7.また懲罰室へ
翌日からは僕も仕事だ。班長のさんの指示に従い、3班担当の坑道内に溜まった岩や砂をカゴに入れて外に運び出すのが僕の仕事だ。
「おい36番無理するな。流石に4つは無理だ。初めてだから分かんねえのも仕方ねえが、こういうのは無理して途中でぶっ倒れるよりも、体力が一日持つように働く方が効率がいい」
両肩に固い木の棒を担いで、その両端に2つのカゴを吊り下げて持ち上げようと僕を、班長が止めてきた。
「大丈夫です」
けど、魔王の体なら何てことない。筋肉モリモリではないこの体のどこに、こんな力があるんだろうと思うぐらい軽々と4つのカゴを持ち上げられた。
『魔王の力って凄いね』
『当たり前だろ!言っておくが俺の本気はもっと凄いからな!竜とか放り投げれるぜ。ハハハハ!』
・・・・ここに来てから魔王の機嫌がかなり良い。聞けば、人族の生活や考えが興味深く、更に僕の行動が面白いから楽しいらしい・・・面白い事したかな?
「す、すげえ」
「う、嘘だろ」
「もうこいつ1人でよくねえか?」
「だな、35番はここで削った岩をカゴに入れる作業だ」
「こりゃあ33番も今日はノミで鉱石掘りじゃなくて、ピッケルで穴広げる作業してもらった方がいいな」
僕がカゴを4つ持ち上げるのを見て、班長と32番が役割分担を改め始める。まあ僕の仕事は変わらないから、言われた場所にこれを運ぼう。
「・・・・・ええ?」
「おい・・・あれ」
「・・・・嘘だろ」
「あいつ懲罰室送りだったよな?」
「何で普通に働いてんだ?いやあのカゴの数は普通じゃねえけどよ」
カゴを担いで歩いていると、周りから戸惑った声が聞こえてきた。別に他の人もやっている事だからおかしくないよね。ただカゴの数が多いだけだし。
『周りの連中めっちゃ戸惑ってやがる!』
『ねえ、魔王、僕って何かした?何もしてないよね?』
『ああ、別に何もしてねえ。してねえよ・・・・・プププ!』
なーんか魔王感じ悪いなあ。・・・教えてくれる気は無さそうだし、真面目に働こう。そう思っていたら・・・。
「おい!てめえ、昨日はちょっと調子乗り過ぎじゃねえか?」
「こいつか?噂の新人ってのは?」
岩を決められた場所に捨てて班の所に戻る途中、兵士さんに道を塞がれた。1人は体が大きい兵士さんだ。
「・・・・・」
村でもこういう事はよくあった。真面目に働いていても、それさえ気にいらなくて暴力をしてくる人。この人も多分同じだろうな。こういう時は何も言い訳せずただ、黙って耐えるのが正解なんだよね。
「てめえ、かなり我慢強いらしいじゃねえか?けどなあ、俺様はその辺の奴とは一味違うぜ。ハハハハ!」
そう言って棒を持って殴ってくる体が大きい兵士さん。・・・・・うーん。痛くない。
・・・・・・
「ハァ!ハァ!これでどうだ!少しは身の程を弁えたか?」
しばらくされるがままで待っていたら、兵士さんは疲れたみたいだ。これはもう仕事に戻っていいって事かな?少し判断に迷っていたら魔王から指示が飛んでくる。
『・・・・うーん、その通り言えばいいの?』
『ああ!それで仕事に戻れるはずだ』
魔王が自信満々で教えてくれたので、その言葉を信じたんだ。
「もう終わりですか?もうちょっと休憩したかったです」
その結果・・・・・
まーた、懲罰室に入れられた。
『アーハハハハハ!!!!!馬鹿じゃねえの!!!面白ええええ!!』
魔王の嘘つき!!!
■
「ただいま、戻りました」
あれからまたしばらく懲罰室で罰を受けた後、班の牢屋に戻された僕はみんなに戻った事を報告する。
すると、昨日と違い、兵士さんがまだいるのに、みんな心配そうに僕に声をかけてきた。
「おい、36番大丈夫か?」
「しっかりしろ!」
「連日懲罰室とか、お前死ぬぞ」
「・・・・・・疲れたふりしろ」
「おいおい!マジでこいつ死ぬんじゃねえか?」
・・・・・えっと、みんな心配そうに声をかけて僕を取り囲み、優しく床に寝かせようとしてくるので、されるがままにされる。そして心配そうな声の中、班長さんが僕にぼそりと指示を出してきた。意味が分からなかったけど、魔王は意味が分かったのか僕に指示してくるので、僕はそれに従う。
「・・・・ハハハ・・・連日はちょっと・・・疲れますね」
えーっと、こう言って・・・ここから疲れて寝たふりっと・・・。
「おい!36番大丈夫か」
ここで返事したら駄目と。取り敢えず僕はこのまま次の指示が出るまでこの状態でいろと・・・分かったよ。
「兵士さん!流石に連日は酷いぜ」
「そうだ!昨日もこいつ戻ってきてから、かなりヤバかったんだぜ!」
「俺達の班の作業が遅れちまうから勘弁してくれよ」
班のみんなが兵士さんに文句言っているのが聞こえる。ただ、その文句は兵士さんを喜ばせるだけだったらしく。
「ハハハ、やっぱりやせ我慢だったのか!そうだよな!」
ご機嫌な様子で兵士さんが立ち去ったのが目を瞑っていても分かった。そうして兵士さんが完全に立ち去って行った後、僕は班長から揺り動かされて目を開ける。
「おい、もういいぞ、目を開けろ」
言われて目を開ければ、班のみんなから呆れた声が聞こえてくる。
「やっぱり効いてねえのか」
「二日連続懲罰室行きは大抵戻ってこねえのに・・・・凄えな」
「マジでこいつヤバくねえ?」
「打ち合わせ無しでよく分かったな」
「今日はお前のおかげで兵士から妙に絡まれなくて助かったぜ」
呆れた様子のみんなから色々言われる。
うーん。
その前に僕はお腹が空いたからご飯が食べたいんだ。魔王のせいで懲罰室入れられて、今日もご飯食べ損ねたからね。
「取り敢えずお腹空いたからご飯食べてもいいですか?」
・・・・・・・
僕の言葉にみんな急に押し黙る。
「こいつヤベエって」
「何でこんなにマイペースなんだ」
「こいつ懲罰室で何も反省してねえよ」
「・・・・・・・」
何故か僕が頭おかしいみたいな言われ方される。別に僕はおかしくないよね?お腹空いたらご飯食べるって普通の事だ。・・・村ではその普通も出来ない日もあったけど、今は魔王の持っている食べ物食べていいって許可貰っているから遠慮はしないよ。
・・・・・・見られてる。
昨日と同じように料理を始めようとしたら、班のみんなが黙ってこっちを凝視している。
「あ、あの食べます?」
何となく気まずいので、試しに聞いてみたらみんな首を大きく上下に振って肯定した。
「い、いいのか?」
「ええ、まだたくさんありますし」
『こいつらまた腹へっているみたいだから、今日は肉でも焼いて食わせとけ。確か鉄板焼きセットみたいなもんも持ってたはずだ』
言われて収納一覧みたら鉄板が入ってた!しかも石を囲んで作った簡易竈もある!これなら収穫祭の時みたいに鉄板でお肉が焼ける!・・・僕はいつも焼く係で肉を食べれた事はないんだけど。
■
じゅう、じゅうとお肉の焼ける音、そして辺りに広がる焼けたお肉の香り。もう少しでお肉が焼きあがる。僕は集中して最後の焼き加減を見極める。焦がしたり火が通っていないと村の人に殴られたから、見極めは鍛えられている。多分、もう少しだ。
「おい!何か変な音するぞ!」
「これって誰か何か焼いているだろ!」
「何班だよ!何やってんだ?」
もう少しで焼きあがると言う所で他の班に気付かれたみたいだ。ただ、班ごとに横並びの牢屋に入っていて中を覗き込めないからどの班かはバレてない。
「チッ!気付かれたぞ」
「36番、もういいだろ?」
「ま、まだもうちょっと・・・」
「少しぐらいナマでも大丈夫だ」
「そう、それよりも騒ぎが大きくなると見回りがきて肉盗られちまう」
「頼む!もう我慢出来ねえんだ」
本当はもうちょっと焼きたかったんだけど、みんなの必死なお願いに負けて、僕は最後軽く肉に塩を振ってから食べる許可を出した。
みんなが食べ始めると、また他の班の人達が騒ぎ出す。
「ちょ!肉の匂いするんだけど!」
「うわ!こっちも匂いが・・・おい!マジで嫌がらせかよ!っていうかどうやってこんな匂い出してんだ」
「おい!肉の匂いがしたって言った奴!何班だ?」
「2班だ!」
「俺は4班だ!」
「って事は犯人は3班か?おい!3班!お前ら何やっている!!」
ど、どうしよう。何か答えるべきなのかな?と思っていたら班長が答えてくれた。
「俺達・・・もぐ・・・何も・・・んぐ・・・してねえよ!俺達も匂いしてるぞ」
「おい!!!食ってる!こいつら何か食ってやがる!!」
「お前らズルいだろ!こっちにも分けろ!」
「げふー。・・・だから何も食ってねえって」
今度は32番がげっぷした後に他の班に答える。わざとかな?
「おい!今ゲップしただろ!こいつらマジで何か食ってやがる!」
「馬鹿、今のは俺の屁だよ」
「嘘つけ!屁で『げふー』って音は出ねえよ!」
「俺の屁はそう鳴るんだよ!」
「お前の尻の穴どんな形してんだよ!」
「バレバレの嘘やめろ!少しだけでいいからこっちにも寄越せ!」
なんか他の班の人達も必死だなー。お腹空いているのかな?・・・え?何、魔王?こう言え?・・・・えー。流石にそれはおかしいよ。・・・分かったよ。体の事言われたら僕従うしかないじゃないか。
指示通り35番に話かける。
「35番、腕大丈夫?痛くない?」
こう言ってから35番に目配せね。分かってるよ。
魔王の指示通り言うと、35番は凄い悪だくみを思いついたスグシみたいな顔で笑ってくれた。
「あ、ああ。大丈夫だ。俺の腕がお前らの腹の足しになったんなら、満足だ」
・・・・・・・・・
35番がそう答えると、さっきまで騒がしかった他の班の人達も黙り込み、辺りに沈黙が訪れる。そうしてしばらくの沈黙の後、
「え・・・ええ・・・う、嘘だろ」
「は?マジで言ってるのか?」
「腹が減ってもそれは駄目だろ」
「・・・寄越せってのは、やっぱり取り消すわ」
いやあ、やっぱりそういう反応になるよね。分かってた。けど魔王はこの性質の悪い冗談に対する反応に、頭の中で大笑いしている。
そして、僕の班のみんなも・・・・口を押えて床をゴロゴロ転がる人もいれば、お腹を抑えて蹲っている人、地面をドンドン叩いている人・・・みんな笑うポイントは魔王と同じ?あんまり良い性格とは言えないよ。
「はぁー。腹痛い」
「久しぶりに笑ったぜ」
「36番お前笑いのセンスあるな」
ある?流石に趣味悪くないかな?
「こりゃあ、明日35番を見た他の連中の反応が見ものだぜ」
「くそ、考えるだけでも笑えてくるから、明日その光景見たら俺耐えられないかも。けど懲罰室には行きたくねえ」
『ハハハハ!手下どもは懲罰室は嫌だとよ!それなら俺様が代わってやらねえとな!』
『魔王、ご機嫌だなあ。そもそも、班のみんな僕の手下じゃないし・・・』
『細けえ事はいいんだよ!部下だろうが、血縁だろうが、親しい奴が困ってたら助けるのが魔王だ!じゃねえと、人がついて来ねえってフィロスが言ってた!実際あいつの指示通り動けば間違いなかったしな!』
『魔王はフィロスさんの言いなりだったの?』
『馬鹿野郎、言いなりじゃねえよ!・・・えっと、フィロス何て言ってたか・・・!「適材適所」だ!そう、俺は頭は悪いが腕っぷしだけは誰にも負けねえ!だから力関係は俺の仕事!逆にフィロスは頭が良いからな。あいつは色々悪だくみとか小細工するのが仕事で、きっちり分けてたんだよ!俺はあいつの指示通り、敵と殴りあっていればいいだけだから、楽だったぜ。敵を倒してもすぐにフィロスは更に強い敵を見つけてきてくれたからな』
・・・・・うーん、もしかして魔王ってフィロスさんに利用されていたんじゃと思ったけど・・・・・魔王はそう思ってないみたいだし、まあいいか。
『魔界追放された事はどう思っているの?』
『別にあれはケラに乗っ取られた俺が悪いと思っているから、何も思う所はねえ。ただ、フィロスのクソ馬鹿、俺をボコりやがっただろう。アレは許せねえ!俺は今まで一度も殴り合いで負けた事がねえんだ。それなのに魔王軍の目の前であんだけボコりやがって、俺が負けたみたいじゃねえか!』
・・・・うーん、そこは本当にごめんなさいとしか言えない。
「多分、今じゃあいつが魔界最強とか謳ってんだろ。だから俺がもう一度魔界・・・いや人界含めて誰が最強か連中に分からせてやるつもりだ!」
『・・・えー。それに付き合うのは嫌だなあ。だって動くのは僕なんでしょ?』
『あったり前だろ!全ては悪霊のてめえが原因じゃねえか!悪いと思ってんなら俺の指示通り動け!それが嫌ならさっさと成仏して俺に体返せ!」
『・・・・分かったよ。僕が悪いですよー。魔王の指示に従うから怒鳴らないでよ』




