2.魔王、魔界から追放される
「・・・・サマ」
誰かが呼ぶ声がする。
「マオウサマ」
・・・・マオウサマ?って誰・・・ああ、夢か。
そう考えて再び僕は夢の中へ・・・・。
「兄者!!」
突然耳元での大声に驚いて僕は目を覚ました。寝坊は滅多にしないけど、した場合はこうやって大声で起こされた後に、拳が飛んでくるから体を固めて痛みに耐える・・・・んだけど・・・おかしい・・・殴られない。
不思議に思いながらも恐る恐る目を開けると、村では見た事が無い人が僕の顔を覗き込んでいた。見た目は凄い美形の男の人だけど、特に目についたのが、頭から生えた立派な角。
・・・・・こ、この人・・・・魔族だ!
「ヒッ!!!!・・・・・だ・・・・誰?」
怯えながらも、誰か聞く僕に、その美形の人は呆れたように大きく息を吐いた。
「はあー。兄者、また寝ぼけてるのか?最近寝不足とは聞いていたが、この大事な時に居眠りとは流石魔王様だ」
な、何?この人何言ってるの?誰かと僕を間違えてない?
僕の顔を覗き込んでいた人が後ろに下がると、すぐそばに他に4人の人が立っていた。けど、その4人も・・・どう見ても人じゃない。一人は凄い美人で色っぽい女の人だけど、肌も髪も白く、更に体のラインが分かるピッタリした服を着ているがその服まで白い。とにかく全てが白い美人な女の人だった。ただ唯一真っ赤に染まる目は僕に向けられ、その口は楽しそうに笑っていた。
その隣に立つ人は貴族・・・の隣にいる徴税官みたいなピシっとした服を着ていたんだけど、頭からすんごい巻き角生やしている強面の羊。
そしてその2人の反対側には白く長いローブみたいな服を羽織った物凄く顔色が悪い人。
凄い高そうな鎧に身を包んだ・・・見た事無い魔物の顔をした大柄な人。
その4人全員に共通しているのが、頭や、額から大きな角・・・魔族の特徴を持っている事だ。
だ・・・誰この人達?僕は今どこにいるの?
益々混乱する僕。けど隣に立つ男の人がゆっくりと手で前を示し、芝居掛かった感じで僕に話かけてくる。
「さあ!魔王様!後は魔王様が一言述べるだけです!!」
そうして示された前の方に視線を向けると、僕がどこかの建物の二階にいる事が分かった。そしてそこから見える広場には人、人、人・・・きれいに整列して各々武装した人・・・じゃなくて魔族が並んでいた。
「ヒィ・・・・な、なにこれ・・」
再び情けない声が出てしまう。だって全く状況が理解出来ないんだもん。何で目の前の人は僕をマオウサマって呼ぶのか、周りには見た事無い魔族しかいないのか、ここはどこなのか・・・とにかく分からない事だらけだ。
『何だこれは?・・・・どうなっている』
「え?な、何?」
混乱している所に、更に野太い男の人の声が頭に響いてきた。もう、何がどうなっているの?
あ!分かった!
これ夢だ!夢ならこんな訳分かんない展開でも納得だ。起こされる所も結構リアルな夢だなあ。と思っていたら頭の中にまた声が響く。
『我の体が・・・貴様か!!何者だ!』
『うるさいなあ。君こそ誰なの?』
『うる!!・・・貴様!誰に向かって言っているのか分かっているのか!』
『知らない』
「知ら!!・・・・ククク、アハハ!ここまで馬鹿にされたのは久しぶりだ。いいだろう。貴様、楽に死ねると思うなよ・・・・・?どうした黙り込んで?今更後悔しても遅いぞ』
『いや、幻聴と会話している僕って頭おかしくないかなって思って』
『幻聴じゃねえよ!!てめえが・・・貴様が我の体を乗っ取ったんだろう?』
「魔王様?」
「魔王様はどうしたんだ?」
「何を見ている?」
あ!何となく遠くを見ながら幻聴と話をしていたら、周りの魔族の人達がザワツキ始めた。そして美形の魔族が顔を近づけて僕に話しかけてきた。
「兄者、何を考えている?打ち合わせ通り『蹂躙してこい』って言えばいいんだぞ?忘れたのか?」
『早く我の体を返せ!副官に怒られる』
「兄者?『じゅうりんしてこい』だぞ?」
『貴様!早くしろ!さっさと我から出て行け!』
「あああああ!もう!うるさい!ちょっと黙ってて!!」
「っ!!!・・・・・・ハッ!」
ああ、違うんだごめん。今のは頭の中の幻聴に言ったつもりだったんだけど、声に出ちゃった。僕の声に一瞬だけ黙った魔族は僕に背を向けると、側に立つ四人と話しをしだした。
「魔王様は今、回想中だ。恐らくここまでの辛く長い道のりを思い返しているんだろう」
「魔王ちゃんが?うそお」
「魔王様でも感傷に浸る事もあるのだな」
「統一魔王軍として初めて行動する記念すべき日ですからね」
「魔王に意外な一面だ」
・・・・・何かおかしな事言ってるけど、まあいいか。それなら先にこの幻聴をどうにかしよう。さっきから体返せとか出て行けとかうるさくて仕方ないもんね。
『幻聴さーん。話の続きいいよ』
『ああ?てめえ・・・何故貴様が許可を出す!・・・いやそれよりもさっさと我に体を返せ!!』
『さっきからそればっかりだけど、この体僕の・・・・あれ?違う』
幻聴と話ながら腕をみたら、骨と皮だけの見慣れた腕じゃなかった。筋肉のついた健康的な腕・・・・夢だからそういう事もあるか。
『だからそれは我の体だと言っているだろう。ほら、分かったならさっさと返せ』
幻聴が何か言っているけど、無視して腕だけじゃなくて体も確認してみると、金色の凄い高そうな鎧を装備していた。
『おお!体も凄い高そうな鎧着ている。これいくらぐらいするんだろう。鎧なんてしっかり見た事ないけど、すごいしっかり出来てる。夢ってここまで出来るんだ。知らなかった。』
『夢じゃねえよ!貴様さっきからこれが夢だと思っていたのか?』
『違うの?』
『違えよ!』
・・・・幻聴さん、ちょくちょく言葉使い悪くなるなあ。
『えっと、もしこれが夢じゃないとしたら、この状況は何?そもそも幻聴さんは誰なの?』
『・・・こいつマジか・・・マジで言っているのか?いや、取り敢えずは先に教えてやる。我は魔界を統べる魔王だ!』
『マオウ?』
『そうだ。初めて魔界を統一し、魔族の頂点に立つ男。それがこの俺、魔王様だ!』
『・・・ふーん』
『リアクション薄!!貴様!本来であれば我はこうやって貴様みたいな奴と話をする事も出来ない存在なんだぞ!分かっているのか!』
『いや、流石にそれは無理ありすぎるよ。魔王って、人と戦争している魔族の王様みたいな人でしょ?そんな人が幻聴さんの訳ないよ。やっぱりこれ夢だね』
『夢じゃねえよ!俺!その魔王が俺なの!他にも一杯いたけど、俺がぶっ殺したの!それに目の前の4人も魔王名乗っていたけど、俺がボコって手下にしたの!』
幻聴さんの言葉に目の前の5人に目を向けると、全員が僕の方を注目していた。なので軽く手を振ってみる。美人な女の人は嬉しそうに手を振り返してくれた。ピシっとした服の羊さんは優雅に一礼。獣の人は首を傾げている。顔色悪い人は顎に手を当ててなにやら考えだした。そしてさっきから僕に話しかけてきた人はしかめっ面に変わった。
『おい!我の体で手を振るな!威厳が無くなるだろう!それにフィロスに怒られる!』
『フィロス?』
『目の前で凄い顔している男だ。あいつは我の副官だ』
ああ、さっきから話しかけてきた人の事か。
『うーん。それじゃあ幻聴さんが魔王だとしたら、何で僕が体使えてるの?』
『知らん!気付いたら貴様に体を奪われていた!貴様一体何者だ?』
そういえばまだ幻聴さんに名前を名乗ってなかった。
『スグ村の奴隷のケラ』
『奴隷?我は奴隷に体を奪われたのか?いやそんなはずはない!貴様本当の事を言え!』
本当なんだけど・・・やっぱりこれ夢でしょ?だって奴隷の僕が魔王の体を使ってるとかおかしいよね。
『本当だよ。ここで嘘言っても仕方ないでしょ』
『いや、絶対嘘だ。これは何かの魔法だろう。誰が開発した?そもそも貴様は魔族なのか?』
『疑り深いなあ。本当にただの奴隷なんだって。それと魔族かどうかだけど、半魔って言えば分かるかな?』
僕は孤児だったから本当に半分も魔族の血が流れているかは疑問だけど。基本小さい角が頭に生えていれば半魔って扱いだからね。
『・・・・・半魔か』
『そうそう、だから人族から忌み嫌われててね。物心付いた時には奴隷だったんだ』
『・・・チッ!人族も半魔の扱いは変わらんのか・・・・まあいい、貴様が人族からの刺客だという事は理解した』
・・・・・・
『全然理解してないよね?何でそんな話になったの?』
何をどう聞いたら僕が刺客って話になったんだろう。
『フハハハハ。誤魔化しても無駄だ。貴様の本体は恐らく人界にあるのだろう?丁度今から人界に攻め込むつもりだったから、ついでに貴様の体を見つけて殺してやろう』
『・・・・・人界に攻め込む?』
今の魔王との会話に聞き逃せない言葉が聞こえたので、思わず聞き返す。
『そうだ。目の前に我が魔王軍の精鋭達が見えるだろう。好き勝手魔王を名乗っていた連中を倒したり手下にして、そいつらの手下達の中から集めた選りすぐりの連中だ。貴様が邪魔しなければ、その精鋭達が人界に攻め込む所だったのだ。今までは嫌がらせに対抗したチマチマした攻撃だったが今回は違うぞ。戦略的?戦術的・・・なんかそんな感じの今までとは全く違う攻撃になる。これでチョロチョロと鬱陶しい人族も完全に大人しくさせられるだろう。ハハハハ!』
頭の中で幻聴さんが高笑いしている。その言葉は僕の頭に入ってこない。考えているのは別の事。
・・・・攻め込む・・・人界に・・・!!!
「駄目だよ!そんな事したら!!」
思わず声に出てしまった。
「は?」
「??」
それが聞こえた目の前の5人はいきなりの事で首を傾げた。
『既に準備は終わっている。後は我が号令を出すのみだ』
「じゃあ、中止って言おう!」
『言う訳ないだろう!』
多分幻聴さんの声は僕にしか聞こえてないんだろう。僕がまた叫んだから、目の前の5人は更に困惑した顔に変わった。
「は?魔王ちゃん?」
「魔王様はどうしたのだ?」
「皆、しばし待て。俺が少し話をしてくる」
残る4人にそう言って、フィロスって人がこちらに向かってくる。近づいてくるなり、顔を近づけて僕に怒り出した。
「おい!兄者!いきなりどうした?いつもの悪ふざけにしては冗談にならんぞ」
フィロスさんはかなり怖い顔をしている。けど、どれだけ怖い顔して怒っても僕は戦争には絶対反対なんだ。
「冗談じゃないよ!今から人と戦争するんでしょう?」
「そうだ。忘れたとか冗談は言うなよ、兄者」
「知らないよ!とにかく戦争は中止!中・・もがっ!」
フィロスさんに口を無理やり塞がれた。
「黙れ!何を兄者が思いついたか知らんが、今更中止にすると、折角従えた連中が失望して離反する!』
『あれ?そうなん?そんなんで失望するの?実力差は分からせたと思ったんだけどなあ』
幻聴さんがフィロスさんの言葉に不思議がっているのが聞こえた。けど、今はそれはどうでもいい。口を押えている手を振りほどいて、フィロスさんに駄目な理由を答える。
「戦争になれば、村の物資が今まで以上に持っていかれるんだよ!そうなると僕はまた雑草や木を食べて命を繋ぐ事になる!」
「あ、兄者・・・一体何を言っている?」
見た目凄い高そうな服を着たフィロスさんには分からないだろうな。数年前に僕が何とか生き残った最悪な生活ってやつは・・。だから説明するつもりもない。ただ、あんな生活は二度とごめんだ!
「とにかく!戦争は中・・・・ぶべっ!!!」
戦争中止と言おうとしたら、顔面に強烈な痛みが!!!そして次の瞬間には何か固いものに背中を叩きつけられた衝撃が・・・・。
「おい、おい」
「えー。フィロスちゃん、いきなりどうしたの?」
「フィロス殿?」
「うーん、これはおもしろくなってきました」
痛みに耐えて目を開ければ、フィロスさんが殴り終わった後の体勢になっているのが見える。どうやら僕は殴られたみたいだ。しかもその威力はぶつかった壁を壊すぐらい凄い威力だ。今まで村で何度も殴られたけど、この威力は経験した事がない。思わず顔がちゃんと残っているか確認してみる。
・・・・しっかりと残って一安心。
と、思ったけど、いつの間にか目の前にきていたフィロスさんが、僕の首を掴んで持ち上げる。
『てめえ!フィロス!誰を殴ったのか分かってんのか!よし!ケラ!俺の体返せ!今からこの馬鹿ボコボコにしてやる!』
「どうだ?兄者、目が覚めたか?今ならまだ俺の方でフォロー可能だ。さっさと号令をかけてくれ」
「だ・・から・・・駄目だよ・・・戦争・・・なんて」
そう答えた後は、もう殴る蹴るの暴力の嵐だ。村で大概の暴力には慣れたつもりだったけど、フィロスさんのは今までの村の人とは次元が違う。気付いたら瓦礫の山で僕は寝ていた。見ればさっきまであった周りの建物も瓦礫となっていた。
「どうだ?兄者、正気に戻ったか?」
『戻ったか?じゃねえよ!フィロス!てめえマジでぶっ殺す!おらああ!てめえ!早く体返せ!!』
さっきから幻聴さんがうるさい。けどボロボロにされた僕は、頭の中でも答える気力がでない。
「・・・・・」
「チッ!」
何も答えない僕にフィロスさんはイラついた顔で舌打ちした後は、僕の髪を引き摺って4人の元に向かい口を開いた
「魔王様・・・・いや、この臆病者は信じられないかもしれないが、今更怖気づいたみたいだ。たかが人族程度にだ!!」
「なんと!」
「ええー、幻滅」
「そりゃあねえよ魔王」
「へえー。少し興味深いですね」
『怖気づいてねえよ!なんなら俺一人で今から人界行って、人を屈服させてやんよ!だから、ケラ!早く体返せ!』
「この臆病者に魔王の座は相応しくない。だが、これまでの功績に免じて、処刑だけは許してやろう」
『ふざけんなよ!俺以上に魔王に相応しい奴はいねえよ!!しかも!処刑だあ?できるもんならやってみろ!!』
「どうするのー?」
「魔界から追放する」
その言葉の直後、フィロスさんの翳した手の先から光り輝くきれいな模様が空中に浮かび上がる。それを見た幻聴さんが頭の中で慌てだす。
『おい!流石にそれは洒落になってねえぞ!ケラ、その魔法は避けろ!』
そうは言われても、僕はボロボロで動く気力もないんだよ。それにこういう時はただ黙って受け入れるのが一番被害が少なくなるって僕は知っているんだ。
ゆっくりとこちらに向かってくるきれいな模様を避けずに、体に入り込むのを僕はただ、黙って受け入れた。それを見てフィロスさんが、驚いたような呆れたような何とも言えない表情になった。
「避けもしないのか・・・・まあ、いい、これで貴様は魔界に転移は出来なくなった。さて、仕上げだ。貴様はどうも人族と争いたくないようだが、人族もその気持ちを持っているかな?実際にその体で確かめて来い!」
そう言うフィロスさんの隣・・空間に黒い染みが広がって、ある大きさまで成長した後は、そこに僕は放り込まれた。
そうして気付いたら僕は、全く知らない森の中にいたって訳だ。




