汽車の中で
「愛花姉さん、結愛姉さん、千愛姉さん」
愛花姉さんと結愛姉さんは、目の周りが真っ赤になっていた。千愛姉さんは、眉を下げて笑っている。
「それじゃあ、行くね」
「行ってらっしゃい」
そう言って手を振って、最小限の荷物しか入っていない鞄を持った。それでもずっしり重い。
瀬戸さんと一緒に、汽車に乗り込む。扉が閉まって、窓からもう一度手を振った。
皆大声で別れを告げるほどの元気は無くて、静かに鼻をすする音が聞こえる。
「僕も手紙書くね」
「うん、また家決まったら教えて」
愛花姉さんが笑顔でそう言う。結愛姉さんはとうとう泣き出して、千愛姉さんがその背中を撫でていた。
汽車がゆっくり動き出す。早くなって、姉さん達の姿がどんどん小さくなって行く。
何度も何度も手を振った。見えなくなってから、席に腰を下ろした。
向かいに座っている瀬戸さんは、まだ外を眺めている。凄く懐かしい物を眺める眼差しで、口元は少し微笑んでいた。
「人、いないですね」
「……うん、田舎だからね」
僕が話しかけると、瀬戸さんは窓の外から視線を外した。くしゃくしゃの髪が、光を複雑に反射している。
「香寿君」
「はい」
急に名前を呼ばれたので身構える。瀬戸さんは、真剣な表情をしていた。
「着くまで……、お話をしよう。逢園村の歴史について」
逢園村の、歴史?
聞くまでも無く、瀬戸さんは話し始めていた。
「昔々、逢園村には松竹の家があり、村をまとめていた。松園家が村一番の権力者であり、竹園家が二番手。
途中までは松園家と竹園家しかなかったものの、別の村から梅園家が移住して来る。資産家であったものの、別の村から来たことで評判が悪かったので、最初は村八分のような状態になっていた。
そして偶然松竹梅と三つの家に格が付けられてしまったがために、段々と家の立場だけが一人歩きしてしまう」
「えっ、待ってください、梅園家は最初は無かったんですか?」
元からあるものだと思っていたのに……、別の村から来ていたからこんなに下の立場だったのか。
「そうだよ。梅園家は逢園村の出身では無いの。どうやら最初は松園家が本家、分家が桃園家と竹園家だったらしい。そこに偶然似た苗字の梅園家が入ってきて、立場が全く違うと言うのに苗字で松竹梅になるから、村の三番手になってしまう。
一応村をまとめている立場に入っているけど、名ばかりでそれ故に一般の家よりも立場が低い」
だから、一見すると立場が良く見えても実際は立場が低かったんだ……。
「まあ一応それが松竹梅の家の歴史ね。
そしてあるとき、松園家に菫と言う名前の女の子が生まれる。別に目が菫色でもなんでもない、普通の女の子だった。そして菫が大人になり、結婚する相手を親に決められる。しかし、菫は竹園家の高寿と恋仲だった。
二人の親は聞く耳を持たない。そして二人は菫が結婚する夜、自分達の結婚を許さないこの村を恨んで自殺した」




