脱出危機
心臓の鼓動は鳴り止まなかったが、どうにかその場を切り抜けることは出来た。
と、言っても、陛下とアレン様の会話にただ微笑んで頷いているだけだったが。
暫くして、二人の会話が終わって退室の運びとなった。
だが、まだ終わりではない。あとは、無事に王宮から抜け出さなければ。
アレン様はまだ王宮に用事があると言い、待っていてくれないかと続けた。その頼みを断るのは心苦しかったが、王宮の機密書類を盗み取った状態で何時までも残っていられる筈がない。
帰りは我が家の馬車を呼び先にお暇します、と伝えたが、実のところこれから向かうのはクロンビー邸だ。
盗み取った書類は、武器の輸入記録。戦争の準備が水面下で進んでいるという証拠をシオン様が信頼する貴族に提示するのだ。言葉だけでは信じてもらえずとも、確かな物証に、【乙女】二人が揃っているならば耳を傾てもらえるだろうという目算だった。
お気を付けて、と言い残して去っていったアレン様を見送ってから。レティとの合流場所である馬車の停留所まで、駆け出したいのを我慢しつつ胸元に隠した紙が音を立てないようにあくまでしなやかに歩く。
あと二度、曲がり角を曲がれば、正門まで着く──、そんな時だった。何かを探す騎士たちが慌ただしく駆けていることに気付いたのは。
「見つかったか?」
「いや、そちらは?」
「こちらも、まだ。なんとしてでも探し出さないと、まずいことになるぞ」
彼等が探しているのは、執務室にあるはずの一枚の書類──、もしくは、このタイミングでそれを抜き取るチャンスのあった私やアレン様なのだろうか。鼓動が更に激しく音を立てる。幸い、騎士たちの位置はまだ曲がり角の先。対面はしていない。けれど、そこを通らなければ王宮から脱出は出来ないし、かといってこちらの存在に気付かれたら不味い。
身を潜めるしかないけれど、隠れる場所など──。
気付けば、首元の守り石を握っていた。ペリドットにも似たその輝きに、思いを馳せる。
「……助けて」
「はいよ」
思い浮かべたのは、前世の親友の姿だった。日本人らしい、黒髪黒目の女の子。
けれど、現れたのは紫の髪に緑の瞳。
立派な体躯をしならせた彼は、背後から現れた筈なのに、直ぐに私を追い抜き駆けていった。




