目が覚めて
「お嬢様っ!!」
「コトハ……」
「コトハ様」
瞼を開くと、レティ、お父様、アレン様の三人がこちらを心配そうにみつめていた。ぼんやりとした思考のまま、上半身を起こす。
どうやら此処は、私室の……ベッドの上だ。なんとなく、節々の筋肉が凝っているような気がする。きっと今まで眠っていたのだろうけど、それがどのくらいの時間だったのかはわからない。
前世の回顧をして、親友と通じ合って。随分な長い時を過ごしたような気はしている。
「……っ、」
意識がはっきりとしてきたと同時に、経験したことのないような頭痛が襲ってきた。頭が締め付けられているかのように痛い。
「お嬢様っ。どこかお辛いですか? レティになんでもお申し付けください! 氷嚢をお持ちしましょうか? それとも、毛布を足しますか?」
「だい、じょうぶよ。ありがとう。……あの、お父様とアレン様は、お見舞いにきてくださったのでしょうか。ご心配をお掛けして……」
「構わない」
「コトハ様。三日間も眠り続けていたとお聞きしています。私は本日も領地の件でお邪魔していたのですが、お暇する前にコトハ様の御様子を窺わせていただけないかと伯爵様にお願いしたのです。ご本人の許可もなくレディの寝室に入室してしまい、申し訳ありません」
「いえ……、お二人とも、ありがとうございます」
三日間とは、予想以上だ。随分長いこと意識を手放してしまっていたらしい。
いつもはあまり私に興味のなさそうなお父様も、此処に居るということはいくらかは心配してくれたのだろう。
そして、お仕事のついでとはいえ、アレン様がこんな風に心配してお見舞いに来てくださっている。それを嬉しく思ってしまうのは不謹慎だろうか。茶色の髪に、銀色の瞳。アレン様の纏う雰囲気は、どこか神秘的でありながらも柔らかい。
「……十五歳から、【二つの乙女】としてのお務めが始まるのは知っているな。既に幾つかの依頼が来ている。納期に余裕はあるものばかりだ。体調が良くなってからで良いが、心して取り組みなさい」
「コトハ様。本当は三日前にお渡ししようと思っていたのですが、こちらを。重要なお役目が始まりますが、どうかご自身の体調にも気を配ってお過ごしください。……では、」
アレン様がサイドテーブルに小包を置いたのを合図に、お二人とも退室された。
残されたレティが、複雑そうな顔をしている。
「彼らなりにお嬢様を心配されていたのは本当でしょうけれど……、旦那様はお役目のことばかり。アレン様にしたって、お誕生日のプレゼントのつもりならばお祝いの言葉くらいあったって良くないですか?」
「レティ。お二人のことをそんな風に言っては駄目よ。お見舞いに来てくださっただけでとても有難いもの。……でも、私のためにいつもありがとう。アレン様は何を贈ってくださったのかしらね」
ぷりぷりと怒るレティを宥めながら、アレン様が置いていった包みを開ける。中には、缶入りの茶葉が入っていた。カモミールティーだ。
疲労回復に、と、小さなメッセージカードが添えてある。これから始まるお務めを心配してのことだろう。
……が、このメッセージカードを目にしたレティが、何故だかより面白くなさそうな顔になってしまった。
「っ、アレン様、無神経じゃないですか? これ、花の乙女の紅茶ポーションでしょう。よりによってこのようなお品を宝石の乙女であるコトハお嬢様に贈るなんてっ。メッセージカードも商品に元から備え付けてあったものですよね。そりゃあ、【乙女】のお品物ですから、効果は絶大でしょうけれどっ」
「花の乙女……、シオン様だったかしら」
シオン・クロンビー侯爵令嬢。
紫紺の髪に翡翠色の瞳をしたとても美しいご令嬢との噂だ。
私より二つ歳上の彼女は、既に【乙女】としてのお務めを始めていて、彼女がお花や果実に魔力を込めると、元よりあった効能が更に増幅されるのだと聞く。下手な薬よりもよほど効果のあるもので、主に紅茶として加工されるのだが、それは紅茶ポーションと呼ばれ、随分な高値で取引されているとのことだ。
「ご立派な方だとお聞きしているわ。私も彼女のようになれるかしら」
「なれますっ。むしろお嬢様に敵う女性なんてこの世にいません! ……その紅茶ポーション、どうしますか? 見たくないなら厳重にしまい込みますよ」
「レティ。私、シオン様のことをライバル視なんてしていないから。こんな貴重なお品、頂いてしまって良いのかしらという気持ちはあるけれど……。ね、レティも私のお世話ばかりで疲れてしまうこともあるでしょう。今度、一緒に飲みましょう」
「コトハお嬢様にお仕え出来ることが私の喜びですから、疲れなんて感じたことはないですけれど、身に余る光栄です。……っと、お喋りしすぎましたかね。食欲はありますか? 何か消化に良いものをお持ちしましょう」
「うん……、お腹は空いているような気がするけれど、きっとたくさんは食べられないから少しで良いわ」
「紅茶ポーションは……どういたしますか?」
シオン様の紅茶ポーション。きっと効果は絶大なのだろうけれど、今はそんな気分になれない。
「今度で良いわ」
「かしこまりました」
レティが出ていって、扉が締められる。先程までは我慢していたけれど、やはり酷い頭痛だ。
一度は起こした上半身をベッドに預けると、世界が回っているように感じた。
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