お誘い
ランドルフ様は、私が花束さえ受け取ってしまえばすぐに邸を後にする。それだけは幸いだった。
たまたま来訪のタイミングで遭遇してしまったお父様にお茶でもお誘いしなさい、と言いつけられた時だって、私の顔を見に来ただけだから花さえ受け取ってもらえたらそれで良いのだ、と帰っていった。
「差し出がましいようですが、お二人を見ているとじれったくて。そろそろランドルフ様のお気持ちを受け入れてしまってはどうですか?」
「そういうのじゃないってば。レティまで勘違いしないでね」
レティに悪気が無いのは分かる。けれど、私にしてみたらこの話題は気分の良いものではない。
「少なくともランドルフ様の方はその気なんだと思いますよ。毎日足繁く通ってくださるんですから。でも、毎回贈り物がお花なのは困ってしまいますね。もうお嬢様のお部屋には置き場所が……、お嬢様さえ宜しければ、今回いただいたものは食堂に飾ってまいりますね」
「ええ、そうして。私は先に部屋に戻っているから」
「はい。では、一度失礼いたします」
ランドルフ様がどの気かなんて知らないし、花に罪はないけれど、どうしても私室に飾りたいというほどの愛着も持てない。食堂に飾れば、仕事中の使用人たちの目に触れて彼等の癒しにでもなってくれるだろうか。
戻って小石練習でもしようかと部屋へ向かう途中、アレン様と出会った。
「アレン様」
「ああ、先程ぶりですね。コトハ嬢」
頭を下げると、微笑み返してもらえた。けれど私が一方的に憧れているだけでアレン様とは友人というわけでもないし、軽く挨拶だけ交わした今、そのまま通り過ぎて行ってしまうのだろう。
そんな予想は外れて、アレン様は私の目の前で立ち止まった。
「? あの、」
「ああ……すみません」
私を前に留まってくれたことは嬉しいけれど、なんだろう。悲しいかな仲良く談笑するほど親しいわけではないので、なにか用事があるのだろうか。その内容にも心当たりはない。
「ランドルフ殿とは、親しいのですか?」
「ランドルフ様……、ですか」
最近は誰も彼もが口を開けばランドルフ様の話ばかりで辟易していたけれど、アレン様からも彼の名前が出てくるなんて。もしかしたらほんの少し嫉妬をしてくれていたり、なんていう考えは一瞬で消えた。
「先程の花束は彼から贈られたものなのでしょうか。それとも、シオン様からの贈り物をランドルフ殿がお届けに? 【花の乙女】のお力が宿ったものでしたね。やはり、【乙女】同士、交流があるものなんですか?」
「……え? いえ……シオン様のお噂は聞き及んでいますけれど、直接お会いしたことはございませんわ」
贈られたものは、普通の花束だと思っていた。ランドルフ様は何も言っていなかったし。初日にいただいたものは今日になっても全く花弁が落ちる様子もなく、やけに長持ちだなとは思っていたけれど。そういう品種なのだろうと納得していた。
「では、ランドルフ殿からの贈り物なのですね。彼はシオン様とは幼馴染だとのこと。二人の【乙女】に近付いて、どういうつもりなのやら」
ランドルフ様との仲を疑われなかったのは良いのだけれど、温厚なアレン様には珍しく、言葉に棘を感じる。
「ああ……、嫌なところを見せてしまいましたね。お呼び止めしたのはこんな理由ではなく。コトハ嬢」
「はい」
「私と一緒に、王宮へ行きませんか」




