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首吊り死体が呪う村、痣のスミレの狂い咲き  作者: 藤野
第六章 戻らない日常
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夕暮れ

 僕は家に帰ってすぐ学校へ行き、学校から帰って来た頃には雨も止み、綺麗な夕暮れ時だった。



 水溜りを避けながら歩く。ぐーんと伸びた自分の影が、まるで大人になった僕みたいだった。

 ……これから、どうなるんだろうなあ。


 漠然とした不安が、胸の中で渦巻いていた。

 すると、向こう側からこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。何やら沢山荷物を持っている。


 目を凝らす。僕も進むし、向こうも近づいてくるので、段々とそれが誰だか分かってきた。


 祐三さんだ。


 竹園祐三さん。でも分かったところでどうと言うことでは無い。でも、あんなに荷物を持って何をするんだろう。物凄く、それが気になりだした。


 聞こうか。でも、怖い。喋ったことがないし、向こうも僕の顔なんか覚えてないだろう。会食のときは優しそうに見えたけど、一対一だと何をされるか分からない……。


 でも、どんどんどんどん距離は縮まる。


「あ、あのっ、その荷物……どうしたんですか」


 祐三さんはちょっと驚いたように足を止めると、僕の顔と荷物を見比べた。

 ちょっとして、何かに納得したように「ああ」と言う。


「お前、梅園のか。……家を出るんだ」

「えっ?」


 こんな間抜けな返答をすると、松竹の家の人は大抵馬鹿にしそうなものだけど、祐三さんは馬鹿にするでも怒るでも無く続けた。


「家出だよ。あんな家にはもういられねえからな。お前もそう思うだろ?」

「……ちょっとは、ですけど……。でも、どうして今なんですか?」


 確かにそう思ってるので、否定はできない。でも竹園家の人に面と向かってそんなことを言うのも怖い。


「家が入れ替わるんだって? 俺はあんなの知らなかったんだ。でも親父もお袋も、裕一と裕二も知ってやがった。どーせ首吊りのことなんかも、あいつらが色々やってたんだろ。あんな人の血が流れてねぇ奴らと一緒にゃ住みたく無いね。

 あとなんだ、あー……あの、スミレ? だったか、女の子」


 この村でスミレさんの名前を覚えてない人なんて、いたんだ……。


「は、はい、合ってます」


「俺は祟りだのなんだの信じてないからよ、結婚すんなら祝福するぜ」

 ニッと口角を上げて、肩をぽんぽんと叩かれた。

 泣きそうになる。


「あと最後に……。もし竹園の誰かが犯人だったとして、裕二は絶対に無い。あいつには自分でやれるような覚悟は無い上、裕一が当主になって、自分は次男として楽をして甘い蜜を吸う気満々だ」


 そんな人なのか。祐三さんのうんざりしたような言い方に、よっぽど嫌っているのが分かる。


「それじゃ、俺は行くぜ。汽車が行っちまうからな。んと……なんてったっけ、お前」

「香寿です」

「コウジュ、達者でな」


 そう言うと、手を振って行ってしまった。

 気がつくと、僕の影はますます長くなっていた。


 あの時声をかけたおかげで、祐三さんが良い人だと知ることができた。それに、思わぬ収穫もあったし。

 そんな事を考えながら、一人とぼとぼ帰路を歩く。


 僕の影の隣に、スミレさんの影を想像した。

 二人は大人で、もうすでに結婚していて、愛し合っている、なんて妄想をする。想像の中の二人が、口付けをした。


 僕の顔も熱くなる。


 夕暮れ時の、空に溶けかけている真っ赤な太陽が、ついでに背中も熱くした。

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