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10.脱獄

 翌日は思った通り、食事抜きだった。当然早朝、まだ兵士さんが起こしに来る前に僕は各牢屋を回ってみんなに食事を与えていた。だからみんなお腹は空いていないはずだけど、お腹を空いた演技をして、兵士さん達に文句を言っている。


「朝飯無しとか動けねえよ」

「絶対今日何人か死ぬぞ」

「せめてスープぐらいはくれよ」

「俺達が何したんだよ」


「うるさい!文句ばっかり言わずに黙って持ち場にむかえ!」


 みんなからの文句は、兵士さん達が怒鳴り返して黙らせる。その時みんな、凄い顔して舌打ちしながら、持ち場に向かう。・・・みんな演技うまいなあ。僕もあんな風にしているつもりなんだけどなあ。



 ああ、僕?僕は3班の牢屋の扉壊したからまーた懲罰室行きだって。牢屋がある坑道の大本の入り口の扉まで壊してないからそこまで怒らなくてもいいのに。


『よーし、ケラ。今日は懲罰室の鉄格子を壊して遊ぼうぜ』



・・・・・


 まーた魔王は新しい遊びを考え付いたみたいだ。凄い楽しそう。対して兵士さん達は全然元気がない。「腹減ったなぁ」とか聞こえてくるから、まともにご飯食べれて・・・・いやいや、多分僕らが普段食べている分食べたんだから、十分食べているよね?班長達あの量で真面目に働いているよ!



 そして今日も僕は兵士さん達から武器で容赦なく攻撃される。・・・けど今日はどうも勢いというか、連携というか、何だろう、兵士さん達からの攻撃が緩い気がする。昨日までは何発も連続して攻撃されたけど、今日は単発で終わる事が多いし、すぐに交代する。




 だというのに、




 僕は魔王の指示で鉄格子壊しをさせられている。




 懲罰室に甲高い音が響き、続いて僕の悲鳴があがる。


「ウワーーーー!!!!」


 昨日は枷を全部壊したから、今日の僕は繋がれていない。だから殴られ飛ばされた風を装って鉄格子に体当たりする。お!今の良い感じの演技じゃない?


『叫びが棒過ぎる。あと、鉄格子に体当たりする時に「フン!」って言っただろ!全然ダメ』


 演技指導に厳しいなあ。


「おい!もうやめてくれよ!」

「枷だけじゃなくて鉄格子までとか、勘弁してくれ」

「おい、これ細い奴なら通れるぐらい鉄格子ひしゃげてるじゃねえか」

「鉄格子側に殴るな!反対側から殴れ!簡単な事じゃねえか!お前ら少しは頭使えよ」

「そうすると36番は逃げ回って、鉄格子に体当たりするんだよ!」

「こいつ鉄格子に当たらないと死ぬ病気なんじゃねえの?」



 僕が鉄格子に体当たりする度に、兵士さん達が言い合いを始める。悪いのは僕なんだけど、兵士さん達同士は、もうちょっと仲良くしようよ。


『よーし、次は全力で体当たりして、鉄格子ぶっ壊せ!そんで走って逃げろ!』


 ああ、駄目だ、魔王から悪魔のような指示が出された。これしたらもう兵士さん達が、殴り合いの喧嘩でも始めるんじゃない?だったらしなければいいだろって思うけど、僕には負い目があるからね。それに何となく魔王の言う事は聞かなきゃって思うんだ。これも魔王の体の影響なんだろうか。




・・・いや、魔王の体だから当然かも・・・。


「ああ!逃げたぞ!」

「ちくしょー!またかよ!こっちは腹減ってんのによお!!」

「おい、おい。鉄格子ぶっ壊されたぞ。これもう懲罰室として使えねえだろ」

「とにかく早く追いかけろ!」


 今日もいつものように兵士さんとの鬼ごっこが始まった。ただ、今日は兵士さんが途中で諦めたのか、作業に戻るように泣きながら言われたので、前と同じで班長達が削った石の運び出し作業になった。



 そうして作業をしていると、班のみんなというより、他の班の人達も何やら目配せやハンドサインで連絡をしている事に気付いた。


??




当然見張りの兵士さん達からは見えないようにしているけど、僕に警戒はしていないので、丸見えだ。


『連中、何か企んでんな』

『やっぱり?何の連絡してるんだろう?』

『ケケケ、どうせ碌でもない事だろうよ。けど楽しそうだから俺達も一枚噛ませてもらおうぜ』


 魔王ならそう言うと思った。




「脱獄?」

『ヒャッハー!面白いじゃねえか!』


 作業が終わり、牢に戻った後、班の人に昼間のハンドサインについて聞いた返事がこれだ。僕はすぐに理解できなかったけど、魔王はすぐに理解して何故か大喜びしている。


「そうだ。俺達はここにいても死ぬまで働かされるだけだからな。その前に脱獄しようって話になってんだ」

「昼間のは各逃走経路の確認や、兵士達の細かな情報をやりとりしてたんだ」

「元々成功するのはかなり低いと思ってたんだが、36番が来てから成功する可能性がかなり高くなった」

「おかげで情報のやりとりがかなり活発になってきたぜ」



・・・・・うーんと、何で僕の名前が出てきたんだろう?


「36番が連日兵士の注目集めてくれるから、俺達も今までより大胆に動けたんだ。そしてトドメは昨日と朝にお前が全員に配ったメシだ」

「メシ?」

「そうだ。あれだけ満足に食えたのはここにきて初めてだ。しかも今は逆に兵士たちが腹減らしているだろう?こんなチャンス逃がす訳にはいかねえってのが全員の考えだ」



 ・・・・班長さんたちは一昨日もお腹いっぱい食べてたような・・・え?それは他の班には内緒?



「それで恐らく後10日ぐらいで兵士達の飯や食材が街から届くはずだ。そうなりゃまた兵士が元気になって脱獄が成功する可能性が低くなる。だからその前・・・早くても4日後には脱獄を決行するつもりだ!」

『ケケケ!面白えじゃねえか!よーしケラ!こいつら手伝ってやるぞ!まずはこいつらの体力を回復させねえとな。全員の腹が膨れるまで、肉とパンを配れ!そして1人一杯酒を飲ませろ』


・・・・・酒?


『お酒って必要?』


 飲んだことはないけど、お祭りとかで村のみんなが楽しそうに飲んでたのは知っている。お酒って、ああいう楽しい時に飲むものだと思ってたけど違うの?


『はあー。分かってねえな。こいつらここに来てから酒なんて飲んだことねえはずだ』

『何でそんな事魔王が分かるのさ?』

『うるせえ!俺には分かるんだ!とにかく酒を配ればみんな元気になる。元気になれば脱獄が成功する可能性が高くなる。それとも何だ?ケラはこいつらここで死ぬまで働けばいいとでも思ってんのか?』

『・・・いや、そうは思ってないけど』



 聞けばみんな望んでここに連れてこられたわけじゃないし、死ぬまでこんな場所で無理やり働かされるなんて可哀想だと思うから、脱獄するなら手伝ってもいいとも思う。


『だったらつべこべ言わずに俺の言う通りやれ!』



 っていう魔王の言葉を信じてみんなにご飯とお酒を配ったら、本当にその通りだった。


「うんめえええー。生き返るぜ」

「あー。酒ってこんな味だったな」

「すげえやる気出てきた」

「よーし、頑張るぞ!」


お腹が一杯になったからか、お酒のおかげかは分からないけど、魔王の言う通りみんな元気になった。


『ほら見ろ、普通は腹一杯になって酒飲んだら元気になるんだよ。ついでだ、他の班の連中に話を聞いて情報を集めておけ』

『情報?』

『取り敢えずお前を成仏させれそうな奴の情報だ。あとはどこかに近くに魔族がいないかってのだな』

『魔族?何で?』

『そいつから今の魔王軍の情報を聞きてえんだよ』




・・・・




という訳で上機嫌のみんなに話を聞いて回ったら、みんな知っている事を喜んで教えてもらった。



ただ、結論として、


『結局魔族についてはみんな知らなかったね』

『ああ、けどここの鉱山の責任者なら何か知っているかもって話が聞けただけでもマシだ。脱獄の騒ぎに乗じてそいつに聞くぞ』



 魔族の事については誰も知らなかった。みんなここに来て結構長いから魔王軍の動きはよく分からないみたいだ。けど、成仏関係については、いくつか話が聞けた。


『後は僕を成仏できそうな人だね。有名な人は5人で2人は生きているって話だったよね?』



王家の墓の『墳墓の守護霊』

霧の海峡の『幽霊船長』

大森林の『狂い霊』

広漠たる荒野の『百霊の王』

渓谷鉱山の『叫びの悪霊』



 こんな感じで5人?匹?の有名な悪霊がいて、その悪霊を祓った5人が『5聖人』として名が知られている。そのうち3人は既に亡くなっているけど、2人は生きているそうだから、会いに行ってみようと思う。

 生きているのは『墳墓の守護霊』を祓ったディクタ・・・この人は大神殿って所にいるって教えてもらった。そしてもう一人は『叫びの悪霊』を祓ったビュート・・・この人はこの国の王都の教会にいるそうなので、まずはこっちから会いに行こうと思う。ちなみに『幽霊船長』を祓った人は寿命で亡くなり、『狂い霊』と『百霊の王』を祓った人はどちらも相討ちで死んだそうだ。


『おう!まずはこの国の王都行ってそのビュートって聖人に会うぞ!けどその前に脱獄だ!決行の日まで毎日腹一杯食わせて酒もだしてやれ』





 そうして連日、みんなにご飯とお酒を配る僕。そして作業終了後に各班の班長さんは集まって、脱獄の計画を練っていく。各班の牢屋?もちろん僕が扉壊しましたよ。兵士さん達から文句言われたけど、大本の坑道入口の鉄格子を壊してないし、懲罰室は僕が壊したしで、文句だけで終わった。多分お腹が空いて元気が無いのも文句だけで終わった理由だろうな。



 そうして入念に準備して、4日目の夜。遂に脱獄する日がやってきた。


■

「なあ、36番、本当にやるのか?」

「普通脱獄ってバレないようにやるもんだぞ?」

「お前がやってくれるなら兵士の注意がそっちに行くから、こっちもやり易いけどよ・・・」


「ハハハ、普通そうですよね?けど、魔王からコソコソするなって言われてるんです」


「また脳内【魔王】様か・・・」

「いいじゃねえか。俺らも小さい時はそういう設定作って遊んだだろ?」

「いや、してねえよ」

「やってたとしても流石にこの年まで、そういう遊びはどうなんだ?」


 みんな全然魔王の事を信じてくれない。ここ数日ちゃんと魔王について話をしたんだけど、頭が可哀想な人扱いされている。


『まあ、他の奴らに俺の事、証明しようがねえからな。それに信じても信じなくても俺らがやる事に変わりはねえ。さっさと準備して始めるぞ』


 魔王は魔王で脱獄を楽しみにしてる。連日班長達から作戦聞いて喜んでた。


「それじゃあ、この辺の鎧や服は置いていきますね」



 そう言って僕は、この間もらった兵士さん達の鎧や服を牢屋に置いていく。僕達が今着ているのは、襤褸みたいな布切れだから、鎧や服に着替えていれば、バレにくいだろうって事だ。流石に全員分は無いけど、後は任せろって班長達も言ってたから大丈夫でしょう。



 さてと、それじゃあ、始めますか。


 この脱獄計画、まず動くのは僕だ。扉の壊れた牢屋から出て、坑道入口の鉄格子に近づいていく。途中他の班のみんなが疲れ切った様子で地面に寝転がりながらも、通りかかる僕をジッと見ているのが分かる。みんな数日何も食べれていないっていう設定だからね。ここで僕が失敗すると、みんなのこの空腹演技も全部台無しになるから責任重大だ。


「おい!36番!どうした!お前はそれ以上近づくな!!」


 僕が鉄格子に近づくと、見張りの兵士さんが声を荒げてくる。けど、僕を怖がっているのが、挙動から分かる。



『怖がりすぎじゃない?』

『そりゃあ、懲罰室も牢屋もぶっ壊すし、攻撃何も効かねえバケモンが近づいてきたら怖いだろ』


 そのバケモンって魔王の事なんだけど分かっているのかな?


「おい!待て!分かった!話を聞こう!だからそれ以上こっちに近づくな!」


 僕が更に近づくと兵士さんが大慌てで僕を止めようとしてくる。


『アーハハハハハ!メッチャビビってる!ケラ!お前何したんだよ!』

『全部魔王の言う通りにしただけなんだけど!!』



 慌てる兵士さんを無視して僕は鉄格子に手をかける。


「おい!待て!やめろ!檻から手を離せ!一旦落ち着こう!深呼吸だ!そうだ、お前は36番だから36回深呼吸しよう。そうしたら落ち着くはずだ」


 とんでもなく慌てている兵士さんを無視して、僕は指示通りの言葉を口にする。


「ここで一番偉い人に会わせて下さい」



・・・・・・・



「・・・・・・は?」

「一番偉い人に会わせて下さい!!!」


 よく分かっていないみたいだったので、もう一度同じ事を言ってから、牢屋をガンガン揺さぶり始める。


「は?え?所長?・・・いや、待て!その前に檻をガンガン揺するのやめろ!壊れる!!」

「会わせて下さい!会わせて下さい!」


 同じ言葉しか言わずに牢屋を揺さぶる僕。やっぱりこの作戦の僕って頭おかしい人みたいじゃない?


『ガハハ!いいぞ!頭狂った感じが上手く出てる。いい演技だ!』


 こういう演技で褒められたくないよ!


 

 力加減を調節して檻を揺すっていると、いい感じでグラついてきた。そしてそれを見た見張りの兵士さんが笛を鳴らして応援を呼ぶ。


「どうした!!」

「何があった?」


「36番が狂った!」

「あいつは元から狂ってただろ!」

「またあいつか!」

「飯食わせて無いのに何で元気なんだよ!」


 応援に駆けつけてきた兵士さんが見えた所で、僕は力任せに檻を引き抜いて、坑道からゆっくりと外に出る。


「うわあああああああ!あいつ最後の檻までぶっ壊しやがった!」

「しかも扉じゃなくて檻ごとってどうなってんだよ!」

「この人数じゃ足りん!全員笛を鳴らして応援を呼べ!」


 誰かの指示で、辺りに笛の音が響き、どんどん兵士さんが集まってきた。よーし作戦通り。



ある程度集まった所で、僕は兵士さん達に近づいていく。


「ま!待て!36番!どこに行くつもりだ!」

「一番偉い人に会いに行く!!!」




「・・・・・・は?」

「・・・・え?所長?」

「に、逃げないのか?」

「所長は、今日こいつに壊された兵舎の修理手伝うって言ってたよな?」


『すげえ戸惑ってやがる!ハハハハハ、おもしれええ!』

『人集める方法って、こんな頭おかしい感じじゃなくても良かったんじゃない?』

『馬鹿野郎!頭がおかしいと思われた方が人がたくさん集まってくんだよ!!』


「わ、分からん。36番が何考えているか分からんが、頭がますます狂ったようだ。もっと人を呼べ!!」


『ほらな?』



・・・・・・・



 なんか納得できないけど、実際魔王の言う通り人が集まってきた。やっぱり僕の方が間違っているみたいだ。村以外の事知らないから仕方ないね。



 結構良い感じで兵士さんが集まって、通路が兵士さん達で一杯になったから、作戦の続きを始める。僕は両手を広げて、大声で叫びながら、兵士さん達に突撃を開始する。


「僕は一番偉い人に会いに行く!!!!行くんだああ!!!」


「うわ!こっちに来た!」

「全員武器を抜け!殺してもいいぞ」

「どうやって殺すんだよ!攻撃効かねえんだぞ!」

「所長へのこだわりは何なんだよ!」


 何か言っているけど、構わず突撃して押し返す。


「ぐああ!苦し・・・」

「ここを抜かせるな!」

「牢屋に押し返せ」

「お、押すな!・・・苦しい・・・」


 後ろからも僕からも押されている人は苦しそうだ。大丈夫かな?心配になり少しだけ押す力を緩める。けど、すぐに魔王から怒鳴りつけられる。


『おらあ!押し返せ!負けるんじゃねえぞ!お前がここで頑張らねえと作戦失敗だからな』


 そうだった!僕の責任重大だった。苦しそうな兵士さんを心配している場合じゃなかった。苦しそうだけど鎧着ているから大丈夫だよね?って事で僕は更に足と腕に力を入れて押し返す。



「ぐああ・・・」

「う、嘘だろ」

「これだけいても押し返されるのかよ!!!」


「だあああああああああ!!!!!」


 渾身の力・・・って訳でもないけど、力を入れて兵士さん達を押し返す!外に出れた!!!


 外に出れたので一番得偉い人がいる所に向かう。さっき誰かが壊した兵舎の修理しているって言ってたからね。多分だけど、居場所は分かる。


「ああ!逃げたぞ!追え!」



走って兵舎に向かう僕に気付いた兵士さんが声をあげるけど、僕は作戦通り、声を出しながら壊した兵舎に駆ける。


「一番偉い人!一番偉い人!」


「あいつ怖えよ」

「あの号令なんだよ」」

「なんでそんなに執着してんだ!」



後ろから声が聞こえてくるので振り返れば兵士さん達がしっかり僕をついてきてくれている。よーし、これで作戦第一弾は成功だ!

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