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牌アガる!  作者: ぺー村様
中学生編
2/14

第二話「知らない世界」

「ちはやふる」「ヒカルの碁」といった青春文化系部活モノが好きな方には絶対に刺さる作品になります。

テーマは麻雀ですが、麻雀が分からない方にも読みやすい内容となっています。(異能力はないです)

1話あたりのボリュームが多いですが、お手柔らかに、読んで頂けると大変恐縮です。

⚠︎良ければブックマーク、評価の方よろしくお願いします。

挿絵(By みてみん)


次の日。


六時間目の終了のチャイムが鳴る。


「緑ー! 今日カラオケ行こー!」


「駅前の新しいクレープ屋も行きたくない!?」


周りに友達が集まる。


いつもなら普通に行っていた。


放課後、寄り道して、写真撮って、だらだら喋って。


それがいつもの日常。


だけど今日は、少しだけ違う。


「ごめん、今日ちょっと用事ある」


「えー珍し!」


「塾?」


「いや、まぁ……そんな感じ」


嘘ではない。


緑は曖昧に笑ってごまかした。


「最近なんか忙しそうじゃない?」


「そう?」


「彼氏?」


「いないって!」


笑いながら返す。


けれど。


教室の窓際。


教卓の上に浮かんでいる九頭龍がこちらを見ていた。


(なんか視線感じると思ったら......)


「じゃまた明日ねー!」


友達に手を振り、緑は鞄を肩にかけた。


廊下へ出る。


九頭龍が当然のようについてくる。


「用事、とは」


(……別に)


「雀荘へ行くのだろう?」


(声デカい!)


「誰にも聞こえておらん」


(そういう問題じゃないの!)


緑はため息をついた。


正直、まだ少し緊張している。


昨日は勢いで“行く”と言ったものの、

本当に行くとなると話は別だ。


雀荘。


知らない場所。


知らない大人。


しかも麻雀なんてルールも分からない。


(……行くだけだからね)


「好きにしろ」


「.......なんかムカつく」


緑はつぶやきながら早歩きで学校を後にした。





駅前から少し外れた雑居ビル。


一階。


《まーじゃん 緑一色》


「……名前で選んだのか」


後ろから九頭龍が言う。


「うるさいな」


緑は少しムッとする。


だって仕方ない。


麻雀のことなんて何も分からないのだ。


雀荘の良し悪しなんてもっと分からない。


だから最終的に、


“自分と同じ漢字が入ってる”


という理由で選んだ。


初心者なんてそんなものだ。


「でもなんか入りやすそうじゃん」


「安直だな」


「知らない世界なんだから、

こういうので選ぶしかないでしょ」


九頭龍は緑の後ろをついて行く。


入口の横には、


《学生歓迎》

《初心者OK》


と書かれた貼り紙。


緑はその文字を見て、小さく深呼吸する。


「……ほんとに入るの?」


「ここまで来て何を言っている」


「だって怖いじゃん」


「案ずるな。我がいる」


「それ全然安心できないんだけど」


緑はため息をついて、扉に手をかけた。


カラン、と小さなベルが鳴る。


「いらっしゃいませー」


思ったより明るい声だった。


店の中は、緑が想像していたよりずっと綺麗だった。


煙臭さもない。


自動卓がいくつか並び、

牌のぶつかる音が静かに響いている。


奥では大学生くらいの人たちが笑いながら打っていた。


「初めて?」


挿絵(By みてみん)


声をかけてきたのは、

二十代後半くらいの女性の店員さんだった。


優しそうな雰囲気。


緑は少し安心する。


「あ、はい……」


「見学?それとも打ってみる?」


「えっ」


緑は思わず九頭龍を見る。


九頭龍は当然のように頷いた。


(いやいやいやいや)


「初心者でも大丈夫だよー。教えるし」


店員さんは笑った。


その空気が思ったより柔らかくて、

緑の緊張が少しだけほぐれる。


「……じゃあ、ちょっとだけ」


「お、いいね」


店員さんは卓の方を振り返った。


「卓空いてる人ー?」


「ここ空いてるぞー」


奥から低い声が返ってくる。


五十代くらいの男性。


常連っぽい。


そしてその向かい。


一人の男の子が顔を上げた。


黒髪。


少し鋭い目。


制服姿。


同い年くらいかな?


「中野くん、初心者の子入ってもいい?」


男の子――中野(なかの) (りゅう)は、緑を見た。


静かな目だった。


「……別に」


愛想はない。


でも嫌そうでもないような?


「じゃ、決まり!」


店員さんが笑いながら椅子を引く。


緑はぎこちなく席に座った。


目の前には麻雀牌。


近くで見るのは初めてだった。


男の子は軽く会釈だけすると、

再び牌へ視線を戻した。


緑は少しだけ安心して息を吐く。


思ったより怖い人ではないのかもしれない。


「じゃ、始めよっか!」


店員さんが笑いながらボタンを押す。



東一局。


ガラン、ガラン――。


突然、自動卓の中央でサイコロが回った。


(うわっ!?)


緑は思わず身を引く。


「すご……」


思わず声が漏れた。


九頭龍は後ろで静かに腕を組んでいる。


「一番右の牌を取るんだ」


耳元から伝わる九頭龍の少し冷たい声。


(これ?)


「それだ」


緑は言われた通りに動く。


「そうそう、そんな感じ」


店員さんが笑う。


(え、これ全部クズさん頼りなんだけど......)


(で次は?)


緑は小声で聞く。


「一番右の牌を河にすてろ」


(かわ?)


「左奥だ」


(どこ……?)


緑は必死に九頭龍の指示に従った。


すると店員さんが少し驚いたように言う。


「あれ、ほんとに初心者?」


「えっ」


「卓慣れしてる感じがするけど」


九頭龍が後ろで小さく笑う。


(いや全部お前のせいだからね!?)


「まぁ、アプリでちょっと……」


咄嗟に嘘をつく。


「あーなるほどね」


店員さんは納得したように頷いた。


全員が牌を出し終えた。


「次の牌を取れ」


(はいはい……)


緑は小声で返しながら、

言われた通りに牌を並べていく。


だが当然、何が何だか分からない。


同じような文字。


棒みたいな絵。


丸いやつ。


(これ絶対初心者ってバレてるって……)


「大丈夫?」


店員さんが優しく声をかける。


「あ、はい! 一応アプリで……」


また嘘をついた。


「へぇ、最近の子はアプリから入るんだねー」


「まぁ……」


実際は、アプリなんて開いたことがない。


でも卓に少し緊張感が走っているのは、

初心者の緑でも感じられる。


牌を切る音。


タン。


タン。


まだ緑には、何をしているのか分からない。


だが。


みんな迷いなく牌を捨てていく。


(何切ればいい)


緑は小さく口を動かす。


「九萬だ」


(これ?)


「それだ」


言われた通りに切る。


タン。


するとすぐ、他の人が別の牌を引く。


(次は)


「二索、緑のやつだ」


完全に言われるがままだった。


それでも周囲は特に気にしていない。


少し緊張が和らいだ、その時。


「リーチ」


男性が、静かに棒を置いた。


店員さんが少し反応する。


男の子も牌を見る目が少し変わった。


だが緑だけは分かっていなかった。


(リーチってなに!?)


聞いたことはある。


もちろん麻雀ではなく、ビンゴで。


緑はとりあえず九頭龍の指示通りに牌を切っていく。


数巡後。


男性が牌を引く。


「ツモ。1,000、2,000」


静かな声。


「あー、やっぱり」


店員さんが笑った。


卓に牌が倒される。


だが緑には何が起きたのか分からない。


「え、終わり!?」


「そう、アガり!」


店員さんが優しく説明をする。


「リーチして、最後自分で引いたの」


「へぇー……」


緑は感心したように頷く。


すると男の子と店員さんが、細い棒を取り出した。


「点棒」


男性がこちらを向いて点棒をくるくると回している。


「おぉ……!」


緑の目が少し輝く。


実物を見るのは初めてだった。


「これがお金みたいなやつ?」


「そうそう。点数をやり取りするの」


店員さんが説明をしながら点棒を動かしていく。


カチャ、という乾いた音。


なんだか少し楽しい。


ゲームセンターみたいで、ちょっとワクワクする。


「上路ちゃんも点棒渡して!」


「え、私も?」


「ここからこうやってね」


言われるがまま、点棒を男性の前へ置く。


カチャッ。


小さな音。


それだけなのに、

不思議と“ゲームをしてる感”があった。


「なんか麻雀っぽい!」


「麻雀だからねぇ」


店員さんが笑う。


東一局。


緑にとって、人生初めての麻雀が始まった。


牌の並べ方。


順番。


点棒。


「ツモ」と「ロン」の違い。


そもそも何を揃えればいいのかも曖昧だ。


だから緑は九頭龍の言う通りに牌を切るしかなかった。



東二局。


「次は右から五番目だ」


(……丸が七個あるやつ?)


「そうだ」


緑は言われた牌を置く。


タン。


するとすぐ横で店員さんが感心したように言った。


「あれ、そこ切れるの初心者にしてはすごいねー」


「えっ」


緑は固まる。


(クズさんの指示なんだけど!?)


「まぁアプリでちょっと……」


また適当に誤魔化す。


すると向かいの男性が笑った。


「最近のアプリはすごいねぇ」


「は、はは……」


全然やったことないです、とは言えなかった。


局はそのまま流れた。


誰もアガらず終了。


「これ流局っていうの」


店員さんが教えてくれる。


「へぇー……」


知らない単語ばかりだった。


でも不思議と退屈じゃない。


むしろ、

少しずつ“ゲームの形”が見えてきている気がした。



東三局。


「リーチ」


今度は男の子だった。


静かな声。


だがその瞬間、空気が少し変わる。


緑でも嫌でも感じる。


さっきまで普通だった卓が、少しピリッとした。


(え、またリーチ?)


「染まっているな」


後ろから九頭龍が言う。


(そまる?)


「簡単に言うと高い打点ってことだ」


(へぇ……)


緑は男の子を見る。


相変わらず無表情。


同い年くらいなのに、妙に落ち着いている。


牌を置く音も静かだった。


数巡後。


「ツモ。2,000、4,000です」


店員さんが苦笑する。


「中野くん今日調子いいなぁ」


「別に」


男の子は短く返し、牌を倒した。


緑はその手牌を覗き込む。


もちろん何が強いのかは分からない。


でも。


なんとなく綺麗だった。


「……すご」


思わず呟く。


すると男の子が少しだけこちらを見た。


「運が良いだけだよ」


そう言って、また視線を牌へ戻す。



東四局。


タン。


タン。


牌を切っていく。


「おっ」


九頭龍が指を指す。


「これでテンパイだ」


(えっ......)


緑は自分の牌を見る。


当然、分からない。


(どれ?)


「四萬か七萬があればいい」


九頭龍がそっと言う。


(おぉ……!)


緑の目が少し輝く。


あと一枚。


初めて少しだけ、自分の牌をちゃんと眺める。


丸いやつ。


漢字のやつ。


棒みたいなやつ。


さっきまでは全部同じに見えていたのに、少しだけ違って見える。


(……あそこに捨ててあるのがまた出ればアガり?)


「そうだ」


(へぇ……)


その時だった。


男の子が静かに牌を置く。


タン。


すると次の瞬間。


「ロン。5,800」


男性の声。


「あらー」


店員さんが苦笑いする。


男の子は静かに牌を倒した。


「放銃か」


(ほうじゅう?)


「アガり牌を出しちゃったってこと」


(へぇー……)


緑は感心したように頷く。


まだよく分からない。


でも。


麻雀って、ただ牌を並べるゲームじゃないらしい。


少しずつ。


ほんの少しずつ。


緑は卓の空気を感じ始めていた。



南一局。


東場の頃より、緑は少しだけ卓に慣れていた。


牌を並べる。


引いて。


出す。


まだ意味は分からない。


でも、流れはなんとなく掴んできている。


「リーチ」


最初に声をあげたのは店員さんだった。


「お、(めぐ)ちゃん早いねぇ」


男性は余裕がある感じだ。


すると。


「リーチ」


続けて男の子。


緑は思わず男の子に視線を向ける。


(え、また?)


「二人テンパイだな」


後ろから九頭龍が言う。


卓の空気がまた少し変わる。


東場でも感じた、あのピリッとした感じ。


店員さんは笑っている。


男の子は無表情。


でも二人とも、

さっきまでより牌を見る目が鋭かった。


(どうすればいい)


緑は小さく聞く。


「危険牌は避けるんだ」


(きけんはい?)


「今は言われた通りに切れば大丈夫だ」


緑は頷く。


「左から五番目」


(これ?)


「そうだ」


タン。


店員が少し目を細める。


「お、そこ通すんだ」


意味は分からない。


でもどうやら、危険だったらしい。


数巡後。


「ロン。7,700でーす」


店員さんが牌を倒す。


「ごめんなさーい」


どうやら男の子が店員さんに振り込んだらしい。


緑は卓を見回す。


リーチをしても、負ける時があるらしい。


少しだけ、麻雀の怖さが見えた気がした。



南二局。


今度は静かな局だった。


誰もリーチをしない。


タン。


タン。


牌の音だけが続く。


だが九頭龍は静かに言った。


「二人ともテンパイだ」


(えっ.....)


緑は思わず店員さんと男の子を見る。


二人とも普通の顔をしている。


(分かんないじゃん)


「だからこそ意味がある」


ダマテン。


店員さんがさっき教えてくれた言葉を思い出す。


リーチをかけずに待っている状態。


(怖っ……)


誰が何を狙っているのか分からない。


挿絵(By みてみん)


緑は急に、自分がすごい場所にいる気がした。


だが結局


「テンパイ」

「テンパイ」


「流局だねー」


店員さんが息を吐く。


誰もアガらないまま局が終わった。


男の子は静かに牌を崩している。


(……あの人、ずっと顔変わんないね)


「感情を表に出さないタイプだ」


(なんか麻雀強そう)


「実際、筋は悪くない」


珍しく九頭龍が評価している。


緑は少し驚いた。



南三局。


「……またテンパイしてる」


緑は小声で呟いた。


その声に男の子が少し眉を動かした。


なんとなくだが、分かる......気がする。


今、ほんの少しだけど卓の空気が変わった気がした。


「ダマテンだ」


九頭龍が言う。


(やっぱり.....?)


「しかも男の子は貴様からアガる気だぞ?」


(えぇ……!?)


緑は思わず男の子を見る。


当然、男の子は無表情。


だが言われると、なんだか怖い。


(じゃ、どうすればいいの)


「一番左だ」


(本当に大丈夫なの?)


「今はそれでいい」


緑は九頭龍の指示通りに牌を出していく。


すると。


男の子の眉がまたほんの少し動いた。


緑はそれに気づかない。


だが九頭龍は見ていた。


数巡後。


緑が牌を引く。


「あ、これ!」


緑が声を漏らす。


その声に反応し、店員さんが緑の手牌を見た。


「上路ちゃん、アガってるよ!」


「やっぱり!」


緑は興奮しながら手を合わせる。


「ツモね!ほらこれ!」


店員さんが笑いながら牌を指差す。


「500、1000だね!」


「アガり……?」


「そうよ!」


店員さんが笑顔で教えてくれる。


数秒遅れて、実感が来る。


「え、私!? 勝った!?」


「おめでとー!」


店員さんが拍手する。


男性も笑っていた。


男の子は静かに緑の牌を見ていた。


「初心者で初アガり、おめでとう!」


「え、えへへ……」


緑は思わず笑ってしまう。


2,000点。


大きいのか小さいのかも分からない。


でも。


自分で初めてアガった。


その事実だけで、胸が少し熱くなっていた。




ーー《麻雀って、楽しいのかも!?》

後半まで既に展開は構想立てております。

かなりの長編ものになりますが、末永くよろしくお願いします。

⚠︎良ければブックマーク、評価の方よろしくお願いします。

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