第三十話 心霊スポット突撃動画撮ったから見て!③
教室は二階だから、もしかしたら助かったかもしれない。でも、薔薇に出来ることはない。癒す術を、彼女は全く持っていないから。
薔薇は即座に思考を切り替え、人体がコンクリートに叩きつけられ絶望的に破壊された音を聞きながら、入れ替わって夢奈を押さえ込む栄地を振り向く。
ふだん、ほんわかぼんやり気味の美少年、月宮栄地。
目が、再び合う。
彼の両目は、鮮血のごとく赤く輝いていた。
光の当たり具合などというものではない。明らかに燐光を放つ、異形の、しかし美貌に妖艶さを加味する美しい赤色。
体格も、学生服が破れかねないくらいに、ひとまわり大きくなっている。
栄地が、本性をさらけだしかけているのだ。
それほどの力で、吉村夢奈は暴れ狂っている。彼女もまた、己の身体を自ら破壊せんばかりのフルパワーを出しているのだ。
「さっき確認しとけばよかったな」
「うん」
ちらっと青山を見ると、折笠が関節技を極めて床にねじ伏せている。あれは、かなりの有段者の腕前だ。それでも、痛みを感じていないらしい青山は、曲げては行けない方向へ関節を動かしていて、それを夕映と一柳が必死で掴み止めている。
かなりの地獄だが、青山は制圧した。
夢奈も、人間の少女が自らの肉体限界を突破しようと、本気の栄地を振りほどけるはずはないので、解決済み。
どちらも、たぶん、だが。
「栄地、六人だったよね?」
「ああ。間違いない」
「まだ押さえていられるよね」
「なんとかね。制服が持たないかも、俺の」
口角を上げて、珍しく大きく笑って見せる栄地。その麗しい唇から、太い牙が覗く。魔性が足された、絶世の美貌が浮かべる笑顔に、薔薇は信頼の籠った笑顔で頷くとーー現在教室を満たす三つ目の爆音ーー石川大聖のスマホへ駆け寄る。
石川本人は、相変わらず丸く身体を縮めて椅子の上に綺麗に乗っているだけだ。だいぶ粗相をしてしまっているものの、動かないなら平和なものだ。
一方で、机の上のスマホは、耳をつんざく大音量で動画を再生し続けている。
薔薇は躊躇うことなく、スマホを床に払い落とすと、加減無しの全力で踏みつけた。
ボンッと軽い爆発音がした上に、床が同心円状に爆ぜた。上履きを履いた足をどければ、凹んだ床と粉微塵の元スマホ。
そして、動画の音声も当然消える。
同時にスイッチを切ったような静寂。
青山宇宙、吉村夢奈が暴れ叫ぶのを止め、糸の切れたマリオネットのごとく脱力して、意識を失う。
椅子の上の石川も、ぐんにゃりと弛緩して、床に崩れ落ちた。
「何の騒ぎだ?!」
風紀委員で体育教師の斑目が、奥のドアから教室に飛び込んできて、「ああ、なんか最近もこのセリフ聞いたなあ」と薔薇は盛大にため息をついた。




