第四話「友達!」
「ちはやふる」「ヒカルの碁」といった青春文化系部活モノが好きな方には絶対に刺さる作品になります。
テーマは麻雀ですが、麻雀が分からない方にも読みやすい内容となっています。(異能力はないです)
1話あたりのボリュームが多いですが、お手柔らかに、読んで頂けると大変恐縮です。
⚠︎良ければブックマーク、評価の方よろしくお願いします。
「いらっしゃ――」
カウンターの奥にいた三浦さんが、顔を上げる。
そして次の瞬間。
「あっ!」
ぱっと表情を明るくした。
「久しぶり!緑ちゃん!」
その声に、緑は少しだけ肩をすくめる。
「三浦さん……」
「もう来ないかと思ったー!」
三浦さんは本当に驚いたように笑っていた。
その反応に、緑は少しだけ申し訳なくなる。
あの日、“また来ます”なんて言っておきながら、
結局数ヶ月も空いてしまった。
「……しばらく来れなくてごめんなさい」
「全然いいっていいって」
三浦さんは軽く手を振る。
「受験生でしょ?」
「まぁ……はい」
「大変だよねぇ中学三年生。私の頃は......」
緑は苦笑いをしながら相槌を打つ。
九頭龍は後ろで静かに店内を見渡していた。
「何してたの?やっぱり塾?」
「ほぼ毎日塾です……」
「うわ、青春終わってるじゃん」
「ひどくないですか!?」
「でもちゃんと勉強してるのは、偉い偉い!」
三浦さんは笑いながら、
冷たいお茶をカウンターへ置いた。
雀荘独特の空気。
牌の音。
少し懐かしい感じがした。
すると。
「あんたが緑って子ね!」
突然、横から声が飛んできた。
「え?」
緑が振り向く。
そこに立っていたのは、
目で追いかけていたその子だった。
長い髪。
明るい綺麗な髪の毛。
夜でも目立つくらいの綺麗な顔立ち。
その女の子は、まっすぐ緑を指差していた。
「初めまして」
勢いよくそう言って、続け様に緑にこう言った。
「あたしは星川 海里!
あんたいったい何歳?」
思ったより......礼儀がない。
さっきまで大人っぽいと感じていた私を今では殴ってやりたい気分だ。
そして思っていたよりずっと明るい。
というか距離が近い。
「え、あ……15歳です」
「ふーん」
海里はじっと緑の顔を見る。
その目が少しだけ細くなった。
ーー同い年なんだ
海里は心の中でそう呟く。続けて
――この子が中野っちが言ってた子か。
ーーもっと年上かと思ってた。
ーー見た目は派手なのに、話し方とか反応は意外と普通なのね。
海里はこう考えていたが、さすがに口には出さなかった。
そして、少し口角を上げてこう言った。
「いいわ。あたしと一局打ちなさい!」
「え?」
緑が目を丸くする。
「いやなんで!?」
「麻雀が打ちたいからここに来たんでしょ?」
目の前にいるあなたを追いかけて......なんて言えるはずもなく、
「打ちたいけど......でも」
海里はピクっと眉を動かす。
緑は時計をちらりと見る。
さすがにこれ以上遅くなると怒られる。
「でも早く家に帰らないといけないから……」
緑は言葉を探す。
「ギャルっぽいのに随分と良い娘ちゃんなのね」
海里はイライラを見せながら続けてこう言った。
「いいわ。じゃあ東風戦!」
「とんぷうせん?」
聞き慣れない単語に、緑は首を傾げる。
すると三浦さんが横から説明してくれた。
「半荘より短いやつだよ。
東場だけで終わるから、
そんなに時間かからないと思う!......どうかな?」
「へぇ……」
海里は身を乗り出す。
「じゃあ決まりね!」
緑は想像と違い過ぎる海里に圧倒された。
でも。
数ヶ月ぶりの雀荘。
懐かしい牌の音。
そして目の前にいる美人で騒がしい女の子。
ほんの少しだけなら打っても良いか......
そう思ってしまった。
「……一回だけですよ?」
「じゃ、座って」
海里は迷いなく卓へ向かう。
海里の動きは妙に慣れ過ぎている。
「あ、すみませーん!」
近くの卓を見回しながら、大きめの声を出す。
「誰か東風戦入りません?」
すると、近くでタバコを吸っていた四十代くらいの男性が手を挙げた。
「じゃあ良いかな?」
「ぜひ、お願いします」
海里はすぐに卓へ案内する。
そのまま周囲を見回し、
少し考えるように首を傾げた。
「んー……」
そして。
「じゃあ、めぐみさん入って」
「え、私?」
三浦さんが目を丸くする。
「この子、気になってんじゃなかったの?」
「しょうがないなー」
三浦さんはエプロンを外しながら、
でも少し嬉しそうにしている。
その間にも海里は慣れた手つきで卓を準備していく。
点棒を並べる。
椅子を引く。
牌を流す。
その動きが自然すぎて、緑は少し驚いた。
「……」
自分と同い年くらいに見えるのに。
まるで何年もここにいるみたいだった。
「よし、オッケー!」
海里が席へ座る。
緑も少し緊張しながら椅子を引いた。
「あの……」
「ん?」
「よく来るんですか?」
緑がそう聞くと、
海里は牌を混ぜながらこちらを見る。
「それなりにね」
返事は意外とあっさりしていた。
さっきまでのテンションとは違う。
なんか冷たい。
緑は思わず
「あ、そうなんだ」
と緊張しながら返した。
海里はそれ以上答えず、静かに牌へ視線を落とした。
「じゃ、始めよっか」
海里が卓の中央へ手を伸ばす。
カチッ。
ボタンが押される。
次の瞬間、自動卓の中で牌が混ざる音が響いた。
ゴロゴロとサイコロが回る。
緑はその音を聞きながら、
少しだけ胸が高鳴るのを感じていた。
数ヶ月前。
初めてここへ来た時は、何も分からなかった。
でも今は、少しだけ分かる。
リーチ。
テンパイ。
ツモ。
ほんの少しだけ。
麻雀の世界の言葉を知っている。
「東一局ねー」
三浦さんが牌を配りながら言う。
◇
東一局。
緑もぎこちなく牌を並べる。
その向かい側では、
海里が慣れた手つきで牌を整えていた。
綺麗な指。
無駄のない動き。
緑はつい見てしまう。
(こんな綺麗な人でも麻雀するんだ......)
自分とそんなに歳が離れていないのに。
なんだか不思議だった。
「……何?」
海里が突然こちらを見る。
「あっ、いや!」
「顔見すぎじゃない?」
「見てないです!」
「見てたじゃん」
緑は少し慌てて視線を逸らす。
その直後。
タンッ。
「リーチ」
一瞬だった。
緑は目を丸くする。
「はやっ!?」
まだ局が始まってそこまで経っていない。
なのに海里は、迷いなく千点棒を前へ出していた。
空気が変わる。
さっきまでの軽い雰囲気が、
一気に鋭くなった気がした。
「いつにも増して早いわね」
三浦さんが少し楽しそうに笑う。
海里は椅子にもたれながら、ふっと笑った。
「ま、こんなもんでしょ」
その姿が妙に堂々としていた。
「どうする」
後ろから九頭龍の声。
「七萬だ」
(これ……?)
「この局はアガりを目指すな。安全な牌を切れ」
緑は自分の牌を見る。
正直、まだよく分からない。
でも。
九頭龍の助言を聞きながら、慎重に牌を切っていく。
海里は静かにツモを繰り返す。
そして。
「ツモ」
その声と同時に、海里が牌を倒した。
「4,000オール!!」
緑は思わず目を見開く。
強い。
というより。
――《かっこいい。》
そう思った。
点棒を受け渡し、再度海里はサイコロを回す。
その後も、海里はアガり続けた。
「ロン」
「ツモ」
「はい、3900よ!」
軽い口調。
でも打ち筋は鋭い。
鳴いて速度を上げたかと思えば、次の局ではリーチ。
しかも押し引きがほとんど迷いなく見える。
(すごい...)
緑はただ圧倒されていた。
でも海里の顔は険しかった。
麻雀を打っているというより、
暴れているみたいにも見える。
その勢いは、卓全体を飲見込んでいた。
とはいえ。
緑も決して振り込んではいない。
九頭龍の助言を聞きながら、
なんとか危険な牌を避け続けていた。
だが。
「……」
気付けば一度もテンパイすら出来ていなかった。
「オーラスね」
海里の声。
緑は自分の点棒を見る。
かなり減っている。
海里は椅子にもたれながら、
つまらなさそうに頬杖をついた。
「んー……」
そのまま緑を見る。
「少しガッカリ」
「え?」
「中野っちが気にしてたから、
どんな打ち筋かと思ったけど」
海里はさらっとつぶやいた。
「大した事ないのね」
「うっ……」
緑は少し肩を縮める。
「いや、始めたばっかりですし……」
「それは聞いた」
海里は牌を指で転がしながら続けた。
「でももっと変な打ち方するのかと思ってた」
「変ってなんですか」
「なんか勘で全部当てるとか」
「超能力者じゃないですか」
緑は苦笑いをした。
それと同時に、
心の中では別のことが引っかかっていた。
(中野っち?)
(前いた男の子のこと?)
(どういう関係......?)
(知り合いって言ってたっけ......)
ぐるぐると考えているうちに、
卓の中央で牌を混ぜる音が鳴り終わった。
◇
東四局。
牌を引く。
捨てる。
また牌を引く。
オーラスは静かに進んでいく。
緑も九頭龍の助言を聞きながら、
慎重に牌を切っていた。
まだ何が強い形なのかは分からない。
でも。
“危ない牌は避ける”
くらいは少しずつ分かってきていた。
すると。
タンッ。
「リーチ」
三浦さんが静かに千点棒を置く。
「おっ」
男性が少し姿勢を正した。
空気が変わる。
緑も思わず背筋を伸ばす。
「来たねぇ、めぐみさん」
海里は笑いながら牌を引く。
だが。
その手は止まらない。
リーチが入っているのに、
海里はどんどん攻めていく。
そこに迷いはなさそうだった。
緑と男性が慎重に牌を選ぶ中、
海里だけが真っ直ぐ前へ進んでいた。
九頭龍が小さく呟く。
「無茶だな」
「でも海里さん、全然怖がってない……」
「怖がっていないのではない。
そういうスタイルなのだろう」
その直後。
パシッ。
「ロン」
三浦さんが静かに牌を倒した。
海里の動きが止まる。
「あっ」
三浦さんがふふっと笑った。
「12,000になります!」
「うわっっっっ」
海里が大きく後ろへ倒れ込む。
「めぐみさんそれ重っ!」
「海里ちゃんが押してくるからでしょー?」
三浦さんは楽しそうだった。
点棒が動く。
海里は本気で悔しそうに唸っている。
「いや今のはいけると思ったじゃん!」
「思っただけだねぇ」
「うぅ……」
そのやり取りに、緑は少し笑ってしまう。
麻雀ってもっと静かなゲームかと思っていた。
でも実際は。
悔しがったり。
喜んだり。
空気がずっと動いている。
「終了ー」
卓が止まる。
東風戦は終わった。
結果は。
一位、星川海里。
二位、三浦恵。
三位、男性。
そして。
「またビリだ……」
緑は点棒を見ながら肩を落とした。
でも。
緑は不思議と落ち込んでいなかった。
今回は、一度もアガれなかった。
それなのに。
「……楽しかった」
自然とそんな言葉が漏れる。
海里のリーチ。
三浦さんの読み。
押したり、降りたり。
卓の空気がどんどん変わっていく感じ。
見ているだけでも面白かった。
そして何より。
――《今度は勝ってみたい。》
そんな気持ちが、少しだけ生まれていた。
前はただ言われた通りに打っていただけだった。
でも今は。
自分でも牌を見て。
考えて。
もっと分かるようになりたいと思っている。
「お」
海里がニヤッと笑う。
「今ちょっと麻雀ハマった顔した」
「してないです」
「したした」
「してません!」
緑が言い返した瞬間。
ふと時計の針が目に入る。
「……え」
固まる。
数秒後。
「やばっ!!」
緑は慌てて立ち上がった。
「え、何時これ!?」
「海里ちゃん連チャンしてたからねぇ」
三浦さんが苦笑する。
「うそでしょ……」
思っていたよりかなり時間が経っていた。
母親の顔が頭に浮かぶ。
確実に怒られる。
「帰ります!!」
緑は慌てて鞄へ手を伸ばした。
点棒を戻し、荷物をまとめる。
その動きがあまりにも慌ただしくて、
海里が吹き出した。
「焦りすぎじゃん」
「笑い事じゃないですって!」
緑は慌てながら鞄を閉める。
すると海里が頬杖をついたまま聞いてきた。
「家帰ってなにすんの?」
「え?」
「このあと」
「勉強です」
緑は即答した。
「受験生なので……」
すると海里が「ふーん」と呟く。
「私も受験生だけど、
勉強なんてそこまでしてないよ?」
「え?」
緑の動きが止まる。
「……受験生なの?」
「そうだけど?」
「てか同い年なの!?」
「え、今さら?」
海里はケラケラ笑った。
「いやもっと年上かと思ってました……」
「よく言われる」
海里は慣れたように肩をすくめる。
緑は思わず海里を見つめた。
派手な髪。
ギャルっぽい見た目。
雀荘に普通に通ってる。
どう見ても“勉強してる人”には見えない。
「でも私ほんとテストやばくて……」
緑がため息混じりに言う。
「この前めっちゃ怒られましたし」
「何点だったの?」
「数学が62……」
「まぁ普通じゃん?」
「普通じゃないです!」
「中三ならまぁまぁじゃない?」
「塾でその点数は終わりなんです!」
海里はまた笑う。
緑は少しむっとしながら聞いた。
「……星川さんって頭いいんですか?」
「ん?」
海里は少し考えるようにしてから、
「まぁそこそこ?」
と軽く言った。
そのまま鞄を漁り、一枚の紙を取り出す。
「ほい」
緑が受け取る。
そこには模試の結果。
偏差値。
『65』
「……え?」
緑の目が固まる。
「えーーっ!?!?」
思わず声が裏返った。
「うそ!?」
「なにその反応」
「いやだって!!」
緑は海里を指差す。
「こんな不真面目そうなのに!?」
「失礼すぎない?」
「しかも雀荘めっちゃ来てるのに!?」
「雀荘関係ないでしょ」
海里は笑いながら牌を指で遊ぶ。
緑は本気で衝撃を受けていた。
なんで。
なんでこの人こんなに自由そうなのに頭いいの。
世の中不公平すぎる。
「……」
少し迷って。
緑は恐る恐る口を開いた。
「えっと......その……」
「んー?」
「もし良かったら……勉強、教えてもらえませんか?」
海里が一瞬だけ目を丸くする。
そのあと、少しだけ笑った。
ーーまだ全然麻雀では私の弊害にならない。
海里はそう感じていた。
麻雀を始める前は緑に気を張っていたが、
終わった今はただ平凡な女の子として見える。
「しょうがないわね~、いいわよ♡」
とあっさり答える。
「それと」
ニヤッと笑う。
「麻雀も教えてあげる」
緑は少しだけ笑って、
「……はい」
と頷いた。
◇
家に帰った頃には、もう夜遅くなっていた。
当然、お母さんには怒られた。
「最近帰るの遅いと思ったら!」
「ごめんなさい……」
「受験生なんだからちゃんと――」
その後もしばらく説教は続いたけれど。
不思議と今日は、すっきりとした気持ちだった。
シャワーを浴びて。
髪を乾かして。
勉強道具を机に置いたまま、緑はベッドへ倒れ込む。
「はぁー……」
疲れた。
暗い部屋。
天井を見上げる。
クズさんはいつものように部屋の隅に漂っていた。
最初は、本当に最悪だった。
変なのに取り憑かれて。
幽霊に追いかけ回されて。
麻雀なんて知らないゲームをやらされて。
災難だと思っていた。
でも。
気づけばクズさんのおかげで、
“麻雀”という知らない世界に出会った。
牌の音。
卓を囲む空気。
勝った時の顔。
負けた時の顔。
ただゲームをしているだけなのに、
人がむき出しになる。
そんな世界を知った。
そして。
麻雀を通じて、いろんな人とも関われた。
そして――。
「星川 海里……」
緑は小さく呟く。
麻雀をきっかけに、
またひとつ、大切なものが出来た。
それは。
――可愛いお友達!!
そう思った瞬間。
「誰が可愛い友達だ」
クズさんが冷静にツッコむ。
「え、海里ちゃんだけど」
「そういうことではない」
「クズさん......もしかして嫉妬?」
「違う」
緑は布団の中でくすっと笑った。
窓の外では、夏の虫が鳴いている。
知らない世界が、また少しずつ広がっている。
後半まで既に展開は構想立てております。
かなりの長編ものになりますが、末永くよろしくお願いします。
⚠︎良ければブックマーク、評価の方よろしくお願いします。




