蜂頭
「さあ。まずは、今回の件について私が知る限りのことをお教えしようと思います。想像の範囲を出ない部分もございますが……。コトハ様は、今回の黒幕にお気付きでいらして?」
シオン様の質問に、私は言葉を詰まらせてしまった。心当たりというにはあまりにも証拠がないけれど、恐らく、多分、きっと。私の勘が告げている。けれど、その名前を口にするのは、どうしても憚られた。
「……そのご様子を見ると、察していらっしゃるようですね」
「…………蜂、ということですか?」
そう感じる一番の理由は勘だけれど、男たちの会話もおかしかったのだ。
──今より良い暮らしが出来るかもしれない。
──奴隷にでもされるんじゃねえの。
なんとも矛盾した二つの発言。
良い暮らし、は妾か側室か。奴隷は……、まあ、そのままの意味だろう。
「ふーん。多少は考える頭もあるってことか」
「ランドルフ。黙って」
シオン様の制止に舌打ちで返したランドルフ様だが、それでも素直に口を噤んだ。レティが、何もわからないというように目尻に涙を浮かべている。
「何も分からないんですが……、どういうことですか」
「ああ。侍女のお方はアレを目にしたことがないかしら。王宮という巣にこもりきりの、蜂頭よ」
変わらず穏やかな微笑みを浮かべるシオン様のその口から、なんとも似つかわしくない悪態が飛び出てきて、私は思わず目を瞠ってしまった。レティも、更なる衝撃に言葉を失っている。
けれど、当のシオン様はといえば口元を手で覆って、淑やかな微笑みを崩すことすらなかった。
「……あら失礼。嫌いなんですの、虫。ああ、でもコトハ様がお気付きでいらして良かったですわ」
王宮、蜂、蜂頭。蜂といえば、金色だ。レティも、何を指しているか気付いたらしい。
「気持ちわりぃよな、あの蜂頭。俺、あいつきらーい」
「ああああのっ、なんで、どうしてあの御方が、だって、そんなの、意味がわからないっ」
レティのその意見には私も同意だ。だって、誘拐なんかしなくたって。その権威を以て、ある程度のことは命じることが出来てしまう。
──国王陛下は、この国の、頂点なのだから。




