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首吊り死体が呪う村、痣のスミレの狂い咲き  作者: 藤野
第六章 戻らない日常
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家を継ぐ覚悟

「申し訳ありません」

 愛花姉さんがあくまで素っ気なく言うと、愛さんはきっ、と僕達を睨みつけた。

 僕はおずおずと座布団に座り、ずらりと並ぶ松竹梅の家の人達を眺める。


「……そこのあなた」

 誰に言っているのか、愛さんが言う。

「聞こえないのかしら? そこのあなた!」

 声が大きく厳しくなる。心なしかこっちに向かって言っている気がした。


「梅園香寿!」

 名前を呼ばれて飛び上がる。心臓がばくばくうるさい。皆の視線が僕に集まっているのを感じた。


「は、はい……」

 かろうじて返事をすると、愛さんは不満そうにため息を吐いた。


「何歳だか知ったこっちゃないですけどねぇ、あなたはそんな歳でちゃんと後継になれまして? うちの壮一郎や、竹園さんの裕一くんを見て恥ずかしいと思いませんこと?」

「あらやだ愛さんったらあ」


 愛子さんがくすくす笑う。


「それに嫁入りするのが……ねえ、愛さん」

 耳打ちするかのように、愛子さんが言った。

「ええ、ええ、村の皆様にも、本当に申し訳ないですわ。わたくし本当に後悔していますもの。欲を出して三人目の子供を産もうと思ったから……きっと神様が罰を与えたのでしょう、それであんな子を……。

 いくら出来損ないだって、あんな厄そのもののような子を嫁がされたらいつか気でも狂ってしまいますわ」


 わざとらしい申し訳なさそうな顔の後に高笑いをすると、また嫌味ったらしい視線を投げかけてくる。

 目がかーっと熱くなった。


「母様、お酒をお注ぎします」

「ありがとうねぇ、愛菜」

「あらぁ、愛菜ちゃんもすっかり色っぽくなって……。いい人はいるのかい?」


 愛菜さんは性格がきついことで有名で、村中探しても彼女と結婚したい人はいないだろう。


「愛子さんも益々お綺麗になられて……、私、愛子さんにお化粧を習いたいくらいですわ」

「化粧映えしそうなお顔をしているものねえ」


 松竹の家は、梅園家とは違って表面上は良好な関係を演じている。

 しかし、裏では松園家は竹園家を見下し、竹園家は松園家を悪く言っているのだ。

 会話なんて皮肉ばっかりだし、松園家は自分達が金持ちで身分が上なことを言いまくる。

 壮一郎さんも、頭はいいが性格は良くないらしい。喋っているのを見たことが無いので真偽のほどはわからないけど、僕達やスミレさんを見る目が怖いほど冷たかった。



 なんだかとても辛い気持ちで大人たちを眺めていた。



 スミレさんを守ってあげたい。いや、守ってあげたいじゃ押し付けがましいような気がするけど、あんな家族がいて、でもとっても素敵な人で、ずっとこのままでいて欲しいような気がする。


 僕が家を継げるのか。


 竹園家の方をちらりと見た。

 裕一さんと裕二さんは礼儀正しく座っていたけど、驚いたことに祐三さんは自分の親を睨んでいた。松園家を見ているんじゃ無い。


「……親父が死んだんだろ、何楽しそうに酒飲んでんだよ」


 その一言で、この場の秩序が、崩れ落ちた気がした。間違いなく今のは祐三さんが言った。

 ……竹園家に、こんな人がいたんだ。


「何か言いまして?」

 愛さんが愛想笑いすらもしていない顔で愛子さんを見る。

「猫か何かですよ、きっと」

 顔は笑わず、声だけ笑っているような奇妙な様子で愛子さんはそれに答えた。



 きっと僕が梅園家の当主になれば、毎回毎回会食で他の家と比べられるのだろう。



 ……自信がない。

 ……いまひとつ、覚悟ができていない。

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