依頼を通して
「アディントン家からの依頼だ」
そう言って、お父様は私を応接間に呼び出した。依頼、と言われても。私はまだ【乙女】の仕事をひとつもこなしていない。しおちゃんとの通信をしてから、なんとなく身体に宿る魔力らしきものを自覚出来るようにはなったので、恐らくお務めは果たせると思うけれど、それがどの程度のものなのかは分からないのだ。
シオン様の紅茶ポーションのような立派なものを作れるのだろうか。
ぼんやりとした不安を余所に、話し合いは進んでいく。
アディントン家のご子息──、ランドルフ、様は、前世でしおちゃんが見せてくれたそのままの姿だった。月明かりの少ない夜空のような紫の髪に、瞳には私の守り石と同じ緑を宿している。
「初めまして、コトハ嬢。この度は宜しくお願いいたします」
「……宜しくお願いします」
なんとなく、嫌な感じだ。目の前のランドルフ様は確かに美しい青年だけれど、視線に含みを感じる。
そもそもが、アディントン侯爵家といえば【花の乙女】であるシオン様のクロンビー侯爵家と懇意だという話なのに、わざわざ私に何の依頼があるというのか。
「あの、私は何をすれば、」
「こちらに、【守りの魔力】を付与していただきたい」
そう言ってテーブルに置かれたのは、黒みがかった小さな石。スモーキークォーツだ。
「……【守り】ですか。【富】ではなく」
「【富】の付与は難しいと聞きますからね。十五歳を迎えたばかりのコトハ嬢には負担が大きいでしょう。いえ、【守り】も有難い力ですから、その奇跡を我がアディントン家にも分け与えていただければと」
「なんと……、娘を気遣っていただきありがとうございます」
お父様は感動している様子だけれど、私はやっぱり不信感を拭えないでいた。
しおちゃんの推しを悪く思いたくはないけれど、どうも見くびられたり見下されたりしているような、そんな気がしてしまうのだ。そもそも、守りや癒しなんて【花の乙女】の方が得意そうなものなのに。
「コトハ。アディントン様からのご依頼はお受けするということで良いな?」
形式的に尋ねられているだけで、この提案を却下することは出来ない。上位の貴族からの依頼という以上に、【乙女】は王家とそれに連なる貴族の発展に協力的であるようにと義務付けられている。
「……はい」
「【守り石の乙女】の御業を期待しています。それから、コトハ嬢」
依頼については気が進まないけれど、受けてしまえば解散になるだろうと踏んでいたのに、まだ何か話があるという様子でランドルフ様に呼び止められる。
そして、何を言うかと思えば。
「宜しければ、私と友人になっていただけないでしょうか」
「え……」
まるで想定していなかった展開だ。しおちゃんはこの人と仲良くなれと言っていたけれど、正直言ってあまりお近付きになりたくない。私の幸せのため、と言っていたけれど、実際に対峙してみたランドルフ様からは、なんとなく裏がありそうな冷たさを感じてしまうのだ。
けれど、この申し出を断るすべもない。
「……私で宜しいのでしたら」
「ええ、コトハ嬢が良いのです」
恐らく、本当に友人になどと望まれてはいない。真の目的が何処にあるのかまでは分からないが。
「ランドルフ殿をお見送りしてきなさい」
これ幸いとばかりにお父様に送り出され、私とランドルフ様の二人きりになってしまった。
「コトハ嬢」
「はい」
庭先に出たところで、不意に名前を呼ばれる。友人を名乗り出た割には、その声には親しみも何も含まれていない。
「そんなに警戒しなくても。私は、本当に貴女と親しくなりたいと思っているのですよ」
「いえ、警戒なんて、」
もしかしたら、私が考え過ぎているだけで、敵意のようなものを向けられているわけではないのかもしれない。ただし、その唇から紡がれる好意も、存在してはいないように感じる。
疑っていたような裏なんてなくて、でも、仲良くなりたいだとかはただの社交辞令で。そんなものが必要な貴族社会がただ煩わしいだけという可能性もある。だとしたら、ちょっぴり同情はするけれど。けれど、そんな予想も外れてしまう。
「貴女に一目惚れをいたしました。宜しければ、婚約者候補に名乗り出たい」
「…………ええ?」
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