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第三十二話 心霊スポット突撃動画撮ったから見て!⑤

 翌日、事態は悪化していた。

 動画ファイルのコピーを貰って帰った数名が、自宅で突撃メンバーと似たような異常行動を起こしたのだ。


 ある者は、自身や家族に「みるな」と叫んで飛びかかり。


 ある者は、動画を最大音量で再生して泣き崩れた。


 これもまた不幸中の幸いで、家族が冷静な対処をしたおかげと、突撃メンバーほど激しい暴力を振るわなかったため、常識的な大人たちは「ショッキングな光景を見た子どものパニック」で納得し、片付けた。

 また、昨日の件で、普通に怖くて動画ファイルを消した者には異常行動は見られなかった。


 呪いの動画。


 それが、クラス全体の、総合認識となりつつある。事実、本物ではあるのだが、現代人の強固な現実認識が「呪いの動画により発生した、集団異常行動事件」などと認めるわけもなく、また処理できるわけもなく。


 なにかちゃんとした理由があるはず。


 と、大人も子どもも必死で理性で考えて、「みないようにしている」。


 しかし実は現段階においては、これが最善である。

 「みえないもの」への対処は、「みえるひと」や「しっているひと」の仕事。「みえないひと」は、みえないままでいるべきだーーと、昨夜帰宅してから鶺鴒が厳かに薔薇に諭した。


 まあつまり、なんもしないでイイコにしててね、と釘を刺されたわけだが。


 クラスの半分は休みだ。

 そもそも()()減っている上、自宅で異常行動を起こした数名が欠席。そして、普通に怖くて具合が悪くなり休む者がいるのも、正常な反応といえる。むしろ、出席してる半分の肝が据わっているといえよう。


「保護者説明会って、午後?」

「うん。うちの親、有給休暇とる理由書けるからラッキーとかほざいてて、キレるかと思った」

「キレてよくね? これだから現場にいなかった人はさー」

 出席者は、親も強いようだ。

 ちなみに、薔薇、栄地、夕映、学級委員長の一柳(いちやなぎ)明日翔(あすか)は、昼休みにまとめて警察の事情聴取があるとのことだ。


「一学期に二度、警察から事情聴取とかどういうことなの」

「笑えないけど、笑うしかないんだよね」

 浅見(あさみ)翼輝(つばき)が心からの同情を込めて、薔薇の背を叩く。

「ていうか薔薇ちゃんたち、スゴいよ。かっこよかった。わたし、頭真っ白になっちゃって、怖くなって逃げちゃったから」

 望月(もちづき)紅玉(ルビー)が眉を下げる。そういえば、昨夜はオンラインで一緒にゲームをする予定だったのにご破算したのだった。今更ながら薔薇は軽くイラッとするも、真面目に落ち込む紅玉に、

「んん……まあ、あたしも、咄嗟にっていうか。まず折笠先生が動いてたしさ。だからかな」

「ああ、誰かひとりが助けにはいると、続く人が出る、みたいなのあるんだっけ? まあうちのクラス、アレを録画するバカいなかっただけマシかな」

 と翼輝。紅玉は、「次はわたしも何かする!」などと拳を固めているので、薔薇は慌てて「いやいや大人呼んだり、AED取りに行くとかが正解だから。逃げるのも普通だから」と宥める。

 あれは、交通事故なんて生易しいものではない。絶対に逃げるのが正しい。

 朝のホームルームは、内容こそ昨日の件についてだったが、平素と変わらぬ折笠先生とそのスクエア型メガネに密かな感動を覚えつつ、岩雄や鶺鴒が片付けてくれるのが具体的にいつになるのかなあ、などと薔薇は思いを馳せた。



◆ ◇ ◆



「人手が足りない?」

 バイトを終えて帰宅した薔薇は、先に保護者説明会から帰っていた鶺鴒と共に夕食の席に着きーー今日は唐揚げとポテサラとサラダとスープーーびっくりして、しっかり味付けされた美味なる唐揚げをひとつ、味わうことなく丸のみにしてしまった。

「えっ、ヤバイ場所だから?」

「あそこはちょっと、ちゃんと強い人を派遣する必要があるんだよ」

 スープを飲んでから、鶺鴒は珍しく心底うんざりした様子で、冷たく言う。

「バカな人間の後始末が、大量に別件で発生してて、純粋にマンパワーがないんだ」

「はい?」

「もしかして黒崎(くろさき)先生も駆り出されてる件ですか? もう一週間ぐらい、課題だけでオンライン授業すらないんですが」

 口を挟んだのは幸広。薔薇たちの夕食を食卓に並べ、自身はハーブティーを淹れて席に着く。

 黒崎というのは、学校へ行けない幸広の複雑な事情を知った上で、家庭教師をしてくれている霊能力者だ。幸広以外にも、超常的な事情のある子どものために、自宅に来てくれ、今では本来の仕事先からオンラインのビデオ通話で、一般的な授業から、「人間的な常識」まで教えてくれる。黒崎自身、凄腕の霊能力者であり多忙を極めているのだが、自分が子どもの頃まともに学校に通えなかった経験を踏まえて活動している本物の善人である。しかも幸広に教える片手間に、薔薇に数学を教えてくれるというマルチタスク超人だ。


閑話休題。


「そうだね、もちろん黒崎さんもてんやわんやだよ。流火(りゅうか)さんも瓊助(けいすけ)さんも、日本全国駆け回って家に帰れてない。一応、オレも働いてる」

「え?!」

「店にいないの?!」

「店にいながらできる限りのことを。店にご足労いただいてもいる……おかげで日本中の業界人の通常業務が滞っててね……そろそろ、なんか面倒くさくなってきた」

 本当に疲れきった人の声音の最後に、絶対零度の囁きがこぼれ落ちて、薔薇はびくっと震えてポテサラをもぐもぐしながらそっと幸広を見る。幸広もマグカップを持ったまま薔薇を見ていた。両者の瞳には、怯える己の顔が映っている。

 薔薇と幸広にテレパシー能力はないが、今同じことを考えているだろうことは、七年間共に暮らした経験から分かるーーーああ、これたぶん人がたくさん死ぬんだろなあ、と。


「えっと……それはそれとして? こっちはどうなっちゃうの? 普通にヤバイよねこっちも。あ、そういえば説明会ってどんなんだったの?」

 別件で惨劇が進行していることに気付かぬふりをし、薔薇は我が身にふりかかる問題に目を向けることにした。

 警察の事情聴取は、実に平和なものだった。薔薇と夕映にとっては、二度目ましてとなった四十路の刑事さんに心から同情されたぐらいだ。端からみれば、薔薇と夕映の件も、今回の件も、二人は巻き込まれた被害者だからだ。一点だけ、()()()()()()()()()()()()()について尋ねられたが、首をかしげておいた。疑われているというより、心配されているようだったので「気を付けます」とだけ答えた。


「ああ、説明会ね。原因はまだ調査中だけど、過去の事例なんかをあげたり、最大限のサポートをしますから相談してくださいってだけ。他に説明のしようもないし、とにかくちゃんと動いてますよっていうアピールというか。家で暴れた子もいるし、もやっとしたまま、なし崩しに終わったけど、無理やり納得するしかないから」

「待って、過去の事例ってなに? 前にもあんなことあったの?」

「あるよ。春星高校以外にもたくさんね」

「どういうこと?!」

「いやいや、普通に違法薬物とか、あと古い話だけどコックリさんブームのときの集団催眠からの集団ヒステリー事件とか、今回もそういうのに類似した騒動だったのではないかって」

「あー」

 1970年代、社会現象になった降霊術「コックリさん」。現在、科学的には「催眠を誘発する危険行為」として認知されている。99%は単に嘘、自己暗示、集団暗示によるパニック。1%の本物を引いた者はたぶん生きてはいないので、科学的にはノーカウントといえる。

「心霊スポットで徹夜で騒いで、学校で更にテンションあげて、無意識に「取り憑かれたかも」「呪われたかも」って自己暗示をかけたんじゃないかっていうのが、説明会では最有力な雰囲気だったかな」

 警察は、そこに薬物が絡んでいないかを調べているのだ。

「まあ、それしかないよね、ふつう」

「でも、今回は違いますよね」


 薔薇が見た「忘れられた六人目」である。


「そうだね。日野凱斗くんのことは、()()()()()()()ようだったよ」

 鶺鴒は、ふう、と悲しげに微笑んだ。そして、変わらぬ柔らかな笑みのまま続ける。

「だから、今回はできれば流火さんぐらいのひとに来てほしいんだけど」

「でも別件で動けない、と」

「ええと、確か今、北海道でバチクソにキレ散らかしたキムンカムイに会いに行く予定だったかな」

「幸ちゃん、キムンカムイってなんだっけ」

「ヒグマの神様」

「流火さん以外に対応できる人類いねえわそれは…」

 もはや想像するのも怖い。でも流火さんなら大丈夫だ。でも、他にもそんなレベルのことが日本中で起きているって、どういうことなの…薔薇は、即・考えるのをやめた。

「だから、とりあえず何事もなければ触らないこと。岩雄さんはさすがだね。六人の連絡先を消させたのは」

「それってさあ、呪いの動画を送りつけられる的な?」

「そうだね」

「……クラスの他のみんな、だいじょぶかなあ」

短編「祠を壊さないでください」の余波です

オンライン会議は今夜の予定です

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