引っ越し
茂さんが首を吊って自殺したとの情報が入った。扉の取っ手に衣類を繋ぎ合わせた輪っかで、首を吊ったと。
それを聞いたとき、僕の中である決心がついた。
この村を出よう。
きっと愛花姉さんの言う通り、この村にいればいつまで経ってもスミレさんと過ごした日々を思い出すだろう。
そう思って、僕は姉さん達にそのことを打ち明けた。皆悲しそうだったけど、どこか仕方のないことだと諦めているようにも見えた。
僕は養子なので、養子縁組を解消させて養護施設に戻るだけでいい。
でも、そこまで汽車でとても長い時間がかかるのだ。
逢園村に来たときは、お父さんとお母さんと一緒に汽車に乗って来た。でも今回は、お父さんもお母さんもいない。
姉さん達は、隣の村にしか行ったことがないので、僕を誰が送ろうかと話していた。そこに、瀬戸さんが手を挙げる。
「私もそろそろお暇しなきゃ。結構長い間お世話になっちゃったから、恩返しのつもりで……いいかな」
これには皆が承諾した。
両親二人がいなくなって、親しくしていた茂さんもいなくなって、親代わりに色々助けてくれていた瀬戸さん。
ついに、いなくなってしまう。皆は悲しいような、でもこれが当然だから悲しめないような複雑な表情だった。
……でも、別れなきゃいけない時は、いつかは来る。
「手紙を出すよ。それで、たまに梅園家にお邪魔するから」
皆の心情を察したのか瀬戸さんはそう言った。
結局、瀬戸さんが家に戻るついでに僕を施設まで送り、ちゃんと送り届けた旨の手紙を書いてくれることになったのだ。
そして今、僕は施設に引っ越す準備を終えて、一人でスミレさんのお墓に来ていた。
松園菫と彫ってある。
梅園家に、嫁入り前だったから……。
僕達が付き合えて、すぐに死んでしまった。あの日付き合って、唇を重ねて、何度も何度も視線が交わったこと、それは僕とスミレさんしか知らない。
その多幸感も、亡くなってしまったことの喪失感も悲しみも、僕と皆では違うのは当たり前なのだ。
お母さんが、お父さんの死でおかしくなってしまったように。
立ち直れないのは仕方がない。きっと僕は一生立ち直れない。だからこの村を出よう。
僕は線香にマッチで火をつけて立てた。
つんできたニオイスミレの花をお供えして、両手を合わせて目を瞑る。
「……スミレさん、僕はこの村を出ます」
でもスミレさんのことは、今も忘れられなくて、好きなんです。
「絶対に忘れませんから……。さようなら」
目を開けると、煙が大きく揺らいでいた。
ニオイスミレの甘い匂いに、線香の匂いが混ざる。
僕は立って、お墓を後にしたけど、何度も何度も振り返った。スミレさんが後ろから手を振ってくれてる気がして。
最後に僕も手を振って、その後は振り返らずに階段を登った。




