蜂の目的
暫しの静寂が流れた後、私は漸く言葉を取り戻すことが出来た。
「レティの言う通りです。あの御方は、何故こんなことを? 私を働かせたいのなら、このような悪事を企てずとも王命ひとつでどうにでもなるでしょう」
国王陛下の命となれば、そうそう断れるものではない。多少無茶な要求であったとしても、応じるしかなかっただろう。
「……貴女にさせたいことが、戦争の手伝いだとしたら?」
「……戦争?」
シオン様の口から、聞き捨てならない言葉が出てきた。
「あの強欲蜂頭、この国以外も手にしたいんだとよ。まずは大陸全土を支配して、果ては世界も自分のものにしたいだとかなんとか。いくらアンタの力が成長していようが、戦争ってなりゃどうしたって沢山の犠牲が出る。そんなもんに尊い乙女サマの力を使おうとか、民が許すかね」
「ならば、行方知れずということにしてしまえば都合が良いわね。おまけに、コトハ様自身の労働環境についても気にしなくて良いんですもの。倒れるまで……いえ、倒れても働かせるつもりでしょう」
前世で言うところのブラック労働。けれど、それよりも気になるのは戦争という単語の方だ。
「……私の扱いがどうとか以前に、戦争を起こさせるわけにはいきませんね」
無論私だって酷使されるのは遠慮願いたいが、罪なき人々の犠牲など尚更見過ごせない。レティを始めとした使用人、バークリー伯爵領の領民、お父様やアレン様にだって害が及ぶ可能性がある。
「けれど、皆様。お相手は、その……私のような使用人風情が口にするのも憚られるような、あの御方、なんですよね。まさか今回の計画が失敗したからといって諦めるようなお人でも無いのでしょう。謀略が続いているとしたら、こちらはどのように対策すれば良いのですか?」
レティの疑問に、ランドルフ様は頭をがしがしと掻いている。シオン様は、傷付いたような表情を浮かべて目を閉じながら。
「あの蜂頭のことですから、今回の計画が失敗した時の予防線などとうに張ってあるはず。コトハ様にとって辛いことかもしれませんが──、蛾を使いましょう」
「…………蛾、ですか」
国王陛下を蜂と評した際にシオン様が蛾と例えた人物。それは、恐らく。
「……あー、お嬢ちゃん、俺らの見立てじゃ近々ベルナールの坊っちゃんに求婚されるぞ。良かったな」




