この世界
「あたまいたい……」
『そら、十数年分の記憶が一気に流れ込んできたんだもん。脳に負担もかかるし、頭も痛くなるさ』
「しおちゃん……?」
首に掛けたネックレスから、しおちゃんの声が聞こえる。夢でしか会話が出来ないと思っていたので、とても驚いてしまう。
「電話、ずっと繋ぎっぱなしなの……?」
『電話じゃないって。電波使ってないし。どうも繋がる時と繋がらない時とあるみたいだね。コトハの魔力が安定すれば、オンオフも自分の意思で出来るようになるんじゃないか。十五歳になって、魔力も発現しただろ』
「魔力……、こうやってしおちゃんと話せるようになったこと?」
『それもあるけど。これから乙女としてのお務めが始まることくらいはことみも知ってるでしょ。花ポ、持ってない?』
花ポ? なんのことだろう、と思ったけれど、恐らく花の乙女の紅茶ポーションのことだろう。略し方ひとつでなんだか台無しだ。
「紅茶ポーションならアレン様からもらったよ。宝石の乙女は……、魔力を付与して、もともとその石が持つ効果を増幅させるんだよね」
前世でのパワーストーンといったところか。主に富を齎すと言われる種類の石たちが対象で、魔力を付与することでその効力は確実なものとなる。
『そう。アレンからもらったっていうのは私の知ってるストーリーとは違うみたいだけどね。悪役令嬢役であるシオンの作った花ポは、コトハの競争心を煽るためにバークリー伯爵が持ってくるはずだったから』
「ねえ、ここは【二つの乙女】の世界ってことで良いんだよね? 悪役令嬢ってなんなの。私は何をすれば良いの」
『あー、疑問は当然っちゃ当然なんだけど、質問が多いな。まあ、さっきよりは時間がありそうだしいちから答えてあげるよ。まず、【二つの乙女】についてことみはどこまで知ってるんだっけ』
「ジャンルとしては乙女ゲームで、開始時にプレイアブルとなる主人公を選ぶんだよね。花の乙女であるシオン様か、宝石の乙女である私……、コトハのどちらかから」
通信の向こう側から、ぱちぱちと拍手の音が聞こえる。
正解だ、ということだろう。
『そ。そんでもって、主人公として選ばなかったほうの乙女はライバル兼悪役令嬢としてストーリーに登場する。神に選ばれた乙女として、もう一人に負けないよう国に利益を齎しながら攻略対象との恋愛を進めていくって感じだな。まあ、この攻略対象たちもちょっと特殊なんだが』
「特殊?」
『まずは、シオンルート。何もしなければ自然にシオンルートのメイン攻略対象であるランドルフルートに入る。コトハルートは、コトハのメイン攻略対象のアレンだな。そして、間違った選択肢を選び続けてしまうと国王ルートだ。年若き国王は一見賢王に見えるかもしれないが、裏があってな。こいつだけはやめておけ、と言いたいが、私はことみにアレンも選んでほしくない。ランドルフにしておけ。どうやって仲を縮めれば良いかアドバイスするから』
メインヒーローはアレン様だと説明しておきながら、なぜランドルフ? 自分の推しだからといって無理に薦めてきている様子でもないけれど、会ったこともない人と恋愛しますなんて返事は出来ない。
『もうアレンのこと好きだなんて言わないよな?』
「好きっていうか……、憧れてはいるよ」
『あー……。好きそうだもんね。ああいう人畜無害ですみたいな顔したの。まあいいや、まだ付き合ったりしてないでしょ? ランドルフに乗り換えて』
なんて強引な。
「ねえ、嫌だ……っていうか無理だよ。なんでそんなにランドルフを推すの」
『その方がことみが幸せになれるから。そのうちランドルフの家から依頼があるから、上手く縁を繋ぎな。強気に振る舞えばランドルフの好感度は上がりやすいから頑張るんだよ』
「ちょっと、しおちゃん!!」
抗議も虚しく、そこで通信は途絶えてしまう。
暫くして、レティが戻ってきた。
「お嬢様? どうかされましたか?」
「あ、ううん。なんでもない……」
レティが持ってきてくれたパン粥をお腹に入れて、その日は眠りに着いた。
読んでくださってありがとうございます。
漸く世界観の説明が出来ました。ゆっくり更新ですが、また読んでいただけたら嬉しいです。




