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牌アガる!  作者: ぺー村様
中学生編
3/14

第三話「友達?」

「ちはやふる」「ヒカルの碁」といった青春文化系部活モノが好きな方には絶対に刺さる作品になります。

テーマは麻雀ですが、麻雀が分からない方にも読みやすい内容となっています。(異能力はないです)

1話あたりのボリュームが多いですが、お手柔らかに、読んで頂けると大変恐縮です。

⚠︎良ければブックマーク、評価の方よろしくお願いします。

挿絵(By みてみん)




南四局。


「リーチ」


男性が静かに点棒を置く。


卓の空気がまた変わる。


「……来た」


「警戒しろ」


九頭龍の声が低くなる。


緑は手牌を見る。


正直、まだ全然分からない。


でも。


さっき初めてアガれたことで、

少しだけ自信があった。


「西を切れ」


九頭龍が言う。


だが。


緑は別の牌を見た。


(こっちの方が揃いそうじゃない?)


ほんの小さな違和感。


初めて、自分で考えた。


「……こっちがいいや」


タン!


牌を置く。


その瞬間。


男性の目が開いた。


「ロン、8,000だ」


静かな声。


「えっ?」


緑の動きが止まる。


店員さんが少し苦笑する。


九頭龍は黙っていた。


倒された手牌。


緑にはまだ、何が起こったのか分かっていない。


ただ。


初めて。


“自分の選択で負けた”のだと、なんとなく理解した。


「はい、これで終了ー」


店員さんが卓を軽く叩きながらゲームを締める。


牌が崩される音。


点棒が片付けられていく。


緑は椅子にもたれながら、大きく息を吐いた。


「……つかれたぁー……」


正直、頭はほとんどパンクしていた。


何を揃えたのか。

何を切ったのか。


リーチ。

テンパイ。

ロン。

ツモ。


知らない言葉ばかり。


でも。


「……楽しかったかも」


ぽつりと漏れる。


その言葉に、店員さんが笑った。


「お、いいじゃん」


「なんかもう全然分かんなかったけど!」


「最初はみんなそんなもんだよー」


男性も頷く。


「初めてにしては全然打ててたよ」


「ほんとですか?」


「うんうん。普通はもっと固くなるし」


緑は少し嬉しくなった。


結果はビリだった。


トップが店員さん。


二着が男の子。


三着が男性。


そして四着が自分。


でも不思議と悔しくはなかった。


それ以上に、


“最後まで打ち切った”


という達成感の方が大きかった。


「あの2,000点アガったの良かったねぇ」


店員さんが拍手をする。


「あれ嬉しかったです!」


「初アガりって特別だからねー」


思わず笑みがこぼれた。


九頭龍は後ろで静かに腕を組んでいる。


「……なぜあの牌を捨てた」


低い声。


(なんてー?)


「南四局だ」


(えー……女の勘的なー?)


緑は椅子の背にもたれたまま天井を見る。


(なんかこっちの方が良さそうだったしー)


「感覚で打つな」


(だって分かんないし!)


「だから我が言っただろう!」


九頭龍は少し不満そうだった。


だが今の緑には、あまり響いていない。


それくらい満たされていた。


楽しかった。


それが一番大きかった。


「上路ちゃん、また来てね!」


店員さんが笑いながら牌を片付ける。


「また全然教えるから」


緑は少し迷ったあと、小さく笑った。


「……はい」


その言葉は、自分でも少し意外だった。


数日前まで麻雀なんて興味もなかったのに。


でも今は、もう少し知りたいと思っている。


「ほんと?じゃあいつでもおいで!」


店員さんは嬉しそうに笑う。


「平日なら夕方からいるし」


「あ、そうなんですね」


「改めまして、ここで店員をしている三浦(みうら) (めぐみ)です。

みんなからはめぐちゃんって呼ばれてるよ!☆」


「あ、上路 緑です」


「知ってる!点数表に書いてたし」


「あっ」


緑は少し恥ずかしくなる。


「じゃあ緑ちゃんだね」


「え、もうそこまで距離近い感じなんですか」


「緑ちゃん、可愛いからつい!」


三浦さんはくすっと笑った。


その空気が、緑には少し心地よかった。


学校とも、塾とも違う。


知らない場所なのに、変に居心地が悪くない。


視線を時計にずらす。


「あ、やば!!」

「塾!!」


完全に忘れていた。


緑は慌てて立ち上がる。


「ありがとうございました!」


「はーい、またねー」


男性も軽く手を振る。


男の子だけは席に座ったまま、小さく会釈した。


「……また来ます」


その言葉を残して、緑は雀荘を後にした。


扉のベルが鳴る。


夕方の空気が流れ込む。


「急げ」


後ろから九頭龍の声。


「分かってるって!」


緑は駅へ向かって走っていく。


その表情は、雀荘に入る前よりも明るかった。



扉が閉まる。


静かになった卓で、

三浦さんが牌を片付けながら言った。


「元気な子だったねぇ」


「……」


男の子は、閉まった扉を見ていた。


「中野くん?」


「……あの子」


「ん?」


「また来ますかね?」


「来るんじゃない?」


三浦さんは笑顔でそう答えた。


男の子は少しだけ黙ったあと、


「来たら、連絡ください」


と言った。


挿絵(By みてみん)


三浦さんが目を丸くする。


「珍しいね。中野くんがそんなこと言うの」


「.....そう...かな?」


男の子はそれだけ返し、静かに牌へ視線を落とした。


だがその目は、真剣そのものだった。





それから数ヶ月が経った。


季節は夏休み。


蝉の声が、朝からずっと鳴いている。


中学三年生にとって、

一番“受験”を意識する時期だった。


「あっつ……」


緑は机に突っ伏しながら、シャーペンを転がした。


夏休み。


なのに全然休みじゃない。


朝から塾。


帰って宿題。


また塾。


友達と遊ぶ時間すら減っていた。


「集中しろ」


後ろから九頭龍の声。


「無理……暑い……」


「だらしない」


「幽霊は汗かかないからいいよね……」


九頭龍は呆れたようにため息をついた。


あの日から。


九頭龍が見えることにも、緑はだいぶ慣れていた。


最初は視界に男がいるだけで落ち着かなかったのに、今では普通に会話をしている。


ただ。


雀荘には、あれ以来一度も行っていなかった。


別に行きたくないわけじゃない。


むしろ、たまに思い出す。


牌の音。


点棒の感触。


自動卓の開く音。


初めてアガった時の、あの感覚。


でも。


「緑ー!」


一階から母親の声。


「この前のテスト返ってきたんだけど!?」


「……あ」


緑の動きが止まる。


数秒後。


「ちょっと下りてきなさい!」


「はーい……」


緑は重い足取りで立ち上がった。


九頭龍が静かに言う。


「赤点か?」


「違うし!」


「では何だ」


「……平均ちょい下」


「落ちたな」


「うるさい!」


実際、その通りだった。


春頃まではそこそこ取れていた点数が、

最近少しずつ落ちてきている。


原因は分かっていた。


集中できないのだ。


勉強中でも、ふと麻雀のことを考えてしまう。


“テンパイ”

“リーチ”

“ダマテン”


知らない言葉ばかりだったのに。


気づけば、頭のどこかに残っている。


「受験生なんだからしっかりしなさい」


母親にもかなり怒られた。


だから緑も、雀荘へ行くとは言い出せなかった。


行ったら絶対ハマる。


なんとなく、それが分かっていたから。


「行ってきまーす」


「ちゃんと勉強してきなさいよー!」


母親の声を背中で聞きながら、緑は家を出た。





夜の空気は昼より少しだけ涼しい。


とはいえ夏だ。


歩けばじんわり汗は滲む。


塾帰り。


時計はもう九時を回っていた。


「てかさー、絶対今回の数学ムズくなかった?」


隣を歩く友達が不満そうに言う。


「そうだねー」


緑は適当に返す。


「いや絶対ムズいって!

先生も今回平均下がるって言ってたし!」


「へぇー」


「……聞いてる?」


「聞いてる聞いてる」


半分くらい。


緑はふと前に視線を上げると、

前を歩く明るい髪の女の子が視界に入った。


長い髪。


細いシルエット。


夜道でも分かるくらい整った横顔。


年齢は高校生くらいだろうか。


私服もどこか大人っぽい。


「……綺麗な人」


思わず小さく呟く。


「え?」


「いや、なんでもない」


緑は誤魔化しながら、ついまた目で追ってしまう。


なんとなく目を引く人だった。


歩き方。


雰囲気。


ただ可愛いだけじゃない。


どこか近寄りがたい空気がある。


すると。


その女性が、細い横道を曲がっていった。


街灯も少ない、薄暗い道。


「あれ……」


緑の足が少し止まる。


見覚えがあった。


そっちの道は、


どこかで――。


「緑?」


友達が不思議そうに振り返る。


「どうしたの?」


「あー……ごめん、ちょっと寄り道思い出した」


「今!?」


「すぐ終わるやつ!」


「なにそれ怪しー」


友達は笑う。


緑も適当に笑い返しながら、

その細道へ視線を向けた。


女の人の姿はもう奥へ消えかけている。


「また明日ね!」


「え、うん。またねー」


手を振る。


そして友達と別れると、

緑は少し足早にその道へ入っていった。


挿絵(By みてみん)


後ろから九頭龍が静かについてくる。


「……つけるのか」


(いや、なんか気になるじゃん)


「好奇心は身を滅ぼすぞ」


(クズさんってたまに古い言い回しするよね)


「そうなのか?」


(もういい)


軽口を返しながら、緑は暗い道を進む。


すると。


少し先に見えた看板で、緑は足を止めた。


すると。


少し先に、ぼんやりと見覚えのある看板が見えた。


古い雑居ビル。


一階。


「あれ……」


緑は眉をひそめる。


どこかで見たような――。


その瞬間。


中から、ジャラジャラという乾いた音が聞こえた。


牌のぶつかる音。


緑の脳裏に、数ヶ月前の記憶がよみがえる。


「……あっ」


思わず呟く。


《まあじゃん 緑一色》


今、女の人がここに入っていったような――。


緑は雑居ビルを見上げる。


「……まさかね」


緑は小さく呟く。


でも、もし本当にあの綺麗な人がここへ入っていったのだとしたら。


余計に気になった。


「帰らなくていいのか?」


後ろで九頭龍が言う。


「受験生なのだろう?」


「……う」


痛いところを突かれる。


今日だって、本当なら真っ直ぐ家へ帰る予定だった。


母親にはこの前かなり怒られたばかりだ。


“麻雀なんてやってる暇あるなら勉強しなさい”


その通りだと思う。


実際、最近は点数も落ちている。


だから今日は、塾へ行って、寄り道せずに帰る。


……はずだった。


「……ちょっと見るだけ」


「その言葉を信用したことはない」


「クズさん失礼なんだけど」


緑は唇を尖らせる。


でも。


視線はもう、店の中へ向いていた。


気になる。


なんでこんなに気になるのか、自分でも分からない。


牌の音を聞いただけで、少し胸の奥がざわつく。


「……」


数秒迷って。


そして結局。


「……ちょっとだけだからね」


欲望に負けるように、緑は扉へ手をかけた。


カラン――。


小さなベルの音が鳴る。


後半まで既に展開は構想立てております。

かなりの長編ものになりますが、末永くよろしくお願いします。

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