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牌アガる!  作者: ぺー村様
中学生編
8/14

第八話「友達の話②」※海里視点

「ちはやふる」「ヒカルの碁」といった青春文化系部活モノが好きな方には絶対に刺さる作品になります。

テーマは麻雀ですが、麻雀が分からない方にも読みやすい内容となっています。(異能力はないです)

1話あたりのボリュームが多いですが、お手柔らかに、読んで頂けると大変恐縮です。

⚠︎良ければブックマーク、評価の方よろしくお願いします。

挿絵(By みてみん)


ブーーー。


中学麻雀 県大会 一回戦。


対局開始の電子音が、会場に鳴り響く。


合図と同時に一斉にサイコロの回る音が響く。


牌を混ぜる音。


牌が打たれる音。


静寂だった会場が、一気に麻雀の空気へ変わる。


その中で一番最初に声を出したのは、海里だった。


「リーチ」


真っ直ぐな声。


迷いがない。


あたしはただアガるだけ!


ただ、目の前の牌だけを見ていた。



南四局。


「ロン。8,000点」


海里が静かに牌を倒す。


対局終了。


点棒が確認される。


52,000点。


圧倒的トップ。


二回戦進出。


「ありがとうございましたー」


卓を立つ。


その時。


近くから小さな声が聞こえてきた。


「やっぱ今年も星川さん強くない?」


「中学大会でも頭一つ抜けてるよね」


「今年の優勝候補かなぁ」


ひそひそと友達同士で話す私の会話が聞こえてくる。


海里は聞こえていないふりをした。


その程度で満足するつもりはなかった。


海里は会場を見渡す。


探しているのは、一人だけ。


Bブロックの様子はAブロックの部屋からは分からない。


――中野っち、そっちはどうなの.......?


気になりつつも、

10分の休憩のあと二回戦の卓へ案内される。


二回戦の卓。


対局相手との対面。


「よろしくお願いします。」


そこには見たことのない女の子、

でもその子から視線がなぜか離せなかった。


綺麗な黒髪。


白い肌。


感情の薄い顔。


まるで、お人形みたいだった。


「よろしく......」


小さい声で、無機質な返答だった。


海里は少しだけ目を細める。


こんな子も上品な人も麻雀を打つんだ.......


そう思いながら会釈をする。


再び、会場にブザーが鳴り響いた。


ブーーー。


二回戦の開始を告げるブザー音。


タン。


タン。


牌の音が卓に響く。


一回戦と同じ様にただまっすぐアガればいい。


「リーチ!」


海里はただまっすぐに打ち込む。




「.........ありがとうございました」


対局終了。


海里は、しばらく席を立てなかった。


点数表を見る。


三着。


二回戦敗退。


頭が真っ白だ。


負けた。


決勝には行けない。


中野と戦うこともできない。


海里はゆっくり視線を上げる。


向かいのお人形みたいな子、何なのコイツ。



――この子さえいなければ。



喉がうまく動かない。


決勝で会おうなんて言っといて。


あんなに偉そうなこと言っといて。


なんて情けない。


海里は俯いたまま、会場を後にした。



部屋を出る。


人の少ない通路。


さらに奥。


人気のない場所へ逃げ込む。


その瞬間。


気を張っていたものが切れた。


挿絵(By みてみん)


「っ……」


涙が溢れる。


悔しい。


悔しい。


悔しい。


拳を握る。


でも。


一番苦しかったのは。


中野と決勝戦で一緒に麻雀が出来なかったことだ。


頭が痛い。


重い頭を首が支えられず、下しか向けない。


そのまましばらくは顔をあげることが出来なかった。



数時間後。


今頃、きっと決勝戦が行われている。


海里は会場の外にある休憩スペースで、

ぼんやり床を見つめていた。


「……」


中野っちは休憩スペースには来ていない。


その事実だけで、なんとなく分かってしまう。


「そういう事か」


海里は乾いた笑いを漏らす。


「……ははは」


あんなに決勝で戦うつもりだったのに。


「麻雀て難しいなぁ......」


近くのモニターでは、

決勝戦らしき映像が流れていた。


でも。


画面を直視できない。


あの場に自分がいない現実を受け止められなかった。



ブーーー。


対局終了を告げる電子音と共に、

大会終了のアナウンスが流れる。


『これより表彰式を行いますので、

出場者の皆様は会場へお集まりください』


海里は重い足取りで会場へ戻った。


大きな会場の隅っこ。


目立たない場所。


壁にもたれかかる。


挿絵(By みてみん)


前方では、決勝卓の四人が並んでいた。


賞状が渡されていく。


海里はその顔をぼんやり眺める。


「……」


中野っち、4位か。


海里は小さく息を吐く。


「すごいね」


素直にそう思った。


少なくとも。


自分より上まで進んでいる。


そして。


上位三人へ視線を向ける。


全員知らない顔だった。


「小学校の大会にはいなかったのに......」


海里は目をそっと閉じる。


こんなに。


中学の大会ってレベル高いの?


今まで、自分はかなり強いと思っていた。


同年代に負けることなんて、ほとんどなかった。


なのに。


ここには、自分より強い子がたくさんいる。


目を開けてもう一度ステージを見る。


優勝者に視線が移る。


綺麗な黒髪。


白い肌。


感情の薄い顔。


二回戦で対局した、あのお人形みたいな子......


「……」


同学年で。


(あたしより強い子、いっぱいいるじゃん。)


その現実が、胸へ重く落ちる。


海里は静かに目を伏せた。


そして。


誰にも気付かれないように、

そのまま会場を後にした。



それからしばらくは、雀荘へ行けなかった。


大会のことを思い出すから。


あの女の子に振り込んでしまった記憶。


忘れたくても忘れられない。


何より中野っちにどういう顔で会えばいいか分からない。


でもやっぱり。


麻雀は嫌いになれなかった。


むしろ、負けたからこそ、もっと強くなりたい。


勝ちたい。


あの子たちに。


中野っちに。


(負けたままじゃ終われないよ。)


海里は自分の部屋で、静かに拳を握る。


麻雀を好きでいるためには。


自分が強くなるしかない。


そう思った。


そして。


海里はゆっくり立ち上がる。


向かう先は決まっていた。


――中野っちがいる、あの雀荘。



カラン。


入口のベルが鳴る。


雀荘の空気が、少しだけ揺れた。


海里が扉を開け、中へ入る。


その瞬間。


卓についていた中野が、ふと顔を上げた。


視線が合う。


「……」


「……」


お互い、言葉が出ない。


大会の日以来だった。


海里は何を言えばいいのか分からない。


中野も、少し困った顔をしている。


気まずい沈黙。


牌の音だけが店内に響く。


しばらくして。


海里が先に口を開いた。


「……ま、麻雀打つ?」


少しだけぎこちない声。


中野は一瞬目を丸くする。


それから。


小さく頷いた。


タン。


タン。


やっぱり。


麻雀ってすごい。


言葉がなくても。


牌を切って。


鳴いて。


押して。


それだけで、お互いが何を考えているのかが分かる。


麻雀を打てば。


声が出せなくても会話しているみたいだ。


「……テンパイ」

「……テンパイ」


「流局だね」


牌を倒しながら、海里は小さく息を吐いた。


そして。


少しだけ視線を落とす。


「……ごめんね」


中野が顔を上げる。


海里は苦笑しながら続けた。


「あたしがすぐ負けちゃって」

「ははは……」


乾いた笑い。


「あたしって、こんな猪突猛進な打ち方だからさ」


中野は何か言いたそうに口を動かそうとしているけど、言葉が喉に詰まっているみたいだった。


海里はそんな中野を見ながら、続けてこう言った。


「でも」

「あたしはこの打ち方、やめないよ」


真っ直ぐな声だった。


「この打ち方を変えて勝っても」

「あたしは私の麻雀を好きになれないから」


二人の卓の空気だけが静かになる。


海里は少しだけ不安そうに笑った。


「……この打ち方で」


「来年、もう一回」

「あの舞台で、中野っちに挑戦してもいい?」


中野はしばらく黙っていた。


それから中野は少し照れくさそうに笑った。


「大会、無理やり誘ってくれてありがとう」


「……え?」


海里が目を丸くする。


中野は牌を触りながら続けた。


「ここで打ってるのとは全然違った」


「すごい緊張感があって」

「独特の空気感の中で打つ麻雀は最高だった」


「……とても楽しかった」


その言葉は、海里の予想外だった。


中野は大会とか興味ない人だと思っていたから。


「僕も決勝ではビリだったけどね」


中野は苦笑する。


「決勝は全然歯が立たなかった」

「でも男では一番上手いってことでいいかな?」


中野が冗談混じりに言うなんて珍しい。


「はは、なにそれ」


海里も少しだけ笑った。


すると。


中野はゆっくり海里を見る。


真っ直ぐな目だった。


「でも、」

「僕も、来年はあの舞台で優勝したいと思った」


海里の呼吸が少し止まる。


そして。


中野は静かに続けた。


「もちろん」


「星川さんを決勝で倒してね」


その瞬間。


海里は少しだけ胸が熱くなるのを感じた。


負けた悔しさ。


情けなさ。


折れかけていた気持ち。


全部が、少しだけ軽くなる。


ああ。


そっか。


負けたの、あたしだけじゃなかったんだ。


海里は小さく笑う。


そして。


「……望むところです」


今度はちゃんと、前を向いて言えた。





翌年。


中学二年生、中学麻雀 県大会。


会場の空気は去年と何一つ変わらない。


気持ちいい緊張感が会場を包む。


一年成長した海里は、

気持ちの余裕から去年とは全然違った。


「よろしくお願いします」


卓につく。


牌を並べる。


あたしは去年よりもちゃんと強くなった。


今度こそ。



一回戦。


一位通過。


二回戦。


二位通過。


準々決勝。


ここも危なげなく通過する。


「星川さん今年はかなり仕上がってない?」


「今年こそあるかもね?」


周囲の声が聞こえる。


でも海里は反応しない。


視線は次の卓だけを見ていた。


そして。


準決勝。


席へ座った瞬間。


海里の目が大きくなる。


向かい側。


綺麗な黒髪。


白い肌。


感情の薄い顔。


去年、自分に引導を渡したお人形みたいな子。


「……」


相手はあたしの事なんて覚えてなさそうだった。


静かに会釈だけ返してくる。


海里は小さく息を吐く。


もう、誰一人舐めない。


去年より、精神面でも大人になったあたし。


今の自分がこの子にどこまで通用するのか。


成長した成果をぶつけたい!


タンッ!


始まりのブザーと共に牌が切られた。




そして。


「ロン。5,200点です。」


静かな声でお人形の子が牌を倒す。


対局終了。


点数が読み上げられる。


海里は静かに点数表を見つめた。


三着。


「……負けたぁぁぁ」


小さく息を吐く。


あと一歩だった。


決勝戦。


今年こそ。


中野っちと、あの舞台で戦いたかった。


でも。


去年とは全然違う気持ち。


去年みたいに、一方的にやられたわけじゃない。


ちゃんと戦えた。


粘れた。


最後まで、自分の麻雀を貫き通せた。


それだけは、とても誇らしかった。


「ありがとうございました!」


海里は席を立ち、軽く頭を下げる。


向かいのお人形みたいな子も、静かに会釈を返した。



廊下を歩く。


去年みたいに涙は出なかった。


悔しい。


もちろん悔しい。


でも。


去年よりも遥かに上まで登ってこれた。


来年はきっと......


「……今年は」

「ちゃんと決勝戦を見れそう」


海里は清々しい気持ちで呟いた。


中野っちとは、今年も戦えなかったけど。


来年はきっと。



大会が終わり。


海里は家へ帰った。


玄関を開けると、すぐにお母さんが出迎えてくれた。


「おかえり!」


「……ただいま」


「惜しかったねぇ」


その言葉に、海里は苦笑する。


リビングではお父さんもとても喜んでくれた。


「去年より随分強くなってたな」


「うん、頑張った頑張った」


悔しさは残っている。


でも。


ちゃんと褒めてもらえるのは、少し嬉しかった。


「ありがと!」


海里は小さくそう返す。


自分の部屋。


ベッドへ座り込み、ぼんやり天井を見る。


今日の対局を頭の中で振り返る。


あそこは押すべきだったか。


あの牌は止められたか。


そんなことばかり考えてしまう。


そして。


ふと、中野っちのことを思い出す。


「……中野っち、今年もまた四位か」


海里は小さく笑う。


二年連続で決勝卓まで行っている。


「やっぱ中野っち、すげー!」


素直にそう思った。


海里はその後スマホを手に取り、

今日の大会の記事を見る。


そこには大きく見出しが載っていた。



――『二大会連続優勝!』


――『愛万根 凛子!!』


海里はその名前と顔を見つめる。


そして。


小さく呟いた。


「化け物め」


そう言い放って。


海里はゆっくり目を閉じた。





次の日から、

海里はもういつもの雀荘へ通うようになった。


あの大会からもっと麻雀が好きになった。


三浦さんにからかわれて。


店員の人たちと話して。


そして。


たまに中野っちと打つ。


そんな日常。


海里にとってここは大切な場所になっていた。


「ロン」


「うわ、またそれ待ってたの!?」


「読めたから」


「ムカつくー!」


いつものやり取り。


でも、その日。


珍しく、中野の方から話題を振ってきた。


「……そういえば」


海里が牌を引きながら顔を上げる。


「ん?」


「この前、面白い子がここに来たよ」


「面白い子?」


中野は静かに視線を向ける。


「三浦さんに乗せられて、一局打ったんだけど」


「なかなかセンスがあった」


海里の手が止まる。


中野っちが。


他人をそんな風に褒めるのは珍しかった。


「へえ」


海里は平静を装って返す。


「僕たちと同い年くらいだったかな」


「でも、大会では見たことない顔だった」


その言葉を聞いた瞬間。


海里の胸が、ドクンと跳ねた。


まるで。


心臓を矢で撃たれたみたいな衝撃。


「……へぇ」


小さく返事をする。


でも。


心はざわついていた。


なんでだろう。


その“知らない誰か”が。


妙に気になった。


麻雀が好きなら。


絶対、またここへ来る。


海里はそう確信した。


麻雀が好きな子なら、

絶対中野っちとまた打ちたいと思うはずだ。


私みたいに。


だから。


ここへ通っていれば。


いずれ、その子に会える。



ある日、日が沈んだ頃。


いつものように海里は『緑一色』の扉を開ける。


カラン。


ベルの音。


見慣れた店内。


「こんばんはーっと」


適当に挨拶しながら中を見る。


今日は中野っちもいないし......


中野っちが言ってた子も、いないかー。


海里は少しだけ残念そうに肩を落とした。



カラン。


雀荘のドアが開く音。


挿絵(By みてみん)


その瞬間。


海里は入口を見て、一瞬で理解する。


――あ、この子だ。


入口に立っていたのは、一人の女の子。


ポニーテールに縛った髪。


どこか今風の服装。


明らかにこの場で浮いている。


ずっと、不安そうに店内を見回している。


明らかに、雀荘は慣れていない。


海里はなぜか確信した。


中野っちが言ってた子って



《この子だ......》



後半まで既に展開は構想立てております。

かなりの長編ものになりますが、頻繁に更新をしていきます。末永くよろしくお願いします。

⚠︎良ければブックマーク、評価の方よろしくお願いします。

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