流れる日々と現実
次の朝、僕はお母さんが使っていた化粧の粉でスミレさんの首の痣を隠した。
不思議と涙が溢れ出てきて、ああお母さんはきっとこんな気持ちだったんだろうと納得する。
まるでどこか遠くから見ているように、自分の身に起きることが他人事のように思える。お葬式も、野辺送りも、ぼうっとした頭でただ眺めていた。
しばらく学校を休んで、それでまたぽつぽつ行き始めて、でも授業の内容なんて何も頭に入って来なくて。
その間瀬戸さんは隣の村に行ったりしていた。鈴子ちゃんは、とりあえずはこの村の人の家に住むらしい。
表面上はすっかり立ち直ったように振る舞っていたけど、僕の心にはぽっかり穴が空いていた。
周りだけがどんどん立ち直って、忘れたかのように進み始めて、僕は全然立ち直れないでいる。成績も悪くなった。
でもそれくらいじゃ何も思わない。
お話の中の誰かが悪い成績を取ったのを見ていた、くらいの感覚だった。
でも今日、急に現実に引き戻された。
「香寿、また施設に戻る?」
愛花姉さんが僕を呼び出してそう言ったのだ。それは立ち直らない僕に対する脅しではなく、本気で僕を心配してくれてだった。
「今お付き合いしている良樹さんが、婿入りしてくれるって。……分かる? 小路良樹さん。英さんの子供の。……この家はあたしと良樹さんで、なんとかできるよ。
だって香寿……、スミレちゃんのこと忘れられないんでしょ? そんなんで結婚なんて、出来るわけない。この村にいて、辛くない?」
出て行って欲しい訳ではないのだろう。悲痛そうな顔をしていた。
「いなくなったら悲しいよ。でもさ、家族なんだから、香寿がずっと悲しみを背負って幸せになれないのはもっと辛い。幸せになって欲しいんだよ。こんな呪われた村じゃなくて、都会の普通の家で」
愛花姉さんの声が震える。
「香寿が、菫ちゃんの眠っているこの村に留まることで寂しさを埋められるならいいよ。でもあたしにはそうは見えない。この村にいることで悲しみを常に思い出してるように見える。
この村にいればきっといつまで経っても、菫ちゃんと過ごしたこと、やったこと、話したことを思い出すと思うよ。……辛いかもしれないけど、環境を変えれば心境も変わるかもしれない」
僕は愛花姉さんのその苦しそうな話ぶりに、何度目か分からない涙を流していた。




