作戦決行
やはり、というか。窓の外の紫色は、ランドルフ様の頭だった。
アレン様だって私と同じ方向を向いているというのに、呑気に手の平をこちらに見せて振っている。
(な、ん、で、ですか……!)
こちらから見えているということは、ランドルフ様側からも見えているはず。何故このような危険なことをするのかと口パクで抗議するが、さして気にした風もなく、けれど頭と手を引っ込めて隠れ直してはくれた。
確かに私の力を込めた守り石を渡してはいるが、ランドルフ様はどうも私の、いや、【乙女】のだろうか。この力を過信している節がある気がする。それは、シオン様という先駆者の能力を見ているからなのだろうが、つい最近力に目覚めたばかりの私とは、文字通りレベルが違う。多少の危機回避は出来るかもしれないが、リスクがゼロになるわけでは無いのだ。
だというのに。
隠れ直したかと思えば、アレン様の視線がほんの少し逸れたタイミングで顔を出しては、陛下の積み上げた書類を指差している。
口パク付きで、『早く抜き取れ』と。
だが、眼前には陛下。陛下。真横にはアレン様が居る。
(この状況で、どうやって……!?)
同じく口パクで返すと、何故かひとつウインクをしたランドルフ様が右手の人差し指と中指を擦り合わせた瞬間、僅かに開いた──、否、たった今ランドルフ様が開けた窓から突風が吹き込んだ。
「おおっ…! 凄い風だな。窓を開けた覚えはないのだがっ……」
庭園から吹き込んだ砂埃が舞い、カーテンがはためいて。
恐らく、陛下もアレン様も、そして私も。誰もがお互いの姿を認識できない状態だ。ただ、立ち上がった陛下が何事かと窓辺を振り向いている気配だけがして。
偶然、なのか、守り石の力か。風によって束の中から一枚だけ滑るように舞い上がった書類は、私たちが探し求めていたものだった。
風が空気を切る音、庭園の草木が揺れる音、カーテンが風に揺られる音に紛れて、その一枚だけを懐へ隠すことに成功した。
背中に伝う冷や汗と、早まるばかりの鼓動に生きた心地はしなかったと言うのに、風が収まった後もランドルフ様は隙を見つけてはこちらにウインクを投げ掛けてきていた。




