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第三十五話 心霊スポット突撃動画撮ったから見て!⑧

 お腹が減って考えが乱暴になってきたので、薔薇は家に帰った。


 一応、空腹以外にも理由はある。

 まず、日野凱斗。彼の遺体とスマホは、旧飛綿離病院のどこかにある。

 鶺鴒と岩雄に「危ないところ」と注意された場所に、空腹で行きたくない。というか、普通に流火さんに行ってほしい。もしくは新市街を縄張りとする諸々がちゃんと働いてほしい。

 それになにより、日野から動画を送りつけられたのは薔薇だけだ。

 つまり被害は最小限。

 「怪奇現象だなあ」としか薔薇は感じないので問題ない。


 次。投身してしまった小松梨杏。彼女から動画ファイルを送りつけられたのは、当日「動画を見ていない者ばかり」だ。パニックのどさくさに紛れて、薔薇と栄地は、クラスメイトたちに心霊スポット突撃メンバーの連絡先を消しておこうよ、と言って回った。学級委員長の一柳のいたずら説もあり、みんな深く考えずに実行していたはずだ。

 これで明日、クラスメイトのもとに動画ファイルが届かなければ、「連絡先を消す」「動画もしくはスマホの物理破壊」が有効であることがわかる。


 まあ、怖いのは、全員のもとに小松梨杏か日野凱斗から、動画が送りつけられるか否か。


 もはや完全に怪奇現象なので、そこまで行けば腰の重い新市街の連中も動いてくれるのではなかろうか。


 そこまで考えて、薔薇の空腹が、論理的な思考回路を圧迫し出した。


 小松梨杏の遺体とスマホを含めた所持品は、まだ警察にあるだろう。彼女は不審死扱いになっているはずで、そうすると司法解剖が行われるはず。病院と違い、警察署にはおいそれと紛れ込めない。バレたら、隼に怒られる案件が増えてしまう。

 それが一番コワイ。

「うん、一回帰ろう!」

 というわけで、病院前からバスに乗って、午後半ばに薔薇は帰宅した。


◆ ◇ ◆


「おかえりなさい。遅かったね。ごはんどうした?」

 迎えたエプロン姿の幸広には、午前休校になったことは連絡したが、寄り道のことは伝え忘れていた。そして、持ち帰ることになるはずのお弁当は、薔薇の腹の中である。

 夕映の決死の行動の後、颯爽と教室を出たが、ふと気付いて秒でUターンして、お弁当を広げたのだ。

「暴れることになるかもしんないし」

「腹が減っては戦はできないもんね。今日も美味しそうだなあ」

 などという薔薇と栄地の日常会話を聞きながら、机に突っ伏していた夕映はたいへん複雑な気持ちになっていた。むろん、二人は知るよしもない。

 そんなわけで、昨夜の晩ごはんの残りプラス今日の幸広たちのお昼ごはんの詰め合わせお弁当は、とっくに薔薇の腹に消えている。

「ごちそうさまでした! 美味しかった! 甘い卵焼き好き」

「お粗末様でした。変な時間だけど…えーと…冷凍してあるカレーで良い?」

「食べたい!」

 数分後、解凍されたカレー(具材ゴロゴロ中辛)と白米、インスタントの味噌汁がテーブルに並ぶ。

「いただきます!」

「鶺鴒さんから聞いたけど、学校についたら死人から動画が届いたってのは、凄い話だね」

 幸広がカレーの支度をしている間、薔薇はかいつまんで今日のことを話した。たしかに、今日の最恐ポイントはそこだろう。

「びっくりした。ほぼ喋ったこともないから、連絡先なんて知りようもないのに。完全に怪奇現象」

「さすがに鶺鴒さんも本腰いれて調べるとは言ってたけど、俺もちょっとだけ調べたよ」

 幸広は、紅茶と今日のおやつの手作りクッキーを置いて、チョコチップのを一枚齧る。

「病院は、インターネットしか見てないけど、ご当地心霊スポットとして、普通に有名みたいだね」

()()()()()

「ちょっと遠出するカラスとかに聞いてみたけど、情報ゼロ。庭に来る生き物たちはめったに川の向こうの新市街には行かないからな」

 幸広の「風の噂」、旧市街では最強レベルの情報網も、さすがに新市街まで及ばないらしい。

 薔薇はしっかり十回噛んで、味の染み込んだ野菜や肉を味わいつつも、むぐぐと唸る。ものすごくめんどうくさそうに、顔をしかめた。

「旧飛綿離病院は、普通だね。普通の心霊スポット。でも、周りがどんどん開発されてるのにポツンと残ってるのは、本当にやばくて後回しにされてるから、なんだろうね。地権者が複雑なことになってるとか、普通の理由じゃなくて」

「岩雄さんも鶺鴒もガチって言ってたしね…新市街のひとたち、はよなんとかしてくれんかね」

「あっちはあっちで、色々あるらしい。月宮さんちと同格の夢殿(ゆめどの)一族と、白夜くんと同格の待鳥(まちどり)家と、あとケツァールカンパニーがバチバチに仲が悪いんだってさ」

「えー、仲良くしろし、こっちみたく」

「たぶん、こっちみたい仲良しなのが激レアなんだろ」

「たしかに」

「それで、何する? 手伝うよ」

「ちょっと分かんなくなってきたから、まず頭の中整理するの助けて」

「もちろん」



◆ ◇ ◆



 手作りクッキーは秒でなくなったので、夕食後のおやつが先出しされた。()()()()()()()()()()()()()()()()

 ジャスミンミルクティープリンは、甘さは控えめだが、カレーの後なら、口の中は幸せでいっぱいである。それに考え事をするとなると、糖分が要る。

 薔薇は、今日の行動、今までの出来事、そして推理を思い付くまま話す。幸広が、たまに質問を挟みつつ、二人はプリンを食べ終えた。

「これ、一番コワイ流れは、薔薇以外にも日野凱斗から動画が届くパターン? 誰これってなるだけなのか、最後の殺害シーンを、見た人が「思い出して」精神的ダメージ入るか」

「なにそれコワイ」

 幸広の悪夢のような予想に、満腹の薔薇は朗らかに笑う。

「でも、石川大聖から届かない以上、物理破壊は間違ってないんじゃないかな。あとは連絡先関係をどこまで越えてくるか。もうひとつは、「動画を見たかどうか」も重要そうだね」

「見てないけど、「聞いてた人」、つまりクラス全員に届いてるよ」

「それなあ。連絡先消去がどこまで有効か。夕映くんは霊感が高いし、栄地くんは条件が特殊だしーー吉村夢奈を止めるために、()()()()()()()()()()()()()() 他にも霊感強めの人はなにかあるかもな」

「あたしはちょっととはいえ、クライマックスの一番やばいとこ見ちゃったからなー。あ、それに栄地は日野くんの断末魔聞こえてるよ。姫川くんはわかんないけど、聞こえてないんじゃないかな…」

 聞こえていたら、もっと怖がっているに違いない。夕映の霊感の、特に危機を見極める力はとても高い気がするから、聞こえていたら黙っていないはずだ。

「そう。栄地くんは、それがあるから、日野くんから届く可能性がある。他の人たちは、特に「連絡先消す」「動画を見てない」人たちは、この推察があってれば届かなくなるかも」

「どれだけ深く関わってるか、がポイントだと良いなあ。でもそんなんシカトで飛び越えてこられると、マジで流火さんたちに来てもらわないと」

「もしくは」

 ごちそうさまでした!と手を合わせて、食器を集めてキッチンの流しへ運ぶ薔薇。

 お粗末様でした、と答えて、スポンジに洗剤を含ませて泡立たせる幸広。

 桶に食器を滑り込ませた薔薇は、幸広の言葉の続きを待つように隣に佇む。

 満腹感にキラキラ輝く彼女の両目は、午後の最後の日差しを受けて、濃い蜂蜜のような金色。

 食器を洗う幸広の顔にも、日差しは降り注ぎ、色素の薄い彼の瞳は普段の雨雲のような灰色から、真冬の月のような銀色に光っている。

 どちらも、夜の闇を歩く捕食動物の瞳だ。


「できれば大人しく待っていてほしかったんだけど、そうも言ってられなくなってきたんだよな」

「うおっ」

「鶺鴒さん、いつのまに…」

 深夜営業の「店」に続くドアの横に、いつのまにか鶺鴒が立っていた。話に花が咲いていたとはいえ、ドアは薔薇も幸広も視界内だ。いったいいつ現れたのか。

 しかし、()()()()()()の鶺鴒は本当に気付くことが出来ない。もう怪奇現象扱いにしている。

「新市街がわの動きがトロすぎて、イラッとしたから「みちゃった」んだけど」

「おっと?」

「わお」

 いつもの和やかで優しい鶺鴒の笑顔は、別件のくそ忙しさからくるストレスも手伝ってか、苛立ちが隠しきれていない。ふだんは家族の命が危ないギリギリまで「のぞく」のを控える鶺鴒が。もしかして、キレ散らかしてるというキムンカムイ(ヒグマの神様)よりもやばいものが、ご機嫌斜めなのでは。

 幸広はちょっと、不自然なほど念入りに食器を丁寧に洗い始め、薔薇はなにかすることはないかと目を泳がせる。

 びびり散らかす家族に、鶺鴒は常と変わらぬ口調で告げた。

「流火さんを待ってると、間に合わないかもしれない」

おや。どこかで見たことのある名字…?

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