石ころ
「なんで石ころを集めているんですか?」
レティの疑問は当然だ。私だって、しおちゃんから教えてもらわなければ、わざわざ庭の石なんて集めたりはしなかったと思う。
「えっと、付与の練習に使えるみたいだから」
「そういうものなんですか? 【乙女】って凄いんですね……」
ただの石ころにどれだけ力を与えられるかはわからない。それに、今でさえそれなりの数依頼が入ってきているらしいのに、タダ同然の石ころにも魔力を付与出来るかもしれないなんて言ったら、面倒事になる気がした。
口外しないように、レティにはお願いする。彼女ならば、きっと秘密は守ってくれるだろう。
庭師に気付かれない程度ということで、十四個の石を抱えて自室に戻った。すれ違った他の使用人にもバレないように、レティも協力してくれた。
「では、お邪魔になるでしょうから私は一度下がらせていただきます。あまり根を詰めすぎないでくださいね。お困りごとがあったり、休憩が必要でしたらすぐにご用意致しますので、お呼びくださいませ」
気遣い上手なレティが、そう言い残して部屋を出ていく。
先程はうまくいったが、しおちゃんの助言あってのものだったので、一人で実行するのは少しだけ心細い。心の中で名前を呼んでみたが、応答はなく、通信は失敗に終わってしまった。
諦めて、掌に小石を乗せてみる。ランドルフ様から預かったスモーキークォーツのような透明さはなく、ただ、濃い灰色をしているだけだ。
しおちゃんに促された時と同じように、目を瞑って、握りしめた小石に自分の中の力を注ぎ込む。
けれど、二つ続けて失敗した。石が焦げたように黒ずんでしまったのだ。
HPバーを表示すると、ゲージは黄色くなっていて、最大値の三分の一を切っている。あと一回ほどしか試せそうにないだろうか。
本日最後ということで、気合いを入れ直して再度挑戦すると、今度は焦げたりはしなかった。
成功したのかは、わからない。ランドルフ様のスモーキークォーツのように、光り輝いたりはしていなかったから。けれど、恐らく失敗もしていないのだろう。小石から、微かに私の魔力の残滓のようなものを感じる。
HPバーは、ゲージが赤に差し掛かっている。経験値バーも表示すると、もう一度付与を行えばレベルアップが出来そうだったが、体力が減ったせいか、とにかく眠い。もし、もう一度の付与でレベルアップに達成しなかったなら、しおちゃんのいう通り倒れてしまうだろうし、やはり、今日はもう切り上げることにしよう。
作業机から立ち上がって伸びをすると、扉をノックする音が聞こえた。
「お嬢様、無理はされていませんか? 一息入れられてはいかがでしょう」
レティだ。なんとタイミングの良い。
「もう、切り上げるところ。入ってきて」
入室の許可を告げると、レティは部屋に入るなり作業机の有り様を見て眉を顰めた。
「自分で片付けるから、心配しないで」
「……そうではありません。私には、【乙女】のお力をお使いになることがどれだけ大変かなど、真に理解は出来ませんが……無理はしていませんか? すごく、強大なお力を行使しているのでは」
消し炭のようになってしまった石ころを目にしてのことだろう。心配性な侍女の気遣いが、有難い。けれど、それはただの失敗作だし、無茶な力の使い方をしたわけではない。もしかしたら手から炎でも出したのかも、なんて思われているのかもしれないが、そんな芸当は出来ないし。HPを減らしすぎたために、ただただ眠いだけだ。
「慣れないことをしたから、少しだけ疲れてはいるけど、無理はしてないわ」
「なら、良いのです。本音を言えば夕食をきちんと召し上がっていただきたいところではありますが、本日はもうお休みになりますか?」
「ええ、そうする」
お腹は空いていないけれど、瞼はもう限界だ。このまま起きていたとしても、食堂に着く前に倒れて眠ってしまいそうなくらいに。
「明日の朝食は召し上がってくださいね。もし、夜中に目が覚めてしまって空腹なようでしたらお申し付けください。私を起こしてくださっても構いませんし、厨房の仕込み番にも伝えておきますから」
「ありがとう、レティ」
良く眠れるというアロマを焚いて、「それでは、また明日」と声をかけてくれる。
もし、小石の付与石が成功したら。この優しい侍女に、こっそりと贈りたい、などと、ぼんやり考えた。




