本心は此処に無い
我ながら随分と素っ頓狂な声が出たものだ、と思う。だって、一目惚れ、なんて、明らかな嘘だ。そして、目の前のランドルフ様には、その嘘を信じ込ませようという真剣さもまるで感じられない。私がどう思おうがどうだって良い、といった風だ。
「いえ、失礼。早急でしたね。貴方は我が国にとって、貴重な【乙女】。他者に先を越されまいと焦ってしまいました」
それも嘘。明らかに口先ばかりだ。男性から告白されるなんて初めてのはずなのに、驚くほど心に響かない。困ったのは、お父様に相談もせずお断りして良いのか、お断りするにしても、どうお断りすれば良いのか分からないということだ。
言葉を返すことも出来ない私に、ランドルフ様が底知れぬ笑みを浮かべる。
「良いのです。無理に返事などいただかなくとも。……また来ますから。では」
後ろ姿を見送って、疲れた気持ちで自室に戻ると作業机の上に先程のスモーキークォーツが置かれていた。
この机は、【乙女】のお務めのためにと運び込まれたものだった。
『こと、ことみ』
頭に直接語り掛ける声。しおちゃんだ。
「しおちゃん、学校は?」
しおちゃんと話せるようになったのは嬉しいけれど、まだ正午だ。こちらとあちらで時差があるのかはわからないけれど、こんなに頻繁に通話をして、日常生活に支障が出たりはしないのかと心配になってしまう。
『授業はきちんと受けてるから安心しなよ。ね、ね、それよりランドルフと会った? 格好良かったでしょ。格好良かったよね。好きになった?』
正直苦手なタイプだったけれど、伝えて良いのだろうか。しおちゃんは私に彼とくっつけと言うし、向こうからは婚約したいだなんて会話もあったけれど、私個人としては遠慮したい。
「……会ってすぐに人を好きになったりしないよ」
『ええ? おかしいなあ。婚約の申し出とかあったんじゃないの』
伝えようか迷っていたのに、しおちゃんは既にランドルフ様の発言を把握していたらしい。そういうストーリーだったのだろうか。
「ちょっとだけそんな話も出たけど、私が決めることじゃないから」
『まあ、そりゃあそうだ。貴族間の結婚なんてね。フラグは立ってるようで安心したけど』
フラグ、ということはやはりゲームのイベントなのだろう。予定調和の出来事。あのどこか真剣さのない態度が、システムに沿っているからなのか、ランドルフが元々そういう性格だからなのかは分からない。
「乙女ゲームなんだから、分岐があるんだよね? 絶対にランドルフ、様、と恋愛しなきゃいけないわけじゃないでしょう。しおちゃんのお願いならなるべく聞いてあげたいけど、これについては無理だよ」
『まあそう言いなさんな。ことみが幸せになるためなんだから。次は数日後に花を贈ってくれるはずだから、きちんとお礼の手紙を出すんだぞ』
「しおちゃん。他キャラルートでもバッドエンドってわけじゃないんでしょう? というか、私だって感情があるんだから。攻略対象の人たち以外を好きになることだって」
確かに私は攻略対象であるらしいアレン様に惹かれているけれど、この先が攻略対象である誰かと結び付く未来に繋がっているとは限らない。私だって、彼らだって、自分の意思がある。他の誰かを選ぶ可能性だって充分にあるのだ。
『まあ、ゲームに関係ない人とくっついて、ことみが幸せになれるならそれで良いけど。攻略対象の中から選ぶなら、ランドルフ一択だ。他は駄目だぞ』
まるで諭すように念を押してくる。なんで、そうまでして国王陛下やアレン様から遠ざけようとするのだろう。
「私の気持ちはともかく、アレン様や陛下が私を選ぶとも限らないでしょ、陛下にはお目に掛かったことすらないんだし」
『なら良いんだがな……』
アレン様にだって嫌われてはいないだろうが、個人的に仲が良いというわけではない。お見舞いに来てくれたのだって、その優しさから知人を気に掛けてくれただけだろう。
「しおちゃん、そんなことに首突っ込んでくるくらいならアドバイスでもちょうだい。私、これから仕事しないといけないんだから」
そう。しおちゃんとお喋りできるのは嬉しいが、誰を好きになれとかそいつはやめておけとか、そんなつまらない話をしたいわけではない。だったら、作業の手伝いでもしてほしい。
『乙女ゲーの主人公が恋愛をそんなこととか言うなよ。まあ、いいぞ。このゲームはやり込んだからな。まず、目を瞑ったまま、顔を少し上げて。預かった石を両手で包み込んで』
指示された通りにスモーキークォーツを握りしめる。指の先がじんわりと温かくなって、目を瞑ったままなのに分かるほどの眩しい光が放たれた。
読んでくださってありがとうございます!
ゆっくり更新です。




