動画撮ったから見て!⑪

 旧飛綿離病院についたとき、完全に日が暮れていた。年月に削られた四階建ての廃墟は、星の瞬く夜空を背負って真っ黒だ。周囲が夜なお明るいのだ、いっそう暗い。霊感のある者や小妖怪なら、即座に「逃げよう」と決断するような暗鬱な霊気による暗さも加味されている。


「星明かりでかなり明るいねえ」

「人目はないけどさっさと行こうか」


 雰囲気満点の元病院、現最悪級の禁足地。名だたる霊能力者や術師、大妖たちですら二の足を踏む「本物」の「禁域」へ、防人さんちの仲良し二人組は、スタスタ敷地を進んでいく。

 薔薇と幸広。

 薔薇は、霊感が全くない。しかし、その他の全てをもっているともいえる。

 幸広は、七歳になるまでの成育環境が特殊だった上に、現在も普通とは言えない環境で生きており、やはり霊感がほぼない。

 今宵の秘密の夜遊びに最適の人材である。


 二人は、平然としてはいるが、適度なーー探索に入る兵士のような緊張感を纏っていた。


 基本的に、心霊スポットはニセモノだ。過去に痛ましい事件事故があった場所ではあっても、それだけでは心霊スポットにはならない。

 むしろ廃墟を含め、心霊スポットと呼ばれる場所にあるのは現実的な危険。

 建物の劣化による崩壊。

 特殊な事情のある人たちの集まりーーホームレスから犯罪者、及びその集団。

 また、単に不法侵入という、日本の法律に触れる。

 なので、オープンでない廃墟や許可を得ない心霊スポットへの突撃はしてはなならない。怪奇現象以外の理由で、怪我をしたり、人的かつ強制的に行方不明になったりすることになる。

 幽霊がいるかいないか、身の危険があるほど呪われてるかは、薔薇の経験的には95%ぐらいだ。


「うーん、マジで5%引いたわあ」

「鶺鴒さんも浮草も言ってただけのことはあるな」

「ねー」

 元は駐車場だったのだろう広い敷地を通りすぎ、いざ院内に足を踏み入れた瞬間、霊感ゼロの二人ですら、()()()()()()()()


 闘争・(ファイト・オア・)逃走反応(フライト・レスポンス)


 竦む(フリーズ)が含まれて使用されることもある、科学的な用語であり、今、薔薇と幸広に起きている、生物の緊急事態に対する反応である。

 危機的状況に対して、闘うのか、逃げるのか、じっとしてやり過ごすのか。

 その判断をするよう、エントランスに入ったというだけで、全身が警報を発したのだ。

 二人の最初の反応は不動(フリーズ)

 目・耳・鼻を主とした五感で、入ったばかりのエントランスの情報を集め、様子を伺う。

 依然、「本物の心霊スポット」だけがもつ脅威が、二人のニブい第六感と霊感を刺激して、判断力を低下させようとしてくる。


「……生きてるものが、なんにもいない」

「おかしいな」


 霊感が一定以上あったら、そろそろ気絶するのだが、この二人はどこ吹く風。

 ()()()()()()()を正確に読み取っていく。


 薔薇は生まれたときから、幸広は生まれた環境ゆえに、野生動物どころか妖怪並みの五感や体力を持っている。人間が、野生で生きていた頃以上の能力、例えばお伽噺の中の英雄たちのような超人的な力。

 薔薇と幸広に共通するのは、霊感のなさと、そのかわりといわんばかりの鋭敏な五感だ。

 人間には見えない速さ、暗さ、遠距離でもものが見えるし、小さな音も聞こえるし、人類がもっとも衰えた嗅覚も野生生物に匹敵する。

 その分、大きな音は苦手だし、人工的な強い匂いや香水も苦手なので、夕映が「みないフリ」をしているように、可能な限り注意散漫に生活している。神経を使うし、不意打ちもあるが、もう十年以上付き合っている「体質」だから、慣れもする。


 そして、こういう時には役に立つ。


 ちなみに夜目は幸広の方がきく。

 耳は薔薇の方が良い。

 鼻はどっこいどっこいというところか。

 舌ーー味覚も同じくらいだが、性格的に幸広の方が細やかで、触覚は薔薇が勝る。背後で動きがあっても、すぐに分かるのは音は消せても、空気を動かさずに「存在」はできないからだ。


 現実的な脅威はない。


 けれど、本能の警告が止まらない。そして、それを裏付ける情報を二人は探知していた。いや、探知しなかった。

「こういうとこ、虫とかネズミとか絶対にいるのに、全然いないね。さっき通りすぎたコンビニにはいたのに」

「いないね。()()()()()()と思ってたんだけど」


 そう。()()()()()()()()()()()


 それはつまり、霊感のない薔薇と幸広には見つけられない「あぶないもの」がいることの証明である。


「それに、この匂い」

()()()()()() ちょっと判断つかないよ、あたし」

()()()の俺でも初体験だよ。こんな()()()()()()()()()


 建物のそこらじゅうから、二人を包むように匂うのは大量の死体の腐敗臭。

 にも関わらず、ここにはハエやネズミなどの死体の掃除屋がいない。


「マジでか」

「薔薇のクラスメイト、よくここに入ったな」

「フツーのひとはわかんないのか、おまじないのせいなのか、それとも()()()()ってやつだったのかなあ?」

「まあ俺たちには分からないな。考えても仕方ないし。なにしろ、この匂い、()()()()()()()()()()()()()()()()

「そういやそうだ。ヤバ」


 いくら現代人の鼻が退化していたとしても、この量の腐敗臭には気付くはずだ。

 しかしなんの騒ぎにもなっていない。


「たぶん、この人たちも忘れられてる。日野くんと同じなんじゃないか」

「あー。人払いのおまじないの副作用というよりか、ここって、そういう心霊スポットなのかもね」


 旧飛綿離病院。禁域として封じられたこの場所は、存在すら忘れさせる、おそるべき忌み地、ということなのだろうか。


「この中から日野くん探すのかあ」

「動画見たんじゃないのか? 場所の検討つかない?」

「いやあ一番ヤバいシーンだけだし、笑顔はしっかり映ってたけど、手ぶれエグいし全然分かんない」

「そうか…じゃあとりあえず()()()が頑張ってみるよ。たぶん一番新鮮だろ」

「幸ちゃん一緒で良かったー」

「薔薇も一応知り合いなんだし、鮮血の匂いぐらい分かるだろ」

「はーい」

 まるで大型ショッピングモールでウィンドウショッピングでも始めるかのような軽妙な会話だが、見るものが見ればツーマンセルの兵士のような身ごなしで、薔薇と幸広は旧飛綿離病院の奥へと歩き出した。

前話から出ている薔薇の超常現象無効化については、過去の拙作「あの日の冷たい水、それとは無関係の目障りな厄介者

https://ncode.syosetu.com/n0402kz/」のほうにも書かれています、よろしくお願いします


幸広についてですが、彼の背景や特殊能力についてはまた別のお話でしっかり書きます

重ねてよろしくお願いします

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