決心
「少し不味いかもしれないわね」
クロンビー邸に滞在して二日目。作戦会議という名目で応接室に集められた私たちだが、明らかにシオン様の顔色が良くない。
「どうしました?」
「……アゼツ公爵家。味方に引き込もうとしていた中でも一番の力を持った家だったのだけれど、先に【蜂】が接触した痕跡があるのです。もしあちらに着かれてしまったら、不味いわ。……以前、不義理をしてしまったものですから、私への印象は宜しくないでしょうし」
「シオンお嬢様のような御方が、不義理なんて。何があったのですか?」
ランドルフ様のことは好かない様子のレティだが、シオン様のことはすっかり信頼しているらしい。私は、素敵な淑女の皮の下に何が隠れているのか知っているので、寧ろ聞くのが怖いのだけれど。
「アゼツ家の令息……つっても四十近いんだけど。シオンを娶るとか言い出したから、俺の女だから手を出すなって邪魔してやった」
「…………っほんっっと、この駄犬」
思い出して堪えきれなくなったのか、シオン様の指先は怒りに震え、唇を強く噛んでいる。
縁談を邪魔されたなら怒って当然かもしれないが、四十近いおじ様が相手だというなら、そこから救ってくれたランドルフ様はヒーローなのではないだろうか。恋人ではないと言い、私にあてがおうとしてきたけれど、そもそもランドルフ様は彼女の前世の推し。推しというからには、好ましく思っているはずなのに。
「四十近いおっさんのトコ行くなら俺のほうがいいだろうが」
「嫌よ。貴方には貴方の相手が居るの。それは私じゃない」
こんなに必死にアピールするランドルフ様に対しても、シオン様はつれない返事しか返さない。それは、やはり私のためなのだろうか。けれど、彼女のしていることは、私の気持ちもランドルフ様の気持ちも置き去りだ。
「はー、コレだよ。コトハも侍女ちゃんも何か言ってやってくれよ」
やれやれと肩を竦めるランドルフ様だが、恋愛や原因などという繊細なものは、私にはまだわからない。一瞬だけ、アレン様の顔が浮かんだ気がするが、きっと気の所為だ。
「えっと、私……そういうことにはあまり詳しくなくて」
「詳しかったとしても関わりたくはありません、そのようなお話。それよりも、あてが外れたならばどうするかを考えるべきでは?」
レティが呆れたように話題を切り上げた。敵に先手を取られたならば、こちらはどう動くか。それは、何より優先すべき事だ。
「他の貴族に取り次ぐしかりませんわね。アゼツ公爵家も、まだあちら側と決まったわけではありませんが。……コトハ様。バークリー伯爵は、私たちに付いてはくれませんか?」
バークリー伯爵。つまり、私のお父様。
「恐らく、無理かと。まともに話したこともないですし……それに、我が家は伯爵家です。味方に付けたところで、公爵家ほどの力はないのではないでしょう。なら、いっそ私たちだけでも声を上げれば」
「いやー、【乙女】の生家つったら、ある意味じゃ公爵家より重要だろ。それに、【乙女】二人が揃って声を上げたとしてもだな、俺たちはまだガキだ。子どものおふざけだなんて捉える輩も少なくないだろうよ。同じ貴族家の人間でも、ガキよりか家長からの嘆願の方が通りも良いってもんさ」
この流れは。気は進まないが、もう一度覚悟を決めるしかない。
「上手いこと、バークリー伯爵を説得してくださいませ」




