本音と懐かしさ
「ランドルフ。コトハ様を怯えさせないで。大事にしなくては駄目よ」
シオン様が、いかにも粗暴な態度のランドルフ様に苦言を呈す。華奢で儚げな雰囲気のシオン様がランドルフ様のような立派な体躯の男性を咎める光景は不思議だったけれど、まるでいつものことだとでも言うようにランドルフ様は素直だった。
「……ちっ。別に、脅かしてなんかねーよ。何でか知らねえけど、このお嬢ちゃんも俺の本性を見てもビビったりしてねえみたいだし、良いだろうが。あれだけしてやったのにこの俺にオチなかったのは納得いかねえけど」
「お嬢様ああ。まさか、ランドルフ様がこのような方だとお気付きになっていたから、靡かなかったのですか?」
「そういうわけでもないけど……。泣かないで、レティ。それから、失礼なことを言っては駄目。レティからも、助けていただいたお礼をお伝えしましょうね」
べそべそと泣きじゃくるレティの涙を指先で拭き取ってから立たせると、ランドルフ様が頭を掻きむしって溜め息を吐いた。
「別に、礼なんか良い。でも、次にシオンの悪口を言ったら許さねえからな」
「……はい。申し訳ございませんでした。それから、助けていただきありがとうございます」
素直に頭を下げるレティを見て胸を撫で下ろすと、シオン様と視線がかち合う。
神秘的な雰囲気を纏った少女は、優しげに微笑んでいる。
「本当はこんなことになる前にお話したかったのです。……コトハ様、改めて我が家にお招きさせてください。そして、そこで総てを説明いたしましょう」
シオン様は、私の手を引いて起こすと、そのままクロンビー家の馬車へと乗せてくれた。そして、私とレティの二人を連れて、クロンビー家へと向かうようだった。
シオン様もランドルフ様も、この誘拐計画に関与はしていない。けれど、何かを知っているようだった。
「ああ。そうだ、御者と護衛の兄ちゃんは無事だかんな。アンタ、【守り】を付与した石ころを二人に渡してたろ。気絶しちゃいたが、外傷は奇跡的にかすり傷だけだった。つーか、もうちょっと腕の立つ護衛を雇えよ。仮にも【乙女】だろうが」
そう言われてしまうと、立つ瀬が無い。護衛を生業にしているのだから、当然腕は立つだろうし居てもらえたら安全だろうと個人の技量については考えたことも無かったのだ。
「面目ありません。ですが、御者にも護衛にも大事なかったことだけは良かったです」
「……ふん」
隣でレティが歯噛みした気配がする。この乱暴な態度が受け入れられないのだろう。けれど、言葉は荒々しいが、態々助けに来てくれたり、こちらの家の人間の安否を教えてくれるあたり、きっと悪い人ではない。
うさんくさい笑顔で歯の浮くような言葉を並べられるよりずっと好感が持てるし、その口の悪さは遠い記憶の中にある親友の顔を思い出させてくれる。
形が違えば、仲の良い友人になれていたのかもしれない。そんな想像をしてしまうくらいには、懐かしさを感じていた。




