付与の力
あれから三日。小石練習も慣れたもので、足りなくなって補充した分も合わせて、三十回余り付与を試行した。
うち、失敗八個。成功が二十二個だ。とはいえ、成功と呼んだものでも石自体の魔力を注げる容量が足りないので、転ぶのを一度回避出来る程度の能力しかないだろう、とはしおちゃん談だ。きちんとした宝石に【守り】の力を付与したなら、一定期間大きな怪我や病気なく過ごせるらしい。
一定期間、というのは付与時のレベルによるからだ。
『頑張ったんだな。レベルも結構上がったんじゃないか?』
「三回上がって、今はレベル四って表示されてるよ」
疲れたけれど、楽しかった。充実感でいっぱいだ。
「ねえ、レベルが上がるともっと大きな効果を付与出来るようになるんだよね? 他には、何か恩恵とかないの?」
「あるぞ、HPが底上げされるっていうのは定番だしもう気付いていると思うが、付与の種類が増えたりとかな。レベルを五に上げれば、【富】の付与も出来るようになるはずだ」
【富】。確か、ランドルフ様の口からもその単語は出ていた。きっと、私が鍛錬すればするだけ、その他にも力を得ることが出来るのだろう。
「【富】の次は? いくつまで上げれば何が出来るようになるの」
『すべて教えたら楽しくないだろ。実際その目で見て確かめるんだな』
突き放すように言い切って、その話題は終わってしまう。
「じゃあさ、これって目に見えない危険っていうか……、人の悪意とか、そういうものも遠ざけたり出来るの?」
『石そのものの容量と、ことみのレベルによってはな。何か不安なことでもあるのか?』
「んー、そういうんじゃないよ。気になっただけ」
本当は、気がかりはある。先日のスモーキークォーツだが、依頼主であるランドルフ様に渡すと、微妙な反応を返されたのだ。
まるで、期待外れだと言わんばかりの。
けれど、また来月も依頼しますだとか、貴女自身とももっと親しくなれたらだとか、そんなことも口にしていた。
本心がどこにあるか分からなくてやっぱり少し苦手なのだけれど、彼の名前を口にするとしおちゃんも少しおかしくなるので、話題に上げるのはやめておいた。
依頼料はお父様が受け取ったらしいし。これでもう会わなくても済むかな。
そんなふうに、思っていたのに。
「コトハ嬢の趣味に合うか分かりませんが、こちらをお受け取りください。今回の依頼品、大変素晴らしい仕上がりでした。そのお礼だとでも思っていただければ」
大きな花束を抱えたランドルフ様が訪ねてきたのは、翌日のことだった。
「えっと、きちんと報酬はいただいていますから。これ以上は、」
「それは貴女のお父様──、バークリー伯爵家にお支払いしたものでしょう。私は、貴女様へ個人的にお礼をしたいのです」
助けて、と傍に控えていたレティへ視線を送ると、酷く上機嫌そうな微笑みが返された。
「お嬢様のお部屋にぴったりの素敵なお花ですね。お嬢様の素晴らしさを分かってくださる方が居て、私も嬉しいですわ」
ああ、レティは私が褒められているのを見るとそれだけで相手を良い人認定してしまう節がある。すっかり受け取る流れになってしまった。
男性から女性に花束を贈るという行為は恋慕を意味することもあるけれど、今回は【乙女】という肩書を持った私への贈り物だろうし、受け取ってしまっても問題はない……、かな。
「……ありがとうございます。とても、良い香りですね」
「ええ。花に詳しい友人に選んでもらいましたからね。これから目まぐるしい日々になるでしょうが、少しでも貴女の癒しになれたら幸いです」
美しい花束に目を奪われたものだけれど、受け取ってしまったことをすぐに後悔することになる。
それから、花束を抱えたランドルフ様が日参するようになってしまったからだ。
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