8.新人の大騒動
翌日僕は食堂に向かいながら、魔王にどうすればいいか相談する。
『懲罰室に行くってどうやって行けばいいの?』
『そんなん騒ぎ起こせばいいだけよ』
『だからその騒ぎだよ。何すればいいの?』
『手っ取り早いのは喧嘩だが、それだと相手も懲罰室に入れられるな。そうすると・・・・適当に兵士殴ればいいじゃね?』
えー。乱暴だな。そもそも人を殴るとか僕した事ないんだけど。
『僕喧嘩した事ないんだけど?多分上手く殴れないと思う。っていうか魔王の力で殴っても大丈夫なの』
魔王の頑丈さは知っているけど、力がどれだけ強いのかはまだ僕はよく分かってないんだ。
『あー、そうか。よく考えたら俺の全力で殴ったら、多分普通の奴は体ごと吹き飛んで死ぬな。・・・って事で軽くチョンって殴るだけにしろ』
『いやいやいや、無理だよ。殴ったら頭体ごと吹き飛ぶってどんだけ馬鹿力なのさ!そんなのどれだけ手加減したらいいか全然分かんないよ!』
すっかり忘れていたけど、僕の体って魔王のなんだよなあ。基本的な所が僕の体と全然違う。もう無茶苦茶だよ。
『文句ばっかり言いやがって!それなら逃げるって方法はどうだ?それなら誰も殴らなくてすむぞ』
『・・・・・いいじゃん!それなら誰も痛い思いしないし、僕も上手く出来そうだよ』
そうして作戦が決まり、細かい所は魔王の指示で動く事になった。そして食堂に入ると、既に待っている他の班の面々から物凄く注目を集めているのが分かる。
「おい、どうなっている?」
「全員腕があるぞ」
「じゃあ、昨日の話は嘘だったのか?」
「いや、でもあの匂いは説明がつかねえ」
ボソボソと話している声が聞こえてくると、前を歩く3班のみんなが、下を向いて歩きながら肩を震わせている。多分笑いを堪えているんだろう。
けど、そんないつもと違うだろう様子にすぐに兵士が気付いた。
「貴様ら!何をボソボソ話している!私語厳禁だ!次に話した奴はぶっ叩くからな!」
兵士さんは手に持つ棒をこれ見よがしに机に叩きつけ、大きな音を鳴らす。
「おい!3班!貴様ら何がおかしい!!」
そしていよいよ3班の異変にも気づいたみたいで、数人の兵士が棒を手にこっちに近づいてくる。
『誰か叩かれそうになったら止めに入れ』
魔王から指示が出された。言われなくても止めるつもりだ。
「おい!3班班長!顔をあげろ!何を笑っている!!何がおかしい!!」
「・・・・いえ・・・特に・・・おかしくは・・・ぷふ」
「貴様ああああああああ!!」
班長が耐えきれずに思わず噴き出したら、兵士の1人が棒を振り上げ、振り下ろす。それを見た班長は腕で防ごうとはせず、ただ体を固くしただけ。
・・・けど班長には棒が振り下ろされる事は無かった。班長に当たる直前に僕が兵士さんの腕を掴んで止めたからだ。
また怒られるんだろうなと思ったんだけど、予想と違い腕を掴んだ兵士さんが苦しそうな声をあげた。
「・・・・ぐあ」
その声が響くとすぐに周りの兵士が僕を取り囲んで大声で怒鳴りつけてくる。
「36番!またお前か!貴様仲間を庇うか!」
「貴様は問題ばっかりだな!今日は覚悟しろ!!」
「おい、どうした?大丈夫か?うわ・・・おい、これ腕が折れてねえか?」
いや、流石にそれは無いよ・・・・よね?ただ、痛がっているのは・・・・僕のせい?
『うわー。人ってのは脆いな』
呆れる魔王の声が聞こえる。お、折れてないよ!って文句言いたいけど、今はそれどころじゃない。
「だ、大丈夫ですか?」
取り敢えず痛む腕を押さえて、辛そうにしている兵士さんに声をかける。
「大丈夫な訳ねえだろ!36番!今日という今日は許さん!俺達兵士に反抗すると、どうなるか思い知らせてやる・・・いててて」
けど、兵士さんからは怒鳴り声と共に、無事な手に持つ棒でおもいっきり顔を殴られた。これだけ元気なら大丈夫かな。
「36番!来い!貴様は今日も懲罰室行きだ!」
『よっしや!来たー!ケラ!作戦開始だ!』
兵士さんのその言葉に魔王が嬉しそうに反応する。そして魔王の指示に従い僕は作戦を始める。まずは、叫び声をあげて、その場から走り出すんだったよね。
「ちょ、チョウバツシツハイヤダー」
『お前、演技下手すぎ。もうちょい上手くやれ!』
そんな事言っても、今まで演技とかした事ないから仕方ないでしょ!
「逃げたぞ!」
「脱走だ!応援を呼べ!」
僕の叫びに、すぐに兵士さんが反応して、辺りに笛の音が響く。
『と、取り敢えずどうしたらいい?』
『多分、応援を呼んだっぽいから、来るまで逃げて叫びながら食堂を逃げ回れ!そんで応援が来たら、そいつらが入って来た扉から逃げろ!』
魔王との打ち合わせ中にも僕を捕まえようと兵士さんが追いかけてくる。
「ごめんなさーい!ごめんなさーい!」
「ふざけやがって!謝るぐらいなら止まれ!」
『アハハ!ケラ何で謝ってんだ?』
『魔王が叫べって言ったからでしょ!』
謝り方が足りないのか、兵士さん達が凄い怒って沢山追いかけてきた。
『ハハハハ!見ろケラ!作戦成功だ!めっちゃ追いかけてきてる!』
追いかけてくる兵士さんの数を見て、何が楽しいのか魔王が大笑いしている。
こっちは笑い事じゃないのに!
「おい!そっちに行ったぞ!」
「挟め!別れて追いつめろ!」
「お前らは席に座って動くな!動いたらお前らも懲罰室行きだ!」
他の人達は兵士さんから怒鳴られて、席から動かず逃げる僕をただ眺めている。
「よし!挟み込んだ!」
「36番!いい加減観念しろ!」
長い机が並ぶ食堂の左右の通路から兵士が駆け寄ってくる。前後はみんなが座る机があり、その向こうには既に兵士さんが回り込んでいる。これ完全に追いつめられた。
「ごめんなさーい、ごめんなさーい」
『ど、どうすればいい?追いつめられたよ』
『バーカ、どこが追いつめられたんだ?飛べ、飛べ、今のお前ならそこから壁まで飛べる』
魔王の言葉を信じてジャンプしたら、本当に飛べた。自分でも信じられなくて、謝っている途中だったけど、思わず驚いてしまう。
「ごめんな・・・・うそおおお!すごい飛んだ!!!」
そして僕のジャンプ力に兵士やみんなが驚く。
「飛んだあああ!」
「嘘だろ!」
「飛びすぎいいいい!」
「あいつ身体能力どうなってんだ?」
「あいつまさか『キル済』か?」
「っていうかあいつ何で自分で驚いてんだよ」
そこに応援の兵士さん達が食堂の扉を乱暴に開けて入って来た。すぐに周囲の状況を確認すると・・・。
「全員!警戒レベル1に移行!」
多分偉い兵士さんなんだろう。その人の号令により、兵士さん達が手に持つ棒をしまい、全員腰の剣を抜いた。それを見たみんなは大騒ぎし始める。
「おいおい、ヤベエぞ」
「ちょっと洒落になってねえ」
「全員机の下に隠れろ」
「あの新入り何考えてんだ!」
『アハハハハハ!大騒ぎじゃねえか!自分が暴れるのも楽しいが、こういうのも楽しいいいいいい!』
『僕は楽しくないよ!』
『てめえはどうでもいいんだよ!それよりもさっさとあの扉から逃げ出せ』
『えー。でも扉前にまだ武器持った兵士さん一が杯いるよ。それにまだ応援が来ているよ』
『馬鹿が、俺の体に攻撃が効くかよ!兵士がいようが攻撃されようが、構う事はねえ、駆け抜けろ!』
「うわあああああああ!ごめんなさーい!」
もうどうにでもなれってヤケクソで叫びながら兵士に突撃する。当然向かう先の兵士さん達が反応して攻撃をしかけてくるので、僕は腕で顔を庇いながら兵士さんの集団に突っ込んでいく。
「うわ!こっち来た」
「逃がすなよ!殺しても構わん!」
「ハハハハ!流石に36番もこれなら・・・・ぐえ!!!」
「は?止まらねえ!っていうか攻撃が効かねえ!」
「ぐあああ!」
「ぶべえええ!!」
「あぎゃあああ!!」
何かヘンな叫びが聞こえてくる。気にせず僕は扉の向こうを目指す。しばらくすると、急に視界が開けた!
『おし!外・・・っていうか鉱山か。取り敢えず出たから、周りをよく見せろ!』
『魔王ってどういう風に見えているの?』
『お前の見ているものしか見えてねえよ!だからビビっても目を瞑るな!何も見えなくてつまんなくなる』
『こっちは遊びじゃないんだよ!』
『俺は遊びなんだよ!文句言うなら体返せ!』
・・・・・・そう言われると言い返せないじゃないか。
『取り敢えず次の指示は?』
周りをぐるりと見まわした後は、また魔王に指示を仰ぐ。多分僕が出てきた穴の奥から怒声が聞こえてくるから、兵士さん達がすぐに追いついてくるだろう。
『うーん。取り敢えず、あの見るからに立派な建物に向かえ!ただ、あんまり急ぐな、奥から兵士が追っかけてきてからだ』
魔王から指示されたのは、明らかに人の手によって作られた建物だった。僕達がいたのは鉱山の穴を再利用したような所だから、向こうのレンガ作りの建物と違いは明らかだ。
「くそ!どこ行った?」
「不味いぞ!逃がしたなんてバレたら俺ら殺されるぞ」
「いた!あそこだ!」
「あいつ!ふざけやがって!」
魔王の指示で歩きながら建物に向かっていると、ようやく兵士さん達が追いついてきたみたいで、騒ぎが聞こえてくる。
・・・えーっと、次は兵士さん達を振り返って「やべ!見つかった!」って演技ね。
僕は両手を挙げて驚いた感じを表現する。どう?僕の演技力!!
・・・・・
『・・・・お前マジで・・・演技下手すぎだろ』
『うるさいなあ。魔王が細かすぎるんじゃない?兵士さん達の反応で決めようよ!』
「あの野郎!俺達を馬鹿にしてんのか!」
「ここまで馬鹿にされるとは!!」
「あのバンザイは何の合図だ?」
「煽りやがって!!」
・・・・・・
『な?』
『うるさいなあ!』
■
その頃残った人々は・・・・
「おい!お前ら今日は全員牢に戻れ!」
過半数の兵士がケラを追っていったが、それでもまだ食堂には数人の兵士が残って見張っている。そしてその兵士から牢屋に戻れとの命令が下される。
「おい、3班長。これって結構ヤバくね?」
指示に従いゾロゾロと牢屋に戻る途中、他の班長が話しかけてきた。
「あの新人何者だ?」
「凄い新人が入って来たな」
「あいつ何で謝ってたんだ?」
「同じ牢で問題ねえのか?」
「信用できそうか?」
気付いたら他の班長もいつの間にか近づいてきて、更に班長達を取り囲むように他の班員が囲んでいる。要するに小声で話せば班長同士で相談しても兵士にはバレない状況が出来上がっている。
「あの新人については、問題ない。騒ぎばっかり起こす理由は分からんが、頭は・・・多分大丈夫だ。コミュニケーションはとれる」
「本当かよ!3日目でこの大騒ぎだぜ」
「・・・・・・そう言われると、自信が・・・・けど、牢屋の中だと・・・まあ・・・普通?か?」
「何で疑問形なんだよ!普通じゃねえじゃねえか」
「36番は、『ごめんなさい妖怪』なんじゃねえか」
「ごめんなさい妖怪って何だよ!」
「3班が生み出したとんでもない怪物だ」
「俺達のせいにすんな!36番はもともとバケモンだったんだよ!」
「お前ら落ち着け。取り敢えず新入りについては3班のお前に任せる。信用出来そうなら、必ず仲間に引き込め、あの身体能力・・・多分、『殺し』経験者だ。仲間になれば大きな戦力になる」
ここで36番の話題は終わり、次の話がその場にいる班長に振られる。
「鍵の件は進んでいるが、食料はどうなっている?腹減ってフラフラの状態では決行は無理だぞ」
「それについても俺の方で心当たりがあるから、今日の夜にでも聞いてみる」
「3班が?本当か?心当たりとは何だ?兵士を仲間に引き込むって案は一度失敗したから無しだぞ」
「分かっている。兵士じゃなくて36番だ」
「何で36番?」
「あいつが何故ここで出てくる?」
「理由は聞いても分からねえよ。実際、目にした俺達でも全く理解できてねえからな。取り敢えず36番が戻ってくるまで待ってくれ」
3班長がそう言って話を切り上げた所で、誰かがぽつりと呟いた。
「36番帰ってくるのか?」
・・・・・・・・
あれだけの騒ぎ・・・・36番はもう戻ってこないかもしれないなあと、聞こえていた殆どの連中がそう思った。
ただ、3班のメンバーだけが・・・・・
・・・・また普通に帰ってくるんだろうなあ。
と考えていた。




