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「うん」

 瀬戸さんがあっけらかんとした返事をする。確かに、家族間だから探せば理由はでてきたかもしれない。


「でも千愛ちゃんが犯人だったとすると、徳郎さんが亡くなった夜、矛盾が起きる。

 香寿君がその夜縄垂らしを見ていて、それは玄関から奥に向かって歩いていたの。言ってたでしょ? 香寿君」

「は、はい」


 返事をすると、瀬戸さんは話を続ける。


「足音すらも聞こえる静かな夜に、一度玄関まで行って再び徳郎さんの部屋に行っていたとは思えない。

 そもそも犯人が縄垂らしの格好をするのは、誰かに見られても不審がられないためだと思う。千愛ちゃんなら、家の廊下を歩いていたところで何ら不自然な点は無いでしょ。それどころか香寿君は徳郎さんの死と千愛ちゃんが廊下を歩いていたことを結び付けないはず。だから千愛ちゃんの可能性は低い」


「それで……茂さんに?」


「そう。消去法でね」

 そんなので良かったのだろうか。


「でも取り敢えず、絞れたには絞れたでしょ。二人の間に何があったのかはその時分からなかったけれど、梅園家にだけわざと警察の警護がつかなかった件があるから、裕一さんが誰かと協力しているかもしれない推理は濃厚になったの。そしてそこまで考えて、茂さんが手を下したと思われる証拠が、確実にできた」


 少しの間、全員の間に奇妙な沈黙が降りた。


 そして驚いたことに、瀬戸さんが、僕に深々と頭を下げたのだ。その見た目は土下座に近かった。


「菫ちゃんが殺されたのはね、実は私の責任もあるの」

「なんで……どうしてですか?」


 瀬戸さんは頭を上げない。きゅうぅ、と心が痛む。


「私は茂さんに目を付けていたの。それで本当は徹夜をしようと決めていた。でもね、寝る時間になって、ある程度寝室でじっとしていたら、急に吐き気と手の痺れがしてきたんだ。その後は厠にこもってずーっと吐いてたよ。もしかしたらその途中に茂さんが家を出ていたかもしれないけど、それは私には分からなかった。

 分かっても、とても追いかけられる状態じゃ無かった。それでしばらくして、気づいたら朝だったの。厠の中でぐったりしててね。寝ちゃってたんだと思う。

 その後もしばらく吐き気が酷くて、寝室に戻ってじっとしてた。そしたら……ね」


 そこで瀬戸さんはようやく頭を上げた。


「私が注意していれば、スミレちゃんが殺されるのは防げたはずなんだよ」


「瀬戸さん、瀬戸さんが注意するも何も、殺した人が悪いんですよ。だから瀬戸さんが罪悪感を感じなくても……」

 僕はとっさにそう言っていた。瀬戸さんは泣きそうな顔をして、少し微笑む。

「ありがと」


「……香寿。それは瀬戸さんに限ったことじゃないからね」


 愛花姉さんが、僕に向かってやさしく言う。表情は暗闇に溶けて見えない。


「でも瀬戸さん、どうしてそれが決定的な証拠になるんです?」


「ニオイスミレ」


 ぽつりと、そう一言聞こえた。誰が言ったのかはよく分からない。


「うん……そうだよ。ニオイスミレ。おそらく茂さんが、私の食べる物に混ぜたんだと思う。ここでご飯を食べた後紫首神社に戻ると、茂さんに味噌汁を出された。あまったからって。多分それに入ってたんじゃないかな。

 ニオイスミレの毒の症状は、嘔吐と神経マヒだし、花畑があるから簡単に入手できる。私が殺人に邪魔だったから……、毒を盛ったんだと思う」


「そんな……」


「詳しい裏事情は分からないよ。でも、捕まえたらすぐに吐いてくれた。やっぱり、裕一さんと協力してたんだって。それに、動機やらなにやら全部言ってくれた。殺したのは全員茂さんだってことも……ね」


 どうしてわざわざそんなに話したんだろう。言う意味はあったのだろうか。


「……香寿君って、参拝忘れたことある?」

「あ、ありません」

「そっ……か」


 瀬戸さんはそう言ったきり、黙ってしまった。

 蝋燭の火が、棺を暗闇に浮かび上がらせている。スミレさん、化けて出てきていいから、もう一度話せないだろうか。

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