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牌アガる!  作者: ぺー村様
出会い編
9/14

第九話「友達の話③」※海里視点

「ちはやふる」「ヒカルの碁」といった青春文化系部活モノが好きな方には絶対に刺さる作品になります。

テーマは麻雀ですが、麻雀が分からない方にも読みやすい内容となっています。(異能力はないです)

1話あたりのボリュームが多いですが、お手柔らかに、読んで頂けると大変恐縮です。

挿絵(By みてみん)


カラン。


雀荘のドアが開く音。


海里は音のなる方に視線を向けた。


挿絵(By みてみん)


一瞬で理解する。


入口に立っていたのは、一人の女の子。


ポニーテールに縛った髪。


どこか今風の服装。


不安そうに店内を見回していて、

明らかに雀荘慣れしていない。


《この子だ......》


この機会を逃したら後悔する。


そう思った瞬間には、もう口から声が出ていた。


「あんたが緑って子ね!」


入口付近に立っていた女子高生が、

びくりと肩を震わせる。


長めのポニーテール。


赤系の制服。


中野っちから聞いていた特徴と一致する。


間違いない。


けれど――。


「……っ」


その女の子は露骨に怯えていた。


視線が泳いでいる。


逃げ道を探しているみたいに、

落ち着きなく周囲を見ていた。


あ、やば。


勢いで話しかけすぎたかもしれない。


あたしはただ、

この子がどんな麻雀をするのか見たいだけなのに。


いったいどんな打ち方をするのか。


それを知りたいだけなのに。


このままだと怖がられて終わってしまう。


逃げられるのはまずい。


「え、えっと……」


一度深呼吸。


落ち着け、あたし。


「あたしは星川 海里! あんた何歳?」


(あたしのバカーーっっ!)


失言を取り消すかのように笑うも引きつっている。


その女の子はまだ警戒したままだった。


その後。


とりあえずめぐみさんに協力をしてもらいながら、

何とかその子と卓を囲むことができた。


(前々からめぐみさんに、この子が来たら対局してみたいと伝えておいてよかった.....)


海里は内心ほっと胸を撫で下ろす。


結果東風戦にはなったけど、それでも十分だ。


この子がどんな麻雀を打つのか。


全部、この目で見る。


全力でぶつかってみよう。


東一局。


……早くアガりすぎた?


東二局。


「うん......」


東三局。


「あれ?」


もっとこう、圧倒される何かがあると思っていた。


空気を変えるような打牌とか。


異常な読みとか。


高度な押し引きとか。


そういうのを期待していたのに。


今のところ、

ただ慎重なだけの初心者みたいな麻雀だった。


なんか拍子抜けだった。


「少しガッカリ」


――あっ。


つい、口が滑った。


しまった、と思った時にはもう遅い。


緑の肩がぴくりと震えた。


東四局はあたしが三浦さんに振り込んで対局は終了した。


結局、最後まで緑の麻雀はとても普通だった。


いや、普通というより――弱い。


少なくとも、

中野っちが言っていたような打ち手ではなかった。


当然愛万根さんのような化け物でもなかった。


対局が終わった瞬間、

緑はほっとしたように小さく息を吐いて、

そのまま逃げるみたいに席を立った。


帰る気だ。


まぁ、別にもういいか。


この子とは何回打っても負ける気がしない。


正直、麻雀のライバルとして見れば拍子抜けだった。


……でも。


「あ、ちょっと待って」


気づけばまた呼び止めていた。


その子がびくっと肩を揺らして振り返る。


そんなに怖がらなくてもいいのに。


話を聞くと勉強に困っているらしい。


おまけにその子は困ったように目を瞬かせた。


「勉強...教えてもらえませんか?」


麻雀のライバルとしては役不足。


だけど――。


友達にはなりたい。


……かも。


そんなことを、少しだけ思った。


「いいわよ、連絡先交換しましょ」


そう言ってスマホを差し出すと、

緑は海里に初めて笑顔を見せて小さく頷いた。





それから緑とは勉強と麻雀を教えるために、

よくファミレスで合流するようになった。


最初は勉強だけのつもりだったのに、

気づけば話題は麻雀の話になっていく。


挿絵(By みてみん)


「あ、それ鳴いた方がいい?」


「いや、それは我慢」


「なんで!?」


「今押したら死ぬから」


そんなやり取りをしている時間は、

案外嫌いじゃなかった。


むしろ――居心地が良かった。


友達が少ないあたしにとって、

放課後に誰かと集まるなんてとても新鮮だった。


緑は変なやつだ。


オドオドしてるくせに、

麻雀になるとテンション上がるし、

こっちが思ってもない降り方をする時もある。


でもやっぱり、まだまだ粗い。


放っておけない感じ。


この日もいつものように勉強を教えていると、

話題は自然と麻雀の話に、

それから大会の話になった。


「大会って、やっぱ緊張するの?」


緑がノートから顔を上げる。


「そりゃするよ。でも楽しい」


そう答えながら、ふと思った。


この子と一緒に大会に出たら、楽しいかもしれない。


同じ会場にいて、


同じ決勝の卓を目指して、


勝った負けたって騒いで。


そんなの、きっと悪くない。


――でも。


胸の奥に、負の感情が沸いてくる。


私は今年こそ決勝に行きたい。


去年みたいに終わりたくない。


絶対に。


だったら――。


もし、この子が。


緑が。


あたしが決勝へ行くための壁になる可能性は?


「……」


自分で自分に問いかける。


その考えが浮かんだ瞬間、胸の奥が冷たくなっていく。


「県大会、出ないの?」


思ってもないセリフが口から出てしまった。


けど緑は、予想以上に強く首を横に振った。


「いやいやいや」


本気で断っている。


逃げたいとかじゃない。


本当に、自分には関係ないと思ってる顔だった。


「……まだあんたには大会は早いかもね」


気づけば、そんな言葉が口から出ていた。


緑は少しだけ寂しそうな顔をしたあと、

小さく頷いた。


その表情を見て。


あたしは最低だと思った。


残念、という感情より先に。


心のどこかで安心している自分がいたから。


でもこれで決勝への道へ一歩近づいた。


そう思ってしまった。


緑との時間は楽しい。


一緒にいると居心地がいい。


もっと麻雀を教えたいとも思う。


でも、それ以上に。


今年こそ決勝へ行きたい。


中野っちに勝ちたい。


そのためなら、全部やる。


どんな感情だって飲み込む。


「じゃ、またね」


「……うん」


その日も、いつも通り緑と別れた。


夕方のファミレスのドアが閉まる。


その背中を見送りながら、

胸の奥だけが少し重かった。





二学期が始まると、

あたしは勉強の時間を減らしてその時間を全部麻雀に回すようになった。


放課後。


休日。


家に帰ってからの時間。


大会までに使える時間は、全部麻雀に使う。


牌譜を見る。

ネット麻雀を打つ。

中野っちの打ち方を思い返す。


今年こそ勝つ。


そのためなら、やれることは全部やる。


――でも。


いつも頭の片隅に引っかかることがあった。


(緑、本当に大会出ないのかな。)


もし出たら?


もし、あの時見せなかっただけで、本当は――。


「……いや」


考えても仕方ない。


そういえば明日が大会の締切だっけ。


そんなことを考えていた時だった。


ぶるる、と机の上の携帯が震える。


画面を見る。


緑からだった。


ーー緑《麻雀やっても意味ないよね》


「……は?」


思わず眉をひそめる。


意味がない?


何言ってんの、こいつ。


その後しばらくして


最後のメッセージが届く。


ーー緑『私には何もないから』


その文字を見た瞬間。


胸の奥が、妙にざわついた。


あたしはなんて返したら.....


海《何もないなら、なおさら麻雀くらいやれば?》


打ち終わって送信せずに消す。


海《何もないって言うなら、作ればいいじゃん。

大会も出ない、麻雀からも逃げる、

それで何か変わると思ってるの?》


打ち終わって送信せずに消す。


ーー。


海《じゃあ麻雀辞めれば?》


その短い文字だけが、画面に冷たく残る。


ーー送信。


ーー。


ーー。


――数分後。


「……最低だ」


思わず呟いていた。


何やってんの、あたし。


あんなセリフ、緑にしたかったわけじゃない。


焦ってた。


でも、だからって。


こんなのただ、弱ってる相手を突き放しただけだ。


慌ててLINEを開く。


まだ既読は付いていない。


今なら間に合う。


指が震える。


削除。


メッセージが消えた瞬間、

胸の奥が少しだけ軽くなって――。


同時に、もっと自分が嫌になる。


海里は自分で自分の頬を殴った。


乾いた音が、静かに響く。


「……っ」


痛い。


でも、それくらいじゃ全然足りなかった。


この気持ちの償いには軽すぎた。



あれから緑とは連絡を取っていない。


緑からも来ていないし、

あたしから送ることもなかった。


あの日消したメッセージの感触だけが、

ずっと指先に残っている。



雀荘へ向かう道を歩く。


夜風が少し冷たい。


「……」


考えるな。


今は大会だけを見ろ。


そう言い聞かせるように、

海里は緑一色の扉を開けた。


カラン、とベルが鳴る。


いつもの匂い。

いつもの卓。

いつもの牌の音。


海里は席に座る。


勝つために。


決勝へ行くために。


中野っちに勝つために。


そのためなら、余計な感情はいらない。


――そう思っているのに。


牌を握るたび、

ふと頭に浮かぶのは、緑の顔だった。





そして大会前日を迎えた。


その日も海里は、いつものように緑一色へ足を運ぶ。


カラン、とベルが鳴る。


店の奥を見ると、そこには中野っちの姿があった。


牌を並べるその横顔は、

去年より少しだけ自信があるように見える。


海里は自然と笑った。


「明日は大会だね。今年は優勝できそう?」


中野は手を止めず、小さく笑う。


「優勝は目指すよ」


そして少しだけ視線を上げた。


「それと……星川さんとの勝負も楽しみにしてる」


その言葉に、胸が熱くなる。


「私も負けない!」


思わず声が大きくなる。


「中学一年の時の借り、二年越しで返すから!」


中野が苦笑する。


その空気が心地よかった。


やっぱり。

あたしはこの場所が好きだ。


この緊張感が好きだ。


勝ちたい。


心の底から、そう思う。


――だからこそ。


ふと、ある顔が頭に浮かぶ。


「……そういえばさ」


海里は何気ない風を装って尋ねた。


「あの子。緑と会った?」


中野は少し考えるように視線を動かしたあと、

首を横に振る。


「いや。一度も」


「そっか」


軽く返したつもりだった。


けれど胸の奥が、妙にざわつく。


海里は気になって、

店の奥にいためぐみさんにも聞いてみた。


挿絵(By みてみん)


しかし返ってきたのは同じ答えだった。


「あれから一回も来てないねぇ」


その言葉だけが、静かに胸へ沈んだ。




そんな煮え切らない感情を抱えたまま、


海里は中学麻雀 県大会の当日を迎えるのであった。



後半まで既に展開は構想立てております。

かなりの長編ものになりますが、頻繁に更新をしていきます。末永くよろしくお願いします。

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