現れたのは
私の背後から現れ駆け抜けていったランドルフ様は、曲がり角の先で、二、三回鈍い音を立てた。恐らく、騎士たちに一撃ずつ喰らわせたのだろう。『うっ……』といううめき声を最後に会話が途切れたのを確認して、私も角を曲がり、ランドルフ様の元へ早足で駆け寄る。そこには、やはり騎士たちが転がっていた。
「あの、ありがとうございます。ランドルフ様、なんで……、あと、この方たちってまさか、死ん……」
「手加減はしてっから安心しろよ。それよりさー、……ああ、いや、今はそんな場合じゃないか」
いつも通りの飄々としたランドルフ様のように見えたが、よくよく観察するとなんだか何時もと少しだけ違うように感じた。意外そうに、けれど嬉しそうに私の首元の守り石に視線を送っている。この守り石に、何かあるのだろうか。
「ランドルフ様?」
「いや、なんでもねえって。それより、お嬢ちゃん。走れるか?」
「え? ええと、走れる、と思いますけど」
「その様子じゃ、速度は知れたもんか。……まあ、こうなるよなー」
そうランドルフ様が口にした瞬間、私の視界が反転した。
「っ、あの、ランドルフさ、まっ……」
私の腹部が、ランドルフ様の右肩に引っ掛けられた状態で持ち上げられている。所謂、俵抱きだ。思わず悲鳴が漏れそうになるが、一刻も早くこの場を離れなければいけない状況で騒ぎ立てることは悪手だ。条件反射で零れそうな声をなんとか飲み込んだ。
「わりぃな。この方が早いしさー。変なトコは触んねえように気を付けるから」
ランドルフ様がそう続けた途端、更に視界が振れる。前世で体験したジェットコースターも、軽めのものならこの程度の衝撃だっただろうか。もう、詳しくは思い出せないけれど。
私を抱えたランドルフ様は、正門からではなく窓から窓を移動して外へと駆け抜けた。
馬車の停車場まであと少し、というところで降ろしてくれたが、どういった体力をしているのか。息も乱れていなければ、汗のひとつすらかいていない。
「いやー、ちと手荒になっちまったな。大丈夫だったか、お嬢ちゃん……って、おい」
珍しくこちらを気遣うような素振りを見せるランドルフ様が驚いた顔をしていて、そこでやっと気付いた。
自分の目尻から、とめどなく涙が溢れてきていることに。




