信頼の理由
私が求婚を受け入れた時のアレン様は、どこか安心したような、けれど酷く傷付いたような、そんな顔をしていた。
「……わっかんねえな。昔から好きだった相手なら、そっちを信じたいって思うもんじゃねぇの? アレン様は【蜂】の手先なんかじゃないんですぅ〜って」
被っていた猫を見事なまでに脱ぎ去ったランドルフ様は、礼儀正しく玄関から訪問しようという気持ちも何処かへ置いてきてしまったらしい。アレン様を見送ってレティと二人きりになった応接室。窓からノック音が聞こえたので、レースのカーテンを開けると彼は居た。そして、『よっ』とまるで昔からの友達のような気安い挨拶を投げ掛けて来ての、これである。
「アディントン家では随分と分厚い猫を飼っていらっしゃいましたのね」
「……レティ」
つい口をついて出てしまったのだろう。レティの気持ちは分かるが、先日不敬を諌められたばかりだというのに。
「あ? 構わねえよ。敵意や悪意があって言ったんじゃないのは分かるし、ただの感想だろ。シオンをバカにされたら許せねえけどなー。それより、お嬢ちゃんはやっぱりベルナールの坊っちゃんを信じたい〜とか、そういう気持ちにならねえの? 袂を分かつなら早めにしてくれよ」
「……いえ。アレン様が私利私欲のためにあちらについているとは思っていませんが……、私は、シオン様の仰ることなら、シオン様を信じます」
もし、実際にアレン様があちら側の人間だったとして。そこには、何か理由があるはず。
「……へえ? いや、ベルナールの坊っちゃんがあっち側だってのも、俺らが言ってるだけなのによく信じるよな。俺だってシオンだって、お嬢ちゃんとは出会ったばかりだっつうのに。てか、俺がアンタを仲間に引き入れるために誑かそうとしてたことだって怒った様子もねえし。侍女ちゃんも不思議じゃねえの?」
「それは……、ええ、まあ、はい。あの、不敬は承知ですが、やはり私はお嬢様を弄ぼうとしたことだけは許し難いです」
「まあ、それは怒って当然だから不敬だなんて言わねえけどよ。事が済んだら相応の詫びもするつもりだし。……で、当の本人のお嬢ちゃんは、何で俺たちを信じる? なんで、俺に惚れさせて利用しようとしたことを怒らない?」
ランドルフ様とレティの疑問は尤もだ。けれど、言葉で表すのは難しい。
シオン様だから、信じた。
それだけなのだから。




