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首吊り死体が呪う村、痣のスミレの狂い咲き  作者: 藤野
第六章 戻らない日常
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梅園愛梨

「人殺し! 人殺しっ!」

 普段のお母さんからは想像もできないような恐ろしい声で、僕に手当たり次第物を投げつけてくる。


 僕はそれからスミレさんを庇うことしかできない。

 弁解なんてする暇も無いし、僕もまともに喋れない。


 スミレさんの冷たい体が、僕の体温で微かに暖かくなり、まるで生きているかのようだった。紫色の瞳と、首の痣が全く同じ色をしている。……偶然なんかじゃ、無いみたいに。


「お母さん!? なにやってるの——香寿、菫ちゃ……」

 愛花姉さんがやってきてお母さんを取り押さえたのか、背中に何かが投げつけられる感覚が無くなった。

 ドタドタと暴れる音と、うめき声と、姉さん達の声がする。


 僕はただ、スミレさんを抱きしめ、泣いていた。




 いつの間にか、涙は枯れて、辺りも静かになっていた。肩を叩かれたので振り返ると、千愛姉さんだった。


「今ね、愛花姉さんと結愛がお母さんを別室に移してるから。……多分、疲れてて……おかしくなっちゃっただけだと思うの……。私達は香寿がやったなんて思ってないから……、香寿、菫ちゃんが大好きだったでしょう。だから、犯人、見つけようね……」


 千愛姉さんは静かにそう言うと、部屋を出て行った。


 僕は抱きしめているスミレさんを見つめる。そこに命があるようには、とても見えない。等身大の人形のように見えた。紫の目には、僕が反射して映っている。


 前は誰が映っていたかさえ分かれば、犯人が分かるのに。


 そう思うけど、そんなことはできない虚しさで胸が痛む。また涙が溢れてきて、僕はそれをボロボロと自分の服に落とした。


 ひとつひとつ、服に涙の染みができる。どんどん繋がって、大きくなって、それでも涙は止まらなかった。


 今までこんなに泣いたことは無かった。前のお母さんとお父さんが事故で死んだ時も、何も思わなかった。


 スミレさん……。


 いろんな人から差別されて、見下されて、それなのに最後までこんなに酷いだなんて。

 せめて、ちょっとでも救ってあげたかった。自分が情けない。


 あんなに、スミレさんはあんなに優しくていい人なのに、なんでこんな仕打ちを受けなければならないんだろうか。


 僕はスミレさんの手を握った。


 冷たい。皮膚が前よりも硬く感じる。


 足音が聞こえて振り返ると、愛花姉さんだった。


「香寿……。お母さん、あたし達のこと、分からないみたい」


 絶望した顔でそう言われた。

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