11.脱獄②
「兄者!ここのボスは他のアニキ達に任せろ!」
フィロスの言葉に俺はかなりイラつきを覚える。事前にはよく聞かされてはいたが、やっぱりその指示はおかしくねえか?
「何でだ?オヤジの仇を討ちたくねえのかよ!」
オヤジが敵対勢力の罠に嵌められて殺された・・・これはその仇討ちの抗争のはずだ。
「俺らはまだ入ったばっかりの下っ端だ。そんな俺らがオヤジの仇討ちはマズイ!それはアニキ達の役目だ」
・・・・チッ!よく分かんねえけど、フィロスに何か考えがあるんだろう。オヤジの仇はこの手でぶっ殺したかったけど、我慢してやるか。ただし、これでアニキ達がオヤジの仇討てなかったらぶん殴ってやるからな。
「そう、怖い顔するな。兄者。その代わりもっといい獲物を用意してある」
フィロスの言葉に血が昇った頭が急速に冷えてきた。
「・・・・いい獲物?」
「・・・・ククク・・・『4本手』はどうだ、兄者?」
フィロスが昔と変わらない悪い顔で笑うのを見て、俺も思わず笑いだす。
「連中の最強って言われている奴か・・・ククク・・・いいのか?俺が殺っても?」
そいつはアニキ達がいつか殺してやるとか狙ってた奴だぞ?
「大丈夫だ。アニキ達は今はオヤジの仇しか目に入ってねえから文句は言われねえよ。それに仇討ち終わったら、更に忙しくなるからな・・・主に内部抗争でな」
「最後何て言った?」
「いや、ただの独り言だ。それよりもどうする兄者?『4本手』」
「狙うに決まってんだろ!アニキ達に怒られたらお前のせいにするからな!」
「絶対怒られねえよ。それと狙うなら目立ってから狙うんだぞ。手柄かすめ取られるかもしれないからな」
・・・ああー。そう言う事しそうな奴、一杯いるなあ。俺達も何度奪われた事か。こうなりゃ、挑発しながら歩き回るか。
そうと決めた俺は辺りに響き渡るぐらいの大声で『4本手』を挑発する。
「おらああ!ここで一番強い奴を連れて来い!一番強い奴だ!!」
その俺の挑発が聞えた連中が襲い掛かってくる。
「ふざけんな!」
「ぶっ殺せ!」
「死ねや!」
「アーハハハハハ!ボケが!一番強い奴だって言ってんだろ!一番強い奴だ!強い奴!」
俺の挑発に続々と襲い掛かってくる敵を殴り飛ばしたり、蹴り飛ばしたり、魔法でぶっ飛ばしたりしながら、俺は敵の群れを蹴散らしていく
■
・・・・・・って、昔の俺みたいに勇ましくなる感じを俺はイメージしてたんだけどなあ。
「一番偉い人!一番偉い人!」
思っていたのと少し違う掛け声をあげて、敵から逃げ回るケラ。そこに武器を振り回しながら追いかけてくる敵。
「くそが!逃げるな!」
「早く捕まえろ!」
「足早えええ。全然追いつけねえ」
「こいつ殴ってもダメージ入らねえんだけど!」
・・・・・ちょっとイメージと違うんだよなあ。
・・・・・・
まあ、予定通り敵を引き付けているし、いいか!
■
兵士達の怒声が牢屋から離れていくのを聞いて、班長達が動き出す。
「よし、兵士役の5人は急いで着替えろ」
3班の牢屋にはケラが置いていった、大量の兵士の服と装備が置かれている。そこに急ぎやってきた5人が兵士の鎧や兜を装備すると、外に向かって走り出していく。
「よし、後は連中が上手く兵士を追い払ってくれるのを祈るか」
流石に36番がどれだけ騒ぎを起こしても、牢屋の見張りは残していくだろう。その為に5人の兵士役がその見張りを追い払う作戦だ。36番が押し返したと言っても、取りこぼした兵士もいるはずだ。だから奥から兵士が出てきても不思議に思われない・・・・その可能性に賭けた。
8班が掘った抜け穴から監視の隙を突いて、全15班の100人近い人数で逃げ出すという最初の作戦よりはこっちの作戦の方が成功の可能性は高いだろう。
「作戦成功。見張りは追い払った。周囲にも兵士はいない。全員36番を追っかけている。今がチャンスだ」
暫く待つと、兵士役の1人が戻ってきて、そう報告したので、全員が行動に移る。まずは3班の班員がケラが置いていった服や装備を牢屋の外に運び出し、事前に決められた人達が襤褸から兵士の服に着替える。
「着替えが終わった奴から8班の牢屋に向かえ。抜け穴から出たら兵舎とは逆方向に逃げろ」
周囲の地形が分からない為、どうやって逃げるかは決めていない。各自の判断になる。ただ、落ち合う場所は決めている。隣国カシュフォード帝国の帝都だ。あそこはこの国より半魔の扱いが悪くない。
少なくとも普通の半魔は奴隷より身分が上で扱ってくれる。一般市民よりは下だが、奴隷以下の扱いをされるこの国よりはマシだろう。
そうして全員が逃げた後、残った各班の班長が最終確認をして、見張りの兵士役に声をかけて抜け穴から姿を消した。この後、脱走に気付かれ捜索が行われるだろうから、兵士役はそのドサクサで逃げ出す予定となっている。
「全員無事逃げれたか?」
「ああ、班長達も逃げて、今は誰もいねえよ」
「このまま気付かれねえ事を祈るぜ」
「まあ、大丈夫じゃねえの?」
「・・・・・・だよなあ」
残った兵士役5人は、兵士が続々と集まっていく建物を眺めながら呆れる。そこには怒声や罵声、悲鳴が響き渡り大騒ぎとなっている。その騒ぎを聞きながら、呆れたように残った5人は呟く。
「あいつ何者なんだろうな」
「一番偉い人への拘りはマジで何なんだ?」
「あいつについて行こうかなとも思ったけど、無理。俺は速攻で殺されて終わりだな」
「魔族をどれだけ殺せば、あれだけ強くなれるんだ?」
「巷で勇者って呼ばれている連中よりも明らかに強いのに、何で捕まったんだろう?」
■
兵舎まで辿り着いた僕は、近くにいる兵士さんに一番偉い人がどこにいるか尋ねる。
「ここに一番偉い人がいるって聞きましたけど、どこにいます」
「はあ?てめえふざけてんのか!死ねええ!!」
返事は武器の攻撃だった。しかも凄い怒ってる。ただ、質問しただけなのに・・・。
『ねえ、魔王、一番偉い人ってどこにいると思う?』
『ああ?そんなのその建物壊してれば、いずれ出てくるだろ』
『何で?』
『そりゃあ、所長とかいう奴も、この建物修理してんだろ。それをぶっ壊されたら怒って文句言いに来るはずだ』
『・・・・あ!そっかあ』
確かに修理しているそばから壊されたら、怒って文句言いにくるよね。兵士さんに聞いても教えてくれないし、この作戦で行こう。
この間と同じで適当に建物の中を駆け回り壁を破壊して回る僕。その後ろを同じようについてきながら、武器で攻撃してくる兵士さん達。
「くそ!こいつ!止まりやがれ!」
「この前と同じじゃねえか!こいつ兵舎に何の恨みがあるんだよ!」
「兵舎が崩れる!誰かこいつを止めろ!」
「一番偉い人が来るまで僕は止まりません!!」
さっきから何度も同じ事言っているんだけどなあ。誰も聞いてくれない。
「わ、分かった。所長は外にいる!だからもう止まってくれ!」
そうしてしばらく走り回っていると、ようやく兵士さんが教えてくれた。外に所長さんがいるらしいので、壁を壊して3階から外へ飛び出す。
「バカヤロー!外行くなら扉使え!」
「あいつは何か壊さねえと気が済まねえのか?」
そんな怒声が聞こえてきたけど、所長さんの事で頭一杯の僕は気にしなかった。
「所長さん、所長さん・・・どこかな?」
「おい!外に逃げたぞ!」
「こっちだ!こっちにいやがる!」
「人を集めろ!武器じゃなくて全員で抑え込め!」
飛び出した先にも兵士さんが一杯いて、着地した瞬間に武器でバシバシ叩かれる。けどすぐに攻撃が効かない事に気付いた誰かが、号令をかけた。その言葉に従いすぐに周りの兵士が全員で僕を抑え込んで来る。
『一番偉いのは今、命令した奴じゃねえか?よく見ればあいつだけ兜のてっぺんから長い毛みたいなの生えてんじゃねえか!絶対あいつだ!ケラ!あのハゲ捕まえろ!!』
兜被っているからハゲかどうか分かんないじゃん。とか言うツッコミは我慢して、言われた通り偉そうな人の近くに向かっていく。
・・・・・抑え込んでくる兵士?うーん。普通に動ける。
「こ、こいつ!動くぞ!」
「もっと全員力を入れろ!」
「なんでこんな余裕そうな顔してんだ!」
「その余裕そうな顔はブラフだ!拷問も効いていたけど、平気なふりしてたんだ!」
「どこがブラフだ!こいつ全然止まらねえぞ!」
まあ、騒いでいる兵士は無視して所長さんっぽい人に近づくと、周りの兵士さんが壁になって道を塞いでくる。・・・・けどそれを掻き分けて進むと、今度は所長さんが僕に背中を見せて逃げ出した!
「ま。待って!逃げないで下さい!」
掻き分け進むスピードをあげて、逃げる所長を追いかける僕。
「無茶言うな!兵士を何十人も引き摺ってくる奴が追ってきたら、怖くて普通逃げるだろ!」
追いかけられている所長が怒って怒鳴り返してくる。
「大丈夫です!僕は絶対危害は加えません!」
「それ加える奴が言う言葉!!」
『アーハハハハハ!!!そうそう、俺も昔、同じ事言って敵を追いかけたけど、信じてもらえなかった!』
絶対嘘!魔王は僕みたいに優しい感じじゃなくて、乱暴な言葉で追いかけたでしょ!
そうして逃げた所長だけど、少し本気出して走ったらすぐに所長を捕まえられた。流石魔王の体、瞬発力も凄いよ。
「き、貴様!手を離せ!」
「落ち着いて!話を聞いてください!」
「貴様と話す事など何もない!」
そう言って乱暴に手を振り解こうとした所長。ちょっと無茶な動きだったのか『ボキッ!』って音がした。
「ぐあああああ!う、腕がああああああ!!貴様ああ!!」
暴れた所長が悪いのに、何故か僕のせいにされた。そしてそれを見て、他の兵士さん達が僕への攻撃をやめて、少し距離をとり取り囲む。
「こ、こいつ所長を人質に!!」
「こ、攻撃すると所長に危害を加えるってのか!」
「て、手が出せねえ!」
「こいつ卑怯な!!」
な、何か凄い勘違いされている。別に危害加えるつもりはないよ。けど兵士さん達も邪魔しなくなった。これで話が・・・・所長痛そうだな。
『魔王、回復薬って持ってる?』
『ああ、持ってるぜ。回復薬のリスト出せ。・・・・真ん中辺りの薄緑色のを腕にかけてやれ・・・・ククク』
・・・・まーた何か企んでるっぽいなあ。いや、そっちは無視して先に所長を治そう。
魔王に言われた通り、回復薬を取り出して掴んでいた腕を離すとプランとなった。これは完全にポッキリ折れているね。本当にかけるだけで治るのかなあ?と疑問に思いながら回復薬を振りかけると、なんと!腕が元通りに!僕の経験上ここまでポッキリ折れてたら、治るのに半年近くはかかるはずだけど回復薬ってこんなに凄いんだ。
「な、何だあの回復薬!腕が一瞬で治ったぞ?」
「っていうか36番、今どこから取り出した?」
「何故、治療した?」
「治療してからまた、骨を折るつもりだ!」
「何て拷問を!あいつ魔族より酷え!」
・・・・・・・
『おいおい!ボロクソ言われてんぞ!魔族より酷いだってよ!ケラは極悪非道だな!』
『うるさい!』
もう!魔王のせいで酷い誤解が生まれ・・・・あれ?所長大人しいな?腕治ったらまた逃げ出すか怒鳴りだすと思ったんだけど?・・・・なんか目が虚ろじゃない?何これ?
『お!薬が効いたな。よし!ケラ!こいつから魔族の情報聞け!今なら何でも教えてくれるぞ』
『ちょっと待って!今の回復薬って何かの薬なの?』
『別に普通の回復薬だよ。腕も治っただろ?ただ、自白剤入りだけどな!』
『何で自白剤なんて入れてるの???』
『これは拷問でちょっとやり過ぎた用だ。自白剤なら簡単に飲まねえけど、回復薬なら素直に飲む奴が多いからな』
・・・・・うーん、この話は怖そうだから、あんまり聞かない方がいいかな。
『取り敢えず体に害はねえから、さっさと聞け!』
・・・・・それならいいかな。
「所長、近くに魔族っていないですか?」
「ま、まぞく・・・アグル村周辺で・・・目撃・・・」
アグル村?知らないなあ。
「アグル村ってどこですか?」
「ここから・・・北・・・ズーデ街・・・所属の村」
『取り敢えず北って事だな。あと聖人についても話を聞いとけ。他にも情報があるかもしれねえ』
って事で聞いたけど、班長達に聞いたのと同じ答えだった。ただ、アグル村とこの国の首都だとアグル村の方が近いって事だったので、そっちから向かう事に決めた。
でもその前に・・・
「兵士の皆さん!薬を使ったので、今なら所長が何でも質問に答えてくれます!何か聞きたい事があればどうぞ!」
魔王からよく分からない事を指示をされた。何か考えがあるんだろうから、指示通りに兵士さん達に伝える。
「所長!大丈夫ですか!」
「大丈夫」
「所長は薬を盛られて正常な判断ができないように見えます!一時私に権限移譲を!」
誰だろう?所長の次に偉い人・・・副所長かな?
「私の・・・権限は・・・誰にも・・・渡さない」
「・・・・・・・」
「・・・えっと、私を次期所長に推薦する話は?」
「・・・うそ」
あ・・・副所長黙っちゃった。そしたら今度は別の人が話しかけてきた。
「所長!私の給料をあげてくれる約束は?」
「・・・・うそ」
「来年には領都に戻してくれる約束は?」
「・・・・うそ」
「36番捕まえた特別ボーナスは?」
「・・・・うそ」
『ギャアハハハッハ!嘘ばっかりだ!こいつ何一つ約束守ってねえ、っていうより守る気ねえぞ!魔族より酷え!』
・・・。
「配置換えの約束は?」
「・・・・うそ」
「今度休暇あげるって約束・・・」
「・・・・うそ」
「奢ってくれるって・・・」
「・・・・うそ」
「それじゃあ、俺達との約束ってどう考えているんですか?」
「・・・動かすのに・・・都合が・・・いい。契約と・・・違う・・・守らなくても・・・いい」
・・・・・
「「「「「「ふざけんな!!!!!」」」」」」
「こいつ最悪だよ!」
「もうこいつの事信じねえぞ!」
「ちょっと!俺にも質問させろ!」
「バカヤロー!こっちが先だ!」
兵士さん達が凄く怒りながら所長さんに詰め寄っていく。多分もう、僕の事なんて目に入っていない。その証拠に誰も僕を捕まえようとしないし、脇を抜けても何も言われない。
誰も僕を気にしないので、僕は一旦牢屋に戻り、兵士役の人達に状況を説明すると、何故か案内されて、鉱山から逃げ出す事に成功した。兵士役の人は当初、脱獄した僕達を捜索中に逃げる予定だったけど、僕から話聞いたら、作戦を変えたそうだ。




