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牌アガる!  作者: ぺー村様
中学校麻雀競技選手権 県大会編
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14/15

第十四話「中学校麻雀競技選手権 県大会③」

⚠︎良ければブックマーク、評価の方よろしくお願いします。ポイントが少なくて困ってます......


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良ければこちらもフォローの程よろしくお願いします。

▶@pe1murasama

挿絵(By みてみん)


ここまで TOTAL結果

一着 上路 緑 +18,300

二着 タトゥーの女の子 +9,800

三着 星川 海里 -8,400

四着 女の子 -18,000


後半戦の東場が終了した。


恐らく卓の全員が自分の順位を理解している。


誰が通過圏内で、

誰が追う立場なのか。


この卓にいる全員がその点数差を計算していた。


タトゥーの女の子は相変わらず元気だった。


隙があれば九頭龍を狙うつもりだろうが、

無理にはもう攻めてこなさそうだ。


女の子は今もおとなしいが、目が変わっている。


細かい点数じゃ届かない。


だから高い打点をタトゥーの女の子に直撃させようとしている、そんな目だ。


そして――

海里は明らかに動揺していた。


河を見る目。

牌を触る指。

呼吸。


前半戦の海里とは明らかに変わっていた。


海里がここまで崩れるなんて.....


それだけ九頭龍とタトゥーの女の子の麻雀が異常だったんだ。


私はその海里を見て改めて胸が苦しくなる。


本当なら。


本当なら今、

ここに座ってるのは私じゃない。


九頭龍でなく私が打っていたら、

この場には海里が勝てる人が座っていたかもしれないんだ。


(私が海里を苦しめているんだ......)


胸が苦しくなる中、無情にも南一局のサイコロが振られる。



南一局。


女の子が親。


そしてその親からのリーチがかかる。


真っ直ぐに、ただアガりを目指して勝負を仕掛けてきた。


九頭龍が河を見る。


タトゥーの女の子も静かに牌を整理する。


九頭龍とタトゥーの女の子はもう無理に攻めていかない。


ここで放銃するリスクは絶対犯さないというそんな打ち方だ。


これが勝ち切る麻雀。


「ポン」


海里が鳴く。


もう海里は攻めるしかない立場だ。


まだ海里は折れてない。


いや折れている場合じゃないんだ。


海里はこんな逆境で試合を投げ出す人じゃない。


「ロン、8,000点」


女の子が海里に放銃した。


海里が牌を倒す。


女の子が悔しそうに唇を噛む。


海里は息を吐く。


でもその表情にいつもの笑顔はもちろん無かった。



南二局。


九頭龍とタトゥーの女の子は依然として捨て牌が異様に慎重だ。


危険牌は絶対に出さない。


そんな守りの攻め。


これが一回負けたら敗退のトーナメントで勝ち切る麻雀。


一発の派手さじゃない。


負けないための麻雀。


海里と女の子は必死に攻める。


どちらもテンパイの雰囲気だ。


でも最後の牌が引けない。


九頭龍とタトゥーの女の子がアガり牌を正確に見極め手牌で抱えている。


流局。


海里と女の子の二人テンパイ。


点棒が動く。



南三局。


この局も同じだった。


九頭龍とタトゥーの女の子は徹底的に守る。


二人とも順位を理解してる。


海里は前へ出なければ負ける。


引いている訳にはいかない。


攻めるしか道はないんだ。


テンパイ。


あとひとつ。


でも――


届かない。


ツモりきれない。


流局。


また海里と女の子の二人テンパイ。


海里が小さく俯く。


その姿を見て胸が締め付けられた。


最後の局を残してタトゥーの女の子と海里の差は5,000点。


私は安全圏内とまでは行かないが、

直撃さえされなければ決勝進出が確定している。


息を飲むオーラス。



南四局。


びっくりするほど静かだった。


それは準決勝の局で一番だった。


全員が勝つために余計な牌を切らない。


誰もミスのない勝ちを目指すための動きをする。


大勢の観客から向けられた卓は今までで一番の熱で高まっている。


海里の最後の底力。


逆転へ望みを託すリーチ棒を卓に出す。


「……リーチ」


低い声。


でも、震えていた。


海里の運命がこの局で決まる。


アガれば決勝。


流局なら敗退。


海里は全てをこのリーチへ乗せた。


タトゥーの女の子は河を見る。


そして小さく笑った。


もう今からアガる気配はない。


降りている。


海里がツモったら仕方ない。


そういう覚悟を決めた顔だった。


卓の空気が重い。


海里が牌を引く。


捨てる。


また引く。


そして捨てる。


海里が牌を引く度に会場全員が息を飲む。


海里の指先が震えている。


こんな海里初めて見た。


そして――


私の番。


牌を引く。


恐らく海里の当たり牌は"索子の2と5"。


心臓が止まりそうになる。


今引いた......そうこの5の索子が海里の当たり牌。


九頭龍の手牌には、海里の当たり牌を合わせて四枚抱えている。


場に二枚。


つまり――


タトゥーの女の子が残り二枚を持っていたら、

海里の負け。


海里自身が引ければ、

海里の勝ち。


ーー


ーー


もしくは、


私が九頭龍の言葉を無視して、

この当たり牌を出せば.......


私と海里が決勝へ行ける。


(そうだ、それが一番平和じゃないか......)


指先が震える。


分からない。


何が正解なのか。


海里に放銃するべきなのか。


それとも。


九頭龍の麻雀を最後まで見守るべきなのか。


私が。


今。


二人の運命を選択できる、

その事実がとても怖かった。


そっと目を閉じた。




私が麻雀を好きになれたのは海里のおかげ。


毎日真摯に麻雀を教えてくれたのも海里。


負けて悔しいって気持ちを教えてくれたのも海里。


勝った時、一緒に笑ってくれたのも海里。


海里に出会えたことで本当に中学生活は楽しかった。


私の中にはいつの間にか海里でいっぱいだった。


私は。


私は、


高校で。


また海里とたくさん麻雀がしたい。


でもそのためにはこの大会で勝たなきゃいけない。


この局で勝って決勝に進まなければならない。


でもそれに海里を巻き込むの?


ここで海里を落とすのが正しい。


……本当に?


私のワガママのために海里を見捨てるの?


じゃあこの熱い真剣勝負に水をさしてしまえばいい。


......本当に?


血の気が引いていくのが鮮明に分かる。


(もう......これ以上.....海里の悲しむ顔なんて、私見たくないよ.....)


でも。


情けをかけられて、それで海里は満足してくれるだろうか。


そんな形で掴んだ決勝戦に海里は笑ってくれるのだろうか?


もう分からない。


何が正解なのか、何が間違いなのか。


考えているうちに、最後の巡目になってしまった。


海里が最後の牌を引く。


全員の視線が集まる。


(お願い.....ツモって....!)


そう思った。


でも――


海里は静かに牌を置いた。


牌は倒されなかった。


場へ出される牌。


空気が重い。


女の子も牌を切る。


タトゥーの女の子も静かに最後の牌を出した。


そして。


最後。


私の番。


牌を引く。






ーー。


ーーー。


.......5索。


指先が震える。


もう私の体には血が通っていないと感じるほど指先は冷え切っていた。


息の吸い方ももう忘れた。


目頭だけが熱い。


脈が荒くなる。


震えすぎて、

もう牌が掴めない。


私が出す牌で全てが決まってしまう。


「三萬だ」


九頭龍は海里を落とせと指示する。


そんなの分かってる。


でも九頭龍に従えば海里の未来を私の手で終わらせることになる。




(こんなの......辛すぎるよ.....)


ーー。


ーーー。



ゆっくりと視線を海里へ向ける。


海里はこちらを見ていた。


真っ直ぐ。


海里は逃げずに。


あんなに苦しそうだったのに。


あんなに追い詰められていたのに。


海里は――


私に笑ったんだ。


優しい笑顔だった。


出会った頃と同じ。


緑一色で、初めて一緒に麻雀をした時みたいな。


あの瞬間が頭の中で再生された。


頬に、


何かが流れた。


「あれっ......」


熱い。


視界が滲む。


やっぱり私は。


私は――


九頭龍から指示された三萬を手から離した。


九頭龍の指示を無視して私は別の牌に手をかけた。




(私は海里と一緒に麻雀をするために、

この大会に出たんだ......。

だったら......海里と一緒に決勝戦に行った方が楽しいに決まってる......

そうだ......この牌で.......。)


この局最後の牌が私の手で河に運ばれていく。


(海里……)


もう海里を見ることはできない。


(本当に大好きだよ……)


牌を掴んでいる指は、もう感覚を失っていた。


(これからもずっとあなたの友達でいたかった……)


もう息ができなくて頭に酸素が回っていない。


(今まで本当にありがとう......)

(海里に出会えて楽しかった......)




タン――!!



ーーー。


ーーー。




ーー、



最後に出された牌は



















































ーー《四萬》






時間が止まる。


誰も動かない。


数秒の沈黙。


そして牌が倒されていく。


「テンパイ」

「テンパイ」

「ノーテン」

「ノーテン」


Aブロックの準決勝が

今終わりを告げた。



一着 上路 緑 +13,800

二着 タトゥーの女の子 +5,300

三着 星川 海里 +3,300

四着 女の子 -22,400



「ありがとうございました」

「ありがとうございました」


「.....ありがとうございました。」


震えた声。


女の子が頭を下げる。


女の子はそのまま崩れるように泣いていた。


張り詰めていたものが全部切れたみたいに。


悔しかったんだ。


勝ちたかったんだ。


ここまで必死に戦ってきたから。


私は何も言えなかった。



そして海里は何も言わず下を向いている。


牌も見ない。


誰の顔も見ない。


ただ。


黙ったまま椅子を引き、

早歩きで部屋を出ていった。


挿絵(By みてみん)


待って。


そう言いたかった。


追いかけたかった。


でも。


出来なかった。


足が動かない。


私が海里の夢を終わらせたくせに、今更かける言葉なんて......ない。


その事実だけが、

胸の中で重くのしかかっていた。


「決勝戦は一時間後になります。」


アナウンスが響く。


現実へ引き戻される。


私とタトゥーの女の子がゆっくり席を立つ。


タトゥーの女の子は肩を回しながら笑った。


「危なかったー」


さっきまでの極限の空気なんて、

感じさせない声。


でもその目だけは本気だった。


「決勝もよろしくな」


そう言って私を置いて部屋を出ていく。


静かになる。


私は座ったまま、

点棒も、

卓も、

何も見れなかった。


……良かった。


私は決勝へ行けた。


これで。


お母さんもきっと、

桜華への進学を認めてくれる。


これで。


海里とまた――


麻雀が……


そこで思考が止まる。


欲しかったものを得ると同時に、

一番大切なものを失ってしまった.......。


そんな現実が私を襲った。




(……もう、

こんな私なんかと打ってくれないか。)

(.....私の事なんて嫌いになったよね。)


心が痛い。


下を向いたままゆっくり会場を出る。


長い廊下。


白い蛍光灯。


遠くから聞こえる歓声。


Bブロックの卓のざわめき。


でも。


全部が遠い。


行き先なんてない。


ただ。


歩かないと気が変になりそうだった。


海里……


海里……


頭の中が、

その名前だけで埋まっていく。


すると。


曲がり角の先に人の気配を感じた。


声が聞こえた。


泣いている声。


聞き覚えのある、

あの声が。


























わあああ――っ。


抑え込もうとして、

それでも抑えきれなかったみたいな泣き声。


子供みたいに。


ぐちゃぐちゃに。


廊下の向こうから響いてくる。


海里の声だった。


もう私の心が潰れるには十分過ぎた。


呼吸が止まる。


これ以上近付けない。


曲がり角の向こう。


そこに海里がいる。


泣いている。


私のせいで。


全身が震える。


私は。


私はいったい何をしているんだ。


何のために麻雀をしたかったんだ?!


頭の中で、

何度も何度も、

最後のあの牌が再生される。


海里の笑顔。


四萬。


あの瞬間の空気。


全部。


全部、

忘れられない。


大切な友達を悲しませる、

そんな麻雀を私はしたかった訳じゃない。


違う。


こんなの、絶対間違っている。


私は。


ただ海里と一緒に笑い続けたかったんだ。


ただ海里と一緒に強くなりたかった。


高校でも、

大学でも。


ずっとこの先も一緒に麻雀をしたかった。


なのに。


私は。


九頭龍に打たせて。


ズルをして。


自分で勝負もしないまま。


海里の夢を終わらせた。


それで得た決勝。


それで得た桜華への切符。


そんなものに価値なんてあるはずもなかった......


挿絵(By みてみん)


視界が滲む。


涙が止まらない。


頬をつたって制服へ落ちる。


(ごめんね....

こんな馬鹿と友達になったばかりに.....

本当に.......ごめんなさい......)


息が上手く吸えない。


私は、海里と一緒にいる資格なんてない。


だって。


海里はいつだって本気だった。


本気で麻雀を打っていた。


最後まで本気で勝とうとしていた。


それなのに私は。


他人の力で。


海里の夢を終わらせたんだ。


こんな私が。


麻雀を好きになっちゃいけない。


こんな私が。


海里の隣に立っていい訳がない。


「っ……ぅ……」


声にならない。


涙で前が見えない。


壁へ手をつく。


指先が震える。


バカだ。


本当に。


私はバカだ。


私がこんな弱い人間でなければ、


もっと上手く出来たかもしれない。


もっとちゃんと海里と話せていたかもしれないのに。


もっと早く全部打ち明ければ、

こんな結末にはならなかったんじゃないかって.....。


でも、もう遅い。


もう全部終わってしまった。


本当は。


ただ。


ーー《海里と親友になりたかっただけなのに。》


放課後、一緒に麻雀をして、


くだらない話をして、


勝った負けたで笑って、


それだけで良かったのに.....。


私が、


全部。


全部一人で壊してしまった......


目が熱い。


呼吸が出来ずにぐちゃぐちゃになる。


涙はもう枯れてしまった。


もう――


麻雀を打たないから。


もし許されるなら。


また初めて海里と出会ったあの時に、

海里と友達だったあの頃に戻りたいな……。






気が付けば。


私は走っていた。


体が勝手に動いていた。


会場の出口を飛び出した。


後ろで誰かが何か叫んでいる。


スタッフ?

観客?


そんなのどうでも良かった。


あの会場から、

この現実から逃げたかった。


止まったら何かに殺されそうだった。


走る。


涙で前が見えない。


息が苦しい。


肺が焼けるみたいに痛い。


それでも走る。


人にぶつかる。


「すみません!」


誰かの声。


でも振り返れない。


それでも走り続ける。


靴音が響く。


階段を駆け下りる。


冷たい空気。


夕方を越えた街の風。


頭の中は、海里でいっぱいだった。


海里。


海里。


海里。


海里.....


ごめんね。


ごめんね。


ごめんなさい――。


何度も頭の中で謝る。


でも。


もう届かない。


届ける事すら出来なくなってしまった。


呼吸が乱れる。


それでも。


それでも行き先も分からないまま。


ただ必死に走り続けた。





どれくらい走っただろうか。


もう分からない。


息が切れて。


肺が痛くて。


足も重い。


何度も転びそうになりながら、

ただ無我夢中で走った。


行先なんて、何も考えていなかった。


止まったら壊れそうで。


だから止まれなかった。


気が付けばーー


私は緑一色の前に立っていた。


緑色の看板。


ガラス越しに見える光。


聞き慣れた牌の音。


「……あはは」


小さく笑ってしまう。


これが帰巣本能ってやつなのかな。


どれだけ逃げても。


どれだけ苦しくても。


結局私はここに戻ってきてしまう。


ここで出会った海里にまだ縋ろうとしている。


なんて弱い人間なんだ。


なんて卑怯な人間なんだ。


こんな醜い自分が心底嫌いだ。


たくさん走ったからなのか。


たくさん泣いたからなのか。


もう何も分からない。


壁へ背中を預ける。


ゆっくり息を吸う。


吐く。


冷たい夕暮れの風が、

熱くなった頭を少しずつ冷ましていく。


呼吸を整えていくうちに。


不思議と心も少しだけ落ち着いていく気がした。


思考が冷静になっていく。


でも。


落ち着いたところで何も解決していない。


私は。


海里を泣かせた。


九頭龍に打たせた。


麻雀から逃げた。


勝った。


決勝へ進んだ。


全部がぐちゃぐちゃだ。


もう。


私はこれから、

どこへ行けばいいんだろう。


桜華へ行く意味もなくなってしまった。


麻雀を打つ意味もなくなってしまった。



私が生きる意味も.......。


頭がボーッとする。


目を閉じると、

全てから逃げ切れる気がしてとても気持ちいい。


このまま目を開けることを辞めてしまおうか。


このまま.....。


もうこのまま.....私がいなくなっても......


.......誰も。





そのまま重い瞼を閉じて

私はこの世界とサヨナラをしたんだ。

次回、決勝戦を前に中学生麻雀競技選手権 県大会の会場を抜け出してしまった緑。もう緑は精神的にボロボロで麻雀を打つことすら叶わない。この結末はいかに!?


中学生編 最終話(15話)「桜華へ」

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