ランドルフの本性
私の予感は、当たった。
「コトハ様っ」
扉を蹴飛ばして、部屋の中へ足を踏み入れたのはシオン様だ。それに驚いた男達のうち一人の鳩尾にすかさず拳を入れたその体捌きは、見事としか言いようが無かった。その後ろで、ランドルフ様がもう一人の胸ぐらを掴んでいる。
「……シオン様」
「コトハ様。遅くなってしまって申し訳ございません。……ご無事でしたか?」
その美しい瞳からはらはらと大粒の涙を零しながら、私の体の縄を解いてくれる。
けれど、レティはそんなシオン様にも警戒心を抱いているようで、彼女に疑念の視線を向けている。
「……【花の乙女】様。貴女様のお屋敷に向かう途中でこのようなことがあったのです。何かご存じなのではないですか? 例えば、こうして助けに来てくださり、恩を売るまでが計画だとか」
不躾なその言葉に、シオン様は怒ることもなく、ただその長い睫毛の影を落とした。
「誓ってそんなことはございません。近辺への治安保持と警戒が杜撰であったことは謝罪すべきですが……、私は、コトハ様を利用しようだとか、害そうだとか、そんなことを考えるわけがないのです」
切なそうに目を伏せるシオン様を見て、いつの間にかもう一人の男をのしていたランドルフ様がレティを睨む。いつもの貼り付けたような笑みとは違って、感情を隠す気もないと言うふうだ。
「おい、メイドの分際でシオンを悲しませるとは良い度胸だな。貴様も捻り潰してやろうか」
「なっ……、貴方もグルだったのですか? 本気でお嬢様に惚れ込んでいると思ったのに。演技だったのですねっ!」
「レティ。落ち着いて。心配してくれてありがとう。でも、シオン様もランドルフ様も、この件には関わっていないわ。……お二人共、改めてお礼を申し上げます。そして、メイドの無礼の謝罪を。私を心配するあまり、錯乱しているのです。ですから、どうか罰などは本人ではなく私へお願いいたします」
「な、お嬢様っ」
私を大事に想ってくれているのは、嬉しい。けれど、やはり今のレティは冷静ではない。付き合いが浅い故に、使用人の無礼を許してくれるような二人なのかは分からないけれど、どうか彼女を罰したりしないでと頭を下げる。
「……フン。世間知らずの小娘だと思っていたが、最低限の常識はあるようだな。謝罪は受け入れよう。だが、次は無い。厳しく躾けておけ」
「ありがとうございます。くれぐれも、肝に銘じます」
ランドルフ様のあまりの変わりように、隣でレティがあんぐりと口を開けている。
けれど、私は、こちらが本当の彼なのだろうなと感じていた。
いつもの貼り付けたような笑みと、いつか見た彼の姿があまりにも違ったから。
前世で親友が見せてくれたアクスタ。
そこに描かれた彼は、この世に怖いものなど何もないというように、不敵に笑っていた。
そう、まるで、今この瞬間と同じように。




