第11話 王都へ
王立魔法学院から招待状が届いて十日が経った。
そして今日。
私は十二年間暮らした村を、初めて離れる。
「忘れ物ない?」
「多分」
「多分じゃ駄目でしょ!」
ユリーカが私の荷物を勝手に開け、中身を確認し始める。
着替えが二着。
食料。
水筒。
父さんから渡された護身用の短剣。
そして、魔法について書き続けてきた研究ノートが三冊。
「……アル」
「なに?」
「なんで着替えより本の方が多いの?」
「必要だから」
「着替えも必要!」
「二着あるよ」
「六日もかかるんだよ!?」
「洗えばいいじゃないか」
ユリーカが頭を抱えた。
私としては、二着もあれば十分だと思う。
それよりも問題だったのは、八年間書き溜めてきた研究資料の中から、持っていくものを三冊だけに絞らなければならなかったことだ。
本当なら全部持っていきたい。
『外部魔素吸収に関する考察』も必要だし、『魔法陣構造解析』も捨てがたい。王都で新しい魔法を見つけた場合を考えるなら、『六属性分類への疑問』も持っていきたい。
結局、三冊に絞るだけで昨夜のほとんどを使った。
「アル、そろそろ出るぞ!」
家の外から父さんの声が聞こえる。
「分かった!」
私はユリーカから荷物を取り返し、背負った。
外へ出ると、家の前には一台の馬車が止まっている。
王都までは、街道を使って六日ほど。
父さんも一緒に行く。
「ほら、アル! 早く乗るよ!」
「……なんでユリーカもいるの?」
「え?」
馬車へ乗り込もうとしていたユリーカが固まった。
「いや、てっきり父さんと二人で行くのかと」
「私も行くよ!」
「学院に?」
「…王都まで!」
父さんが荷物を積み込みながら笑った。
「はははっ! ユリーカも一度王都を見てみたいって聞かなくてな」
「だってアルだけずるもんっ!」
「別に遊びに行くわけじゃないんだけど」
「知ってる!」
そう言いながらもユリーカは明らかに楽しそうだ。
私はその後を追って馬車へ乗り込みながら、少しだけ安心している自分に気付いた。
十二年間、毎日一緒にいた。
当たり前すぎて気にしたこともなかったが、いざ村を離れるとなると、父さんとユリーカが一緒にいてくれることが思った以上に嬉しい。
「……よかった」
「何が?」
「なんでもない」
「アル、変なの」
いつものやり取りに、思わず笑った。
やがて馬車が動き始める。
車輪が土の道を進み、見慣れた家々が少しずつ遠ざかっていく。
村の人たちが道の両側に集まり、私たちへ手を振っていた。
父さんが大きく手を上げ、ユリーカも馬車から身を乗り出しそうな勢いで振り返している。
私は静かにその光景を眺めていた。
ここで第二の人生が始まった。
初めて魔法を見て、初めて魔法を使った。
七十四年間叶わなかった夢を叶え、父さんとユリーカという家族もできた。
そして今日初めて、その場所を離れる。
「行ってきます」
誰に言うでもなく、私は小さく呟いた。
不思議な気分だった。
前世では世界中を飛び回った。
国際学会、研究施設、大学、授賞式。
飛行機に乗って外国へ行くことなど、それほど珍しくもなかった。
それなのに、馬車で小さな村を離れるだけの今の方が、ずっと胸が高鳴っている。
「アル!」
隣からユリーカが声をかけてきた。
「王都、楽しみ?」
「もちろん」
「何したい?」
「まず図書館に行きたいな。学院の図書館にも入りたいし、魔道具を売ってる店も見たい。それから研究施設があるなら見学したいし、できれば王都の防護術式についても――」
「待って待って! そういうのじゃなくて!」
「じゃあ何?」
「美味しいもの食べるとか!」
「食事か……」
「もぅ、その顔やめて!」
どうやら、私とユリーカでは王都に期待しているものが根本から違うらしい。
旅は思っていたより穏やかだった。
街道はきちんと整備され、途中には小さな町や宿場もある。
魔獣に襲われることもなく、馬車は順調に王都へ向かって進んでいった。
ただ私にとっては、移動しているだけでも退屈する暇がない。
見るもの全てが研究対象だったからだ。
「……あれ何?」
二日目。
私は馬車の窓から、街道沿いに並んでいる石柱を指差した。
人の背丈より少し高いくらいの柱が一定間隔で設置されており、その上部には小さな魔法陣のようなものが刻まれている。
「魔除けの石柱だ」
父さんが答えた。
「魔除け?」
「弱い魔獣が街道に近づかないようにしてる」
私は身を乗り出した。
「どうやって?」
「知らん」
「どんな魔法陣?」
「知らん」
「魔素はどこから供給してるの?」
「魔石だな」
「何年くらい動く?」
「知らん!」
父さんが勢いよく振り返った。
「俺は魔法学者じゃない!」
「そうだった」
「何年一緒にいるんだ!」
隣でユリーカが笑っている。
しかし、これは非常に興味深い。
村では、魔法といえば人間が直接使うものがほとんどだった。
家事や狩りに利用することはあっても、あくまで人間が魔素を操作し、魔法を発動している。
だが街道には、人が常に操作しているようには見えない魔法装置が、何十本も設置されている。
「自動で動いてる……?」
もしそうなら、魔法陣が単なる発動補助ではなく一定の条件で継続的に作動する制御装置として使われていることになる。
作動条件は?
魔獣と普通の動物をどう判別している?
気になる。
できれば一本外して中を――。
「アル」
父さんの声。
「なに?」
「今、石柱持って帰れないか考えただろ」
「え……どうして分かったの?」
「分かる」
父親というものは時々、妙に鋭い。
三日目。
宿へ入った瞬間から、私は別のものへ興味を奪われた。
部屋の天井にランプがない。
代わりに、小さな透明な石が埋め込まれている。
「これ、何?」
宿の主人に聞くと、壁に取り付けられた金属板を指差された。
試しに触れてみる。
パッ。
天井の石が光った。
「……」
もう一度触れる。
天井の石が消える。
点ける、消す、点ける。
「アル」
後ろから呆れた声がした。
振り返ると、ユリーカがこちらを見ている。
「何してるの?」
「調べてる」
「さっきから何回やってるの?」
「十四回」
「数えてたの!?」
もちろん。
私は金属板へ触れながら、魔素の流れに意識を向ける。
僅かだが感じる。
壁の金属板から何かが内部へ流れ、そのまま天井の石まで続いている。
「……配線されてる?」
魔素を伝達するための素材が、壁の内部を通っているのだろうか。
もしそうなら、魔素を遠距離へ運べるということになる。
これはかなり重要だ。
「魔素導体……?」
前世でいう電線に近いものが、すでに存在する?
だとすれば、一か所から大量の魔素を供給して複数の魔道具へ分配することもできる。
魔素供給設備。
蓄積装置。
配電設備。
制御器。
一気に色々な可能性が頭へ浮かんだ。
「……壁、開けていいかな」
「駄目」
ユリーカが即答した。
「まだ宿の人に聞いてないよ」
「聞くのも駄目!」
「ちょっと見るだけ」
「アルが『ちょっと見る』って言って、本当に見るだけだったことないでしょ!」
失礼な。
……否定はできない。
「アル」
今度は父さんがこちらを見る。
「宿の壁だけは壊すなよ」
「壊さないよ」
「なら好きに観察しろ」
「父さん!?」
ユリーカが驚いた。
「止めないの!?」
「見るだけならいいだろ」
「アルだよ!?」
「…ひどいな」
父さんは笑いながら荷物を置いた。
どうやら八年間で、父さんもかなり変わったらしい。
結局、壁を開けることは諦めた。
だがその夜、私はベッドへ入ってからも天井で光り続ける石を眺めていた。
魔法を利用した照明。
前世なら電球やLEDに相当する。
しかしこの世界では電気ではなく魔素が、その役割を果たしている。
ある程度の距離まで魔素を送れる技術がある。
なら、もっと大規模な魔素供給網を構築することも可能なのではないか?
一軒の建物ではなく、町全体。都市全体へ魔素を供給する。
そして、それぞれの場所で魔法陣によって必要な現象へ変換する。
照明、冷暖房、水、動力、通信。
「……面白いな」
この世界は、私が思っていたよりもずっと魔法を技術として使っている。
ただし、原理を理解した上で使っているかどうかは別問題だ。
「アル」
隣のベッドからユリーカの声がする。
「なに?」
「寝て」
「もう少し」
「明日寝不足になっても知らないよ」
「大丈夫」
翌朝。
普通に寝不足になった。
「ほら!」
「……眠い」
「言ったでしょ!」
ユリーカに怒られた。
旅の五日目になると、周囲の景色が明らかに変わってきた。
道幅が広くなり、行き交う馬車の数も増える。
商人、旅人、騎士、杖を持った者、ローブ姿の魔法使いらしき者。
腰に見たことのない魔道具を下げている人間もいる。
私は窓から外を眺めながら改めて思った。
面白い。
知らないものだらけだ。
村で八年間研究を続け、魔法についてそれなりに理解してきたつもりだった。
だが外へ出れば分かる。
私が知っている魔法など、この世界のほんの一部だ。
それが嬉しかった。
まだ知らないものがこんなにある。
「アル」
父さんが前方を指差した。
「見えてきたぞ」
私は顔を上げる。
そして。
言葉を失った。
遠く、地平線の向こうに巨大な壁が見える。
その奥にはいくつもの塔や建物が立ち並び、さらに中央には巨大な城がそびえていた。
「あれが……」
「ああ」
父さんが答える。
「王都、アルカディアだ」
想像していたより遥かに大きい。
人口は数万人だろうか。
いや、十万人以上いるかもしれない。
前世の都市と比べれば、決して巨大とは言えない。
だが、この世界へ来てから小さな村しか知らなかった私には、十分すぎるほどの大都市だった。
しかし、私が見ていたのは街そのものではなかった。
「……父さん。あれ」
私は王都の上空を指差す。
空に、巨大な円が浮かんでいた。
いや、円ではない。
あれは。
「魔法陣……?」
直径は数百メートル。
もしかすると、一キロ近いかもしれない。
ほとんど透明で、注意しなければ空へ溶け込んで見落としてしまいそうだ。
だが、そこから感じる魔素は凄まじい。
「王都防護結界だ」
父さんが答えた。
「戦争や魔獣の襲撃から王都を守るための結界らしい」
「誰が動かしてるの?」
「王宮じゃないか?」
「魔素は?」
「知らん」
「構造は?」
「知らん」
「維持する魔素量は?」
「知らん!」
父さんが振り返った。
「着いたら自分で調べろ!」
「そうする」
「本当にやるんだろうな……」
もちろん。
むしろ、学院より先にあれを調べたいくらいだ。
数百メートル規模の魔法陣。
あの巨大な術式をどうやって維持している?
一つの魔法陣として動作しているのか、それとも複数の小型術式を同期させて、巨大な結界を構成している?
魔素供給源は?
王都全域の外部魔素を利用?
魔石?
複数の魔法使い?
もしあの規模の魔法陣を解析できたら、私が作った掌サイズの術式とは、まったく違う技術体系が見えるかもしれない。
「アル」
ユリーカが私の袖を引っ張る。
「顔」
「え?」
「すっごい笑ってる」
「……そう?」
「うん」
仕方がない。
未知の魔法が目の前にあるのだから。
馬車が巨大な門へ近づいていく。
門を通過した瞬間。
「……!」
身体を何かが通り抜けた。
私は反射的に後ろを振り返る。
「どうした?」
父さんが聞く。
「今、何かが私の身体を調べた?」
物理的な感触ではない。
魔素だ。
ごく薄い魔素の膜のようなものが、身体の表面から内部までを一瞬で走り抜けた。
防護結界の一部?
あるいは王都へ入る人間を確認するための探知術式?
「アル?」
「……後で調べる」
「またそれか」
門を抜け私は初めて王都の中へ入った。
「……すごい」
思わず声が漏れた。
とにかく人が多い。
石造りの建物が並び、道の両側には食べ物、武器、衣服、魔道具などを扱う店が隙間なく続いている。
頭上には魔法で灯る街灯。
道路の端には一定間隔で小さな魔法陣が設置され。
広場にある大きな噴水からは、ポンプらしいものが見当たらないにもかかわらず絶えず水が流れている。
村では魔法は人間が使うものだった。
だが、ここでは違う。
魔法が街そのものを動かしている。
「……すごいな」
八年前、初めて魔法陣を見て、いつか魔法を装置にできるかもしれないと考えた。
その一部はすでに存在している。
なら。この世界の人間は一体どこまで進んでいる?
私は知らず知らずのうちに身を乗り出していた。
そして、道路を走る奇妙な乗り物が目に入った。
「……何あれ?」
馬車に似ている。
四つの車輪。人が乗るための座席。
だが馬がいない。
それなのに、その乗り物は当たり前のように道路を走っている。
「魔導車だ」
父さんが言った。
「魔導車?」
「魔石で動く。高いから、貴族か金持ちくらいしか持ってないけどな」
「魔石で……」
私は立ち上がった。
「アル?」
ユリーカが嫌な予感を察した顔になる。
「父さん」
「なんだ」
「馬車止めて」
「なんでだ」
「あれ見たい」
「学院が先だ」
「一分!」
「駄目」
「構造だけ!」
「駄目」
「魔石だけでも!」
「駄目だ」
「…横暴だ!」
「お前の入学試験のために王都まで来たんだぞ!」
ユリーカが腹を抱えて笑っている。
仕方なく座る。
だが覚えた。
魔導車。
絶対に後で見る。
どうやって回転運動へ変換している?
直接車輪へ魔素を作用させているのか。
内部に魔法陣と駆動機構がある?
速度調整は?
制動は?
私は通り過ぎていく魔導車を、見えなくなるまで目で追った。
馬車はそのまま王都の中心部へ進む。
しばらくして、私は巨大な建造物を目にした。
いや、建物というより一つの街に近い。
高い壁に囲まれた広大な敷地。
その内部には複数の校舎や訓練場があり、さらに奥には巨大な塔まで建っている。
正門の上には王国の紋章。
さらに、魔法を象徴する六色の装飾。
「ここが……」
父さんが言った。
「王立魔法学院だ」
私は正門を見上げる。
この世界最高峰の魔法教育機関。
何百年もの歴史があり、何千冊もの魔法書が集められ、王国最高の魔法使いや研究者たちがいる。
私の知らない魔法。
知らない理論。
知らない魔道具。
きっと全部ここにある。
胸が高鳴る。
早く入りたい。
この世界の人間はどこまで魔法を理解しているのか。
私が知らない法則をどれだけ見つけているのか。
何十年も魔法を研究してきた人間と話したらどんな答えが返ってくるのか。
「アル」
隣に立ったユリーカが私を見る。
「楽しそうだね」
「うん」
「そんなに?」
「ものすごく」
正直に答えるとユリーカが笑った。
「じゃあ絶対受からないとね!」
「もちろん」
そう答えてから、ふと一つのことに気付いた。
「……ユリーカは?」
「え?」
「私が学院に入ったら、ここに住むことになるんだよね?」
「……うん」
今まであまり考えていなかった。
学院へ入学すれば、私は王都で暮らすことになる。
つまり、父さんとユリーカとは離れる。
「私は村に帰るよ」
ユリーカが少しだけ俯いた。
「父さんもいるし。それに私、学院に入れるほどすごい魔法使いじゃないから」
「……」
八年前、私に初めて魔素操作を教えてくれたのはユリーカだった。
魔法を遠くへ飛ばした後も、魔素との繋がりを切らず。細く正確に制御し続ける。
あの感覚を教えてくれたのもユリーカだ。
最近では、詠唱、魔法陣、この世界の魔法使いが積み上げてきた技術を教えてくれた。
私が、今ここにいるのはユリーカのおかげでもある。
「アル?」
「ユリーカ」
「なに?」
「私が学院で勉強して、もっと魔法が分かるようになったら」
一度言葉を止める。
「今度は私が教えるよ」
ユリーカが少し驚いた顔をした。
「私に?」
「うん」
「難しいのは嫌だよ?」
「簡単にする」
「本当に?」
「先生に教えるんだからね」
ユリーカの目が少し大きくなる。
それから嬉しそうに笑った。
「覚えてたんだ」
「忘れないよ」
私が最初に魔法を学んだ先生。
それは、有名な魔法使いでも、偉大な研究者でもなかった。
私より二歳年上の一人の少女だった。
「約束ね!」
「うん」
ユリーカが小指を出す。
私はその指へ、自分の小指を絡めた。
「約束」
その日の夕方。
私たちは学院近くの宿へ入った。
試験は翌朝から。
筆記、魔素操作、魔法実技。
三つの試験が行われるらしい。
私はベッドへ座り、学院から渡された試験案内を読む。
筆記。
おそらく問題ない。
むしろこの世界の魔法理論について、どんな問題が出されるのか楽しみなくらいだ。
魔素操作も問題ないだろう。
八年間、ひたすら鍛え続けてきた。
今なら百を超える魔素の流れを、同時に独立して制御できる。
問題は魔法実技。
私は試験案内の最後に書かれた一文で手を止めた。
『魔法実技試験では、受験者が最も得意とする魔法を使用すること』
「……最も得意な魔法?」
困ったな。
火なら、温度をかなり細かく制御できる。
水なら、圧力と速度を変えられる。
風なら、空気の圧縮。
刃、衝撃、冷却、電気も扱える。
音、光も。
最近では、魔法陣を組み合わせた術式も研究している。
そもそも、私はどれが一番得意なのだろう。
「アル」
父さんがこちらを見る。
「どうした?」
「明日の実技試験、得意な魔法を使えって」
「ああ」
「何を使えばいいと思う?」
父さんとユリーカが同時に黙った。
なぜだ。
二人は顔を見合わせる。
やがて、父さんが非常に真剣な顔でこちらを向いた。
「……普通のやつにしろ」
「普通?」
「ああ。火でも水でもいい。できれば、見た人が何をされたか分かるやつだ」
「分かった」
「あと」
父さんが指を立てる。
「試験場を壊すな」
「壊さないよ」
「本当だな?」
「試験だよ?」
「お前だから言ってるんだ」
……失礼な。
ユリーカも頷いている。
「アルの場合、一割とかでも駄目だからね」
「一割?」
「うん」
「一割なら十分弱いと思うけど」
ユリーカが父さんを見る。
父さんもユリーカを見る。
二人とも。
ものすごく嫌そうな顔をした。
「え……何?」
「いや」
父さんが答える。
「とにかく、控えめにな」
「分かった」
私は頷いた。
もちろん本気など出すつもりはない。
これは戦闘ではなく、ただの入学試験だ。
試験官が私の実力を判断できる程度に、少し強めの魔法を見せればいい。
ほんの少し。
そう、一割くらいで十分だろう。
父さんが私を見る。
「アル」
「なに?」
「今、嫌なこと考えなかったか?」
「別に」
「そうか……?」
私は試験案内へ視線を戻した。
明日は王立魔法学院の入学試験。
この世界へ来てから、初めて本格的な魔法教育を受けるための入口。
どんな問題が出る?
どんな魔法使いがいる?
どんな魔法を見られる?
楽しみで仕方がない。
私はその夜、なかなか眠ることができなかった。
そして翌日。
父さんとユリーカの嫌な予感は、見事に的中することになる。




