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首吊り死体が呪う村、痣のスミレの狂い咲き  作者: 藤野
第六章 戻らない日常
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 僕は祐三さんと分かれて、ちょっとご機嫌で家に帰った。


 手を洗い居間に行くと、瀬戸さんとお母さんが話していた。姉さん達はまだ帰ってきてないようで、スミレさんはどこにいるのか……。


「お母さん、スミレさんどこか知ってる?」

「さあ……。あっ、あのねぇ香寿、晴ちゃんが今日掃除とかお料理とか色々やってくれたのよ」


 お母さんが嬉しそうに瀬戸さんの手を握る。すっかり打ち解けていた。


「いいんですよ、お母さん。色々あって……疲れてるでしょう。今日はゆっくり休んでください」


 お母さんの顔色が昨日よりも良くなっていた。

 スミレさんを探すために立ち上がり、とりあえず僕の部屋に向かう。赤茶けた光が差し込んで、廊下がまるで異空間のようだった。


 僕の部屋の襖が開いている。


 どうしてだろう?

 

 僕はおそるおそる、中を覗き込んだ。


「あっ……、香寿、さん」

 僕の部屋にいる、スミレさんと目が合った。

「あれ? スミレさん、どうしたんですか」


 なぜ僕の部屋にいるのだろう。


 なぜいるのか聞いただけなんだけど、スミレさんは、ぼっと音が鳴りそうなくらい赤面した。


「……香寿さんがいなかったので……つい……、その、何も触ってませんから……」

 スミレさんが外に出ようとしたので、つい襖を閉めてしまった。スミレさんは僕が怒っていると勘違いしたのか、びくりと体を震わせた。


「あ、い、いえ、怒ってるわけじゃないですよ……。座ってください」

 スミレさんは部屋の真ん中にゆっくり腰を下ろす。

 僕も床に座った。


 何を話すでもなく、沈黙が流れる。


「あっ、あの、スミレさんっ」

「は、はい」

 いきなり僕が喋ったので、スミレさんは驚いた顔をした。


 小さく可愛らしい唇。そこに、口付けをしてみたい。

 光を浴びてつやつやと光る唇から、僕は目を離せなかった。


「香寿さん?」


 名前を呼ばれて我に帰る。今度は、その紫色の瞳を、じっと見つめた。昨日、スミレさんは迷惑なんかじゃないと言っていた。恋仲になりたい……。スミレさんと……。


 こんなことを言えば気持ち悪いと思われるかもしれないけど、でもやっぱり、我慢はできなくて。


「……僕、スミレさんとお付き合いしたいです」


 スミレさんは真っ赤な顔をして、また泣きそうになっている。


「はい」

「えっ?」


 思わぬ返答に、変な声が出た。さすがに拒絶されるとは思って無かったけど、まさかこんなに早く了解の返事をくれるだなんて……。


「香寿さん、私も好きです。お付き合いしましょう」


 スミレさんは、泣きながらそう言うと、恥ずかしそうに笑った。嬉しくて嬉しくて、僕も涙が出てくる。


「ほんとですかぁ」


 僕はスミレさんの柔らかい手を握って、啜り泣きながら情けない声を出した。


「スミレさん」

「はい」

「……接吻したいです」

「いきなりですね」


 泣き笑いながらも、スミレさんは承諾してくれた。


 綺麗な紫の瞳をじっと見つめると、恥ずかしそうに目を逸らされた。そして閉じられてしまう。


 うるさい胸の音を感じながら、僕はスミレさんの顔に手を添えた。

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