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首吊り死体が呪う村、痣のスミレの狂い咲き  作者: 藤野
第六章 戻らない日常
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恋人

 あの後何事も無かったかのようにそれぞれ居間に戻った。あの異空間での出来事が、本当にあったという証拠は、唇に残る感覚と、妙に交差するスミレさんとの視線。


 瀬戸さんの作ったと言う料理を皆で食べて、その後瀬戸さんは神社に行ってしまった。


「あのね皆。お母さんは知ってると思うけど、今日は松園家と竹園家が警察に警備されてるからね。うちは残念ながら警備無し。だから念の為、あたしと結愛と千愛で同じ部屋で寝ます。お母さんと香寿と菫ちゃんも、同じ部屋で寝てね」


 愛花姉さんにそう言われて、僕は今お母さんの部屋で布団にくるまっている。

 たまたま同じ部屋で寝ることができて、僕は心の中で密かに喜んだ。お母さんはもうすでに寝息を立てている。疲れているんだろう。


 スミレさんの方を見ていると、目が合った。微笑まれる。

 ああ、可愛いなあ。


 強烈な眠気が僕を襲って、僕は押しつぶされるように瞼を閉じた。

 寝顔も見たかったのに。

 でも、明日早起きすればいいんだ……。


 そう思って、睡魔に身を委ねた。






 ぼんやり、周りが見える。まだ暗い。夜なんだ。

 寝てしまおうか——。

 そう思ったものの、違和感を感じ目を見開いた。


 いない?


 スミレさんが、布団の中にいなかった。


 ——ドク、ドク、ドク。


 鼓動が早まる。


 ——ドク、ドク、ドク。


 嫌な予感がする。

 上を見上げる。









 首を……吊っていた。








「スミレさん? ……スミレさん!」


 呼びかける僕の声が震えている。足が氷のように冷たい。


 人形のように白くなって動かない体で、ぼんやりと目を開いて、首に鮮やかな色をした紫色の痣がついていた。


 涙がボロボロ出てくる。


 どうして。寝る前までは、微笑んでくれていたのに。唇に残っているあの感覚が、寂しくて寂しくてたまらない。


 スミレさん……。スミレさん……!


 何度叫んでも返事は無い。

 泣きじゃくりながら、僕はお母さんの椅子に乗った。せめて、せめて縄を外してあげよう。


 でも泣きながらじゃ上手くいかなくて、全然外れない。ごめんなさい、スミレさん……。僕が、同じ部屋に寝ていたというのに、守れなくて、本当にごめんなさい。


 何度も何度も謝った。すると、スミレさんの体の向こうからけたたましい悲鳴がした。

 その瞬間、縄が解けてどさっ、とスミレさんが落ちる。


「スミレさん! すみません、痛かったですよね、すみません……」

 すぐに椅子から降りて、スミレさんに謝る。悲鳴の方を振り向くと、お母さんだった。


「あ……ああ……、私の息子が……!」


 お母さんが涙を流して、絶叫した。手当たり次第物を投げつけてくる。


「人殺し! 人殺し!」


 それをかばってスミレさんを抱きしめる。余計に、冷たいのが分かって辛かった。背中や頭の痛みなんて全然分からない。


 どうしようもなく辛くて、悲しくて、悔しくて、不甲斐なくて、涙が次から次へと溢れ出てくる。


 スミレさん。今日僕の恋人になってくれた、スミレさん。


 ごめんなさい……。守れなくって……。



 ぼんやり開いた紫の瞳に光は無い。


 ああ、あなたは最後に、何を見たんですか。

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