第9話 十二歳の魔法使い
あの日から八年が経った。
「アルー! 起きてるー?」
扉の向こうからユリーカの声が聞こえる。
「起きてるよ」
「じゃあ早く来て! 父さん待ってるよ!」
「分かった」
返事をしながら、私は机の上に広げていた紙をまとめた。
十二歳。
この世界で目を覚ましたときは三歳ほどの身体だった私も、ずいぶん大きくなった。
そしてこの八年間。
私はほとんど毎日、魔法を研究していた。
机の横にある棚には大量の紙と何十冊ものノートが並び、それぞれの背表紙には『魔素と熱量の関係』『魔素操作精度と消費量』『外部魔素吸収に関する考察』『魔素による物質干渉』『六属性分類への疑問』『詠唱による発動補助効果』『魔法陣の構造と役割』といった題名が書かれている。
他にも電気、磁力、圧力、光、音、熱、物質変化。
興味を持った現象は片っ端から試した。
当然、失敗もした。
雷を再現しようとして庭の木を焦がしたこともあれば、圧縮した空気の解放方向を間違えて納屋の壁に穴を開けたこともある。
そのたびに父さんには怒られたが、研究そのものを止められたことはない。
いつからか父さんも、
「やるなら先に言え」
くらいしか言わなくなった。
ユリーカに至っては、私の実験を見ること自体に慣れてしまったらしく、多少の爆発音が聞こえても「またアルか」で済ませる。
家族というものは、恐ろしいほど順応が早いらしい。
八年前と比べれば、分かったこともかなり増えた。
まず、魔素は単純な物質ではない。
少なくとも私が前世で知っていた原子や分子とは明らかに異なり、魔素そのものが単純に炎や水へ変化しているわけでもなさそうだった。
より正確には、魔素を介して何らかの現象を発生させている。
今の私はそう考えている。
魔素を使えば温度を上げられるし、逆に下げることもできる。物体を動かし、空気を圧縮し、電位差を作り、音を生み、光へ干渉することもできた。
八年前の私なら、一つの現象を起こすだけでもかなり集中する必要があった。
だが今は違う。
右手で炎を維持したまま左手で水を浮かせ、周囲の空気を循環させながら、その外側では魔素を複数の流れへ分割する。
さらに周囲から外部魔素を取り込み続けても、まだ余裕がある。
八年前、五十本を超えたあたりから精度が落ちていた魔素の並列操作も、今では百本程度ならほとんど意識せず維持できるようになっていた。
それでも。
一番重要な部分だけは、八年経っても分からない。
魔素を使えば温度を変えられる。
物体を動かせる。
電気を生み出せる。
では、なぜ魔素にそんなことができる?
魔素とは何なのか。
なぜ人間の意識によって反応し、どのような過程を経て物理現象へ干渉しているのか。
そこだけは、いまだに説明できなかった。
前世の科学で例えるなら、電気を利用する技術だけが先に発達し、電子の存在を誰も知らないような状態に近いのかもしれない。
「……まだまだだな」
私はノートを閉じた。
八年間、毎日のように調べても分からない。
だが、それが楽しい。
一つの疑問を解決すると、その奥から二つ、三つと新しい疑問が現れる。
未知が減っているはずなのに、知れば知るほど知らないことが増えていく。
十二歳になった今でも、魔法への興味は少しも薄れていない。
むしろ、八年前より遥かに強くなっていた。
私は部屋を出て庭へ向かった。
そこには二人が待っている。
一人は父さん。
八年前、グラウスとの戦いで負った怪我はとうの昔に治っている。少し白髪が増えた気はするが、相変わらず元気だ。
そして、もう一人。
「遅い!」
腰に手を当てた少女が私を睨んでいる。
ユリーカ。
彼女も十四歳になった。
昔は私より頭一つ大きかったが、今では身長もほとんど変わらない。
「二分しか遅れてないよ」
「遅刻は遅刻!」
「研究してた」
「それ昨日も聞いた!」
「昨日も研究してたからね」
「そういう意味じゃない!」
父さんが笑った。
「相変わらずだな、お前ら」
「アルが悪い!」
「はいはい」
「はいは一回!」
「はい」
八年経っても、ここだけは何も変わっていなかった。
「それで、今日は何するの?」
私が父さんを見ると、父さんは隣にいるユリーカを指した。
「俺じゃない。今日はユリーカがお前に魔法を教える」
「……ユリーカが?」
「何その顔!」
少し意外だった。
魔法なら八年間ずっと使っているし、使える現象だけで言えば、一般的な魔法使いよりかなり多いと思う。
幼い頃にはユリーカから魔素操作を教えてもらったこともあるが、今さら何を教わるのだろう。
そんな疑問が顔に出ていたらしい。
父さんが腕を組む。
「アル。お前が八年間やってきたのは、お前なりの魔法だ」
「うん」
「今日教わるのは、この世界の魔法使いが使ってる魔法だ」
「……?」
「お前、普通の魔法をほとんど習ってないだろ」
言われて気付いた。
確かに。
私は八年間、魔法を研究してきた。
だが、まともな教師から体系的に魔法を習ったことは一度もない。
「……それはそうか」
「だろ?」
父さんが笑う。
「まあ、やってみろ」
父さんは少し離れた場所へ移動した。
代わりにユリーカが私の前へ立ち、なぜか得意げに胸を張る。
「では! 今日から私がアルの先生です!」
「二回目だね」
「え?」
「昔もユリーカ先生だった」
一瞬、ユリーカが黙った。
それから少し嬉しそうに笑う。
「覚えてたんだ」
「そりゃね」
「じゃあ今回も先生って呼んで!」
「それは嫌だ」
「なんで!?」
「十四歳になって調子に乗りそうだから」
「アル!」
少し離れた場所で父さんが笑っている。
ユリーカは不満そうだったが、やがて気を取り直して咳払いした。
「もう始めるよ! まずアル、火の魔法を使って」
「分かった」
私は右手を前へ出し、掌の少し先へ魔素を集中させる。
必要以上の量は使わず、周囲の状態を確認しながら局所的に温度を上げると、ボッ、と小さな炎が灯った。
「はい」
ユリーカがじっと炎を見る。
「……相変わらず変な魔法」
「普通の火だけど」
「結果だけはね。魔素の動きが全然普通じゃない」
やはり、ユリーカには魔素が見えている。
八年前から変わらない彼女の才能だ。
私自身も今では魔素をかなり細かく感覚として捉えられるようになったが、視覚に近い形で自然に認識できるユリーカには及ばない部分がある。
「じゃあ次。詠唱して、同じ魔法を使って」
「……詠唱?」
「そう」
「必要ないよ」
「知ってる。でもやってみて」
なるほど。
この世界の標準的な方法を試せということか。
私は以前読んだ魔法書を思い出す。
「炎よ、我が魔素に応え、その姿を現せ――ファイア」
ボッ。
先ほどと同じように炎が灯った。
「……同じだけど」
「本当に?」
ユリーカが指を立てる。
「魔素、ちゃんと感じてみて」
言われた通り、炎そのものではなく発動までの魔素の流れへ意識を集中する。
すると、すぐに違和感へ気付いた。
「……あれ?」
僅かだが違う。
詠唱した方が、魔素の流れが安定している。
消費量そのものに大きな差はないが、発動直前に魔素が目的の形へ整うまでの揺らぎが少ない。
「なんで?」
思わず尋ねると、ユリーカは自信満々に胸を張った。
「知らない!」
「……」
「そんな顔しないでよ!」
期待した私が悪かった。
「でも先生が言ってたよ。詠唱は魔法の形を作るんだって」
「形?」
「うん!」
興味深い。
私はもう一度同じ魔法を使い、今度は詠唱の最中に魔素の変化を可能な限り細かく追った。
「炎よ――」
魔素が動く。
「我が魔素に応え――」
流れが整っていく。
「その姿を現せ――」
発動直前、魔素の乱れがさらに減少した。
「ファイア」
ボッ。
「……なるほど」
言葉そのものに何らかの力があるのだろうか。
いや。
それなら、言語が変わればどうなる?
私はすぐに試した。
前世の日本語で、同じ意味の言葉を唱える。
「炎よ。我が魔素に応え、その姿を現せ」
ボッ。
何の問題もなく炎が生まれた。
魔素の安定化も確認できる。
「え!?」
ユリーカが目を丸くする。
「今なんて言ったの!?」
「昔覚えた言葉」
「何それ!?」
私は答えながら、すでに別のことを考えていた。
言語そのものは関係ない。
なら、重要なのは術者側だ。
決められた言葉を唱えることで、頭の中のイメージと魔素操作の手順を固定し、同じ魔法を同じ順序で再現しやすくする。
つまり詠唱とは、ただの呪文ではなく、人間が複雑な魔素操作を安定して再現するために生み出した補助技術なのかもしれない。
「……プログラムというより、マクロに近いか?」
「まくろ?」
「なんでもない」
面白い。
私が八年間ほとんど使わなかったものにも、ちゃんと意味がある。
「次はこれ!」
ユリーカが地面へ何かを描き始めた。
円の内側に複雑な記号と線、さらに文字が並んでいく。
「魔法陣?」
「そう!」
存在は知っている。
ユリーカの母親が残した魔法書にも載っていた。
ただ、私はこれまでほとんど使ってこなかった。
自分で魔素を操作した方が早く、細かく制御できると思っていたからだ。
「ここに魔素を流して」
「うん」
言われた通り、ほんの少量だけ魔素を流した。
その瞬間。
「……!」
魔素が勝手に動いた。
円に沿って流れ、いくつもの線へ分岐し、再び中央へ集まっていく。
ボッ。
魔法陣の中央に炎が生まれた。
私は固まった。
「……もう一回」
「いいよ」
再び魔素を流す。
今度は炎ではなく、魔法陣内部で何が起こっているのかを徹底的に観察した。
やはり同じだ。
私は魔素を入れただけで、その後はほとんど制御していない。
それにもかかわらず、魔法陣そのものが魔素の流れを変え、分岐させ、整え、最終的に炎という結果を出している。
「……すごい」
思わず声が漏れた。
「でしょ?」
ユリーカが得意げに笑う。
だが、おそらく私が感動している理由は、ユリーカが思っているものとは違う。
これは、回路だ。
魔素を入力し、内部で処理し、決められた現象を出力する。
入力、処理、出力。
「……そういうことか」
頭の中で、いくつもの考えが一気に繋がった。
今まで私は、魔法を発動するための処理をほぼ全て自分の意識で行っていた。
だから複雑な現象になればなるほど、同時に処理する情報量が増える。
だが魔法陣を使えば、その処理の一部を外部へ任せられる。
一つ目の術式で魔素量を調整し、二つ目で流れを分割、三つ目で条件を設定し、四つ目で出力を制御する。
それらを組み合わせれば、一人の人間が意識だけで扱うより遥かに複雑な処理だって可能になる。
「……装置が作れる」
「え?」
「ユリーカ」
「なに?」
「紙」
「紙?」
「あと炭!」
「え、授業は!?」
「続きは後!」
私は家へ向かって走り出した。
「ちょっとアルー!」
背後からユリーカの声が飛んでくる。
さらに父さんの声も聞こえた。
「また始まったな」
「父さん! 止めてよ!」
「無理だ。あの顔になったアルは止まらん」
「もー!」
その通りだった。
だが、思いついてしまった。
なら、試さずにはいられない。
その日から、新しい研究が始まった。
魔法陣。
私はまず、既存の魔法陣を徹底的に分解することから始めた。
線を一本消して発動するか確認し、駄目なら戻す。別の線を消して、炎は出るが出力だけ落ちるなら、その変化を記録する。
次に記号を一つ変える。
ボンッ!!
突然、火柱が上がった。
「うわっ!」
「アルー!?」
少し離れた場所で見ていたユリーカが叫ぶ。
「大丈夫!」
「今の大丈夫だった!?」
「結果はかなり面白い!」
「そういう意味じゃない!」
私は燃えかけた紙を踏んで消した。
失敗。
だが、原因は予想できる。
変更した記号が、魔素流量を制限していた可能性が高い。
なら次は、その機能だけを別の形で残せばいい。
「アル」
父さんの声。
「なに?」
「納屋だけは燃やすなよ」
「分かった」
「家もな」
「分かってる」
「あとユリーカと俺も」
「な!?」
「当然だろ」
それだけだった。
研究をやめろとは言われない。
一ヶ月、二ヶ月と研究を続けるうちに、魔法陣を構成する線や記号の役割が少しずつ見えてきた。
線は魔素が流れる経路。
記号は、その流れへ何らかの変化を与える。
ある記号は流れを分割し、別の記号は流量を制限する。さらに別のものは、乱れた魔素を一定方向へ整える。
そして調べれば調べるほど、一つの事実が浮かび上がってきた。
既存の魔法陣には、驚くほど無駄が多い。
同じ役割をしている線が複数存在し、必要以上に長い流路があり、似た処理を二度繰り返している部分まである。
おそらく理由は単純だ。
誰も完全な原理を理解していない。
昔からこの形なら動く。
この記号を入れれば火が出る。
だからそのまま使う。
さらに安全性を上げるため別の構造を足し、その上からまた別のものを加える。
何百年もそれを積み重ねれば当然こうなる。
「……削れる」
私は既存の火炎魔法陣を見つめた。
不要だと思われる部分を削り、重複している処理を統合して、魔素の流路そのものを短くする。
曲がる回数も減らし、必要な機能だけを残していく。
そうして新しい魔法陣を描いた。
「できた」
ユリーカが横から覗き込む。
「……小さくない?」
従来型の半分以下だ。
「試してみよう」
魔素を流す。
一瞬、何も起きない。
失敗か?
そう思った直後。
ボッ!!
炎が灯った。
「出た!」
ユリーカが声を上げる。
だが私は、炎そのものより魔素消費量を確認していた。
「……やっぱり」
「何?」
「少ない」
「どれくらい?」
従来型と比較する。
同じ大きさの炎を発生させ、何度か計測を繰り返して誤差を確認した。
「三分の一くらい」
「え?」
「同じ炎を出すのに、今までの魔法陣の三分の一程度しか魔素を使ってない」
「……そんなことできるの?」
「できたみたい」
ユリーカが驚いた顔で新しい魔法陣を見つめている。
だが私は、もう次のことを考えていた。
まだ削れる。
この線は本当に必要か。
この記号は別の構造へ置き換えられないか。
そして。
そもそも火を出すためだけの魔法陣である必要があるのか?
魔法陣が魔素の流れを処理する装置なのだとしたら、処理方法を切り替えることで同じ構造から違う結果を出せるはずだ。
「アル?」
「……」
「アルー?」
聞こえない。
頭の中は完全に研究へ切り替わっていた。
私は一つの魔法陣を完成させた。
掌に収まるほどの小さな円。
ただし、従来のものとは大きく違う。
特定の一属性を発動するための魔法陣ではない。
魔素の入力位置や流し方を変えることで、内部の流れそのものを切り替える構造になっている。
私は魔法陣へ指を置いた。
「起動」
魔素を流す。
ボッ。
炎が灯る。
一度止め、今度は流し込む位置を僅かに変え、魔素量も調整する。
すると水が生まれた。
さらに別の経路へ流す。
風が吹く。
「……」
隣にいたユリーカが固まっている。
「アル」
「なに?」
「それ……何属性?」
「分からない」
「分からないって……」
私は掌の魔法陣を見る。
正確には、何属性なのか分からないのではない。
何属性という考え方自体が、必要ないのかもしれない。
「多分」
私はゆっくり口を開いた。
「属性なんて、最初から存在しないのかもしれない」
「え?」
まだ証明はできない。
私自身、完全には理解していない。
それでも、八年間積み重ねてきた実験結果は少しずつその仮説を支持し始めている。
この世界では、魔法は火、水、風、土、光、闇という六つの属性に分類されている。
だが、もし順序が逆だったら?
自然界に火属性という独立した力が存在するのではなく、魔素を使って炎という現象を生み出したから、人間がそれを火属性と呼んだ。
水を生み出した、あるいは動かしたから水属性。
空気を動かしたから風属性。
つまり人間が結果を見て、後から名前をつけているだけなのではないか。
もしそうなら、魔素は最初から六種類に分かれているわけではない。
根本にあるものはただ一つ。
未知の何か。
そして、それを利用して様々な現象を起こしている。
この仮説が正しいなら、六属性に含まれていない現象も魔法として成立する。
いや。
すでに私はいくつも成功させている。
電気。
音。
熱の移動。
圧力。
さらに研究を進めれば、磁力や重力、真空といった現象にも干渉できるかもしれない。
そして、もし魔素そのものが空間や物質の根本へ作用できるのなら。
その先には。
「……空間そのものへの干渉も、あり得るか」
思わず呟く。
ユリーカが嫌そうな顔をした。
「またアルが変なこと考えてる」
「変じゃないよ」
「その顔してるとき、大体変なことするもん」
「失礼な」
だが、さすがに今すぐ試せるものではない。
空間とは何か。
魔素が何に対して作用しているのか。
そこから調べる必要がある。
仮説と証明は違う。
どれほど魅力的な考えでも、実験結果が伴わなければただの想像だ。
「……まだ早いな」
焦る必要はない。
時間はある。
もっとデータを集め、もっと魔法を知り、もっと多くの現象を試せばいい。
そのためには。
この村だけでは足りない。
「アル」
後ろから父さんの声がした。
「そろそろ準備しろ」
「何の?」
「忘れたのか? お前、十二歳になっただろ」
「……あ」
思い出した。
十二歳。
この世界では特別な年齢だ。
多くの子供が、自分の魔素量と適性属性を正式に調べる。
魔力測定の儀式。
「三日後だ。村の神殿で、お前の魔力を測る」
「……」
私は自分の手を見る。
自分の魔素量を、正確に測ったことはない。
八年間で内部魔素そのものも増え、さらに周囲から魔素を取り込む技術も、昔とは比べものにならないほど洗練された。
そして何より。
属性。
これはかなり興味がある。
この世界の測定器は、私をどう判定するのだろう。
火なのか。
水なのか。
風なのか。
複数属性なのか。
あるいは、私が考えている通り、属性判定そのものに別の意味があるのか。
「楽しみだな」
思わず呟く。
隣にいたユリーカが、ものすごく微妙な顔をした。
「……何?」
「アル。本当にやるの?」
「測定? 当然でしょ」
ユリーカは黙り込み、私の身体を見る。
正確には、私の周囲にある魔素を見ているのだろう。
「……何?」
「いや」
ユリーカが少し考えたあと、小さく呟いた。
「水晶、大丈夫かな」
「水晶?」
「壊れないかなって」
「まさか」
私は笑った。
魔力量を測定するために作られた道具だ。
それも、この村だけで使われている適当なものではない。
王国認定の測定器。
いくら私の魔素量が多少多いからといって、壊れるわけがない。
「大丈夫だよ」
「そうかなぁ……」
「心配しすぎ」
そう言って私は何も気にしていなかった。
三日後。
村の神殿。
私は王国認定の魔力測定用水晶へ手を置いた。
ほんの少しだけ魔素を流す。
その瞬間。
水晶全体が眩い光を放った。
「……え?」
赤、青、緑、黄、白、紫。
六色の光が水晶内部を駆け巡り、一気に混ざり合っていく。さらに光が強くなった。
神官が目を見開く。
ユリーカが「あ」と呟いた。
その直後。
バキッ。
水晶の中心へ、一本の亀裂が走った。
「……」
私は自分の手を見る。
もう一度、水晶を見る。
そして次の瞬間。
バキンッ!!
数百年間一度も壊れたことがなかったという魔力測定器が、粉々に砕け散った。




