しおちゃんによるチュートリアル
『目、開けていいぞ』
そっと目を開くと、ランドルフ様から預かった石の中心に光が宿っているのが分かった。先程感じたような眩しさは、もうない。
「これで終わり?」
『ああ。よく頑張ったな。上手かったぞ』
声が聞こえてるとはいっても、こちらの景色が見えてなんていないくせに。しおちゃんは褒め上手だ。
『ついでに楽しいモノ見せてやるよ。ことみの目線から左上あたりかな、人差し指を前に出してみな』
「何もないけど……うん」
しおちゃんの言う通りにすると、半透明のバーが映し出された。三分の一ほどが緑のゲージで埋まっている。
随分と馴染みのあるもののような気はするけれど。
「なに、これ」
『見たまんま。経験値バー。今のことみは守りの付与しか出来ないけど、溜まれば他の効果付与も覚えるよ』
本当に見たままだった。なら、今と同じ作業を繰り返すことでレベルが上がっていくってことかな。
『レベルは上げといて損はないからな。依頼はどんどん受けるといいぞ』
「ゲームがしたいわけじゃないんだけど……」
『まあ、分かるが、今そこにある現実がことみにとっての総てだろ。日本だろうが異世界だろうが、出来ることが多ければ多いほど身を守る武器になる。レベルを上げておいて損はないぞ』
それは、そうかもしれない。私の意思とは関係なく、これから次々と依頼は舞い込むだろうし。
『ただ、体力には注意だな。経験値バーの右あたり。スクロールしてみ』
言われた通りに、宙をなぞる。また、新しい横棒が表示された。
『そいつはHPバーだな。【乙女】の力を使う度に削られていく。底を突いたらぶっ倒れるから注意するんだぞ。回復方法は、睡眠、レベルアップ、花ポ……、まあいろいろあるけどすぐ減るからな』
「HPを使うの? こういうのってMP消費が基本なんじゃないの?」
『いや、まあそういう仕様だからとしか言いようがないんだが……、ことみだってゲーマーなんだから、嫌いじゃないだろ、こういうの』
その言葉を否定は出来ない。先程はゲームをしたいわけではない、とは言ったけれど、レベルアップだとか回復アイテムだとか、画面の向こう側のものだったのに、実際に自分の身の周りの現象として触れられるなんて心が躍らないわけがない。
「HPが底をついたら、死ぬの?」
『ぶっ倒れるだけだが……、攻略対象からの好感度が減るから、やめておけ。気絶するくらいなんだから、苦しいだろうしな。周りも心配するぞ。レベルが上がったりだとか、依頼をこなしたりだとか、普通に過ごしていけば自然と好感度は上がるから』
「好感度を上げたいわけじゃないけど……」
攻略対象の一人であるアレン様に憧れてはいるけれど、システムの仕様で私への好感度が上がった、と言われても嬉しくはない。
『まあ、好感度は置いといてだ。ただの石ころにも多少の魔力は付与出来るはずだから、その辺で拾ってレベル上げをすれば良いさ。ゲームの世界だからこそ、身を守る術は多いほうが良いからな』
「そんなに物騒なストーリーなの?」
乙女ゲームなんたから、攻略対象の男の子たちとの恋愛が軸なんじゃないんだろうか。身の危険、なんて考えもしなかったけれど。
『まあ、ルートによってはな。だから、回避させてやりたいとは思っている。なあ、だから、やっぱり私の言う通り、ランドルフと……、あ、』
なんでランドルフ様の手を取ることが安全に
繋がるのか。訪ねる前に、通信は切れてしまった。私の魔力不足なのか、しおちゃんの方で通話を切る術があるのかは、分からないまま。
「うーん……」
システムを利用して男性の好意を得るのは違うと思ったけれど、身の危険というのは気になる。危険が待っているのなら、回避したい。
暫く待ってもしおちゃんとの通信が再度繋がることは無かったので、庭園に出て手頃な石を集めることにしたのだった。




