興味の先
ランドルフ様が毎日顔を見せるようになったことで、お父様は私たちの間に特別な何かがあるんじゃないかと勘繰るようになってしまった。
冷遇されているとまでは言わないけれど、普段大して私に興味もなさそうな素振りなのに、ここ最近は明らかに上機嫌なのですぐに分かった。ランドルフ様の口から私に求婚しただとかそういう話は出ていないようだけれど、花束を持って日参するなんて、【乙女】に対する敬愛だけではないと捉えて当然だろう。私当人はといえば、ランドルフ様から敬愛も親愛も向けてられているようには到底思えずにいるけれど。
それでも、花束を抱えたランドルフ様は、邸の入り口で今日も私に微笑みかける。
「あの、ランドルフ様。このように気を遣ってくださらなくても充分ですわ。もうお礼は充分にいただきましたから」
「いえ、私の気持ちです。贈り物を口実に、毎日貴女に会いたいという下心もありますが」
嘘だろうなと分かっていても、見目麗しい青年にそのような甘い言葉を吐かれたら、ほんの少し動揺してしまう。ときめきというよりは気圧されているだとか恐怖を感じているというほうが近い。おまけに、返答に詰まったのを絆されたのだと勘違いされたのか、ランドルフ様の饒舌さに磨きが掛かってしまった。
「そのような反応をいただけるなんて、私のことを憎からず思っていただけているのでは、なんて勘違いしてしまいますね。本来ならば憧れの貴女様へ宝石を贈りたいところですが、依頼と受け取られてしまいそうですからね。淡い期待を抱いて足繁く通う私のことをどうぞ哀れな男だと笑ってください」
なんの冗談か知らないが、笑えるわけがない。助けて助けて、と視線を彷徨わせたところで後ろに侍るレティはこの件についてはランドルフ様寄りだし、満足そうに微笑んでいる。今日という日だけは、なるべく早くこの時間を終わらせたかったのに。
私の願いも虚しく、トドメの時間はいとも簡単に訪れた。
「ごきげんよう、コトハ嬢。……と、アディントン殿?」
たった今我が家に到着したらしいアレン様が、目を丸くしている。
「…………ごきげんよう、アレン様」
そう。今日は、アレン様がお父様に会いにやってくる日だったのだ。お父様に会いに来ただけのアレン様に、ランドルフ様と居るところを見られたところでやましい気持ちになる必要などない。
けれど、私が抱える両腕いっぱいの花束。どう見たって、ランドルフ様から贈られたものだ。憧れの人と、他の男性に花束を贈られている現場で鉢合わせなんかしたくなかった。
「ああ、ベルナール殿。貴殿もコトハ嬢へ依頼に?」
「あ、いえ。私はバークリー伯爵に会いに。お二方は親しかったのですね」
「親しくなりたいと思っているところです」
「……そうですか。では、私はこれで」
ご機嫌なランドルフ様を見て、余計なことを言わないでほしいと祈るけれど、アレン様は悲しいくらいに私に興味は無いようで、侍従に案内されて邸内に消えてしまった。最後に少しだけ私に会釈はしてくれたけれど。
知ってはいたけれど、まるで異性として意識されていないことに少しだけ落ち込んでしまう。
「ベルナール殿のような好青年がライバルかと肝を冷やしましたが、そうでもないようで。安心いたしました」
もしかしたら、ランドルフ様はこの一瞬でアレン様に憧れる私の気持ちに気付いたのかもしれない。その上で、私への好意を口にするのだ。目の奥の冷え切った笑顔を浮かべながら。
「…………アレン様とだなんて、恐れ多いことです。ランドルフ様とだって」
「私は、貴女の心がこちらに傾いてくれるまで諦めませんよ。ええ、まずは貴女に私の気持ちを信じてもらうところからですね。これからも通います」
きっと、その好意を信じる日は来ない。
受け取った花束は、とうとう七個目になってしまった。




